【イルーゾォ】ピタキャラも個性はいろいろです!の続き

私は花屋で働いているのだけど、お花のことは実はあまりわからない。お花の種類は仕事なので覚えたけれど、それに付随する花言葉やらなんやらはさっぱりだ。花束だって、なんかきれい、こうするといいかんじ、ってフィーリングで作ってしまうので、お花屋さんイコールお花が大好きな女の子の店員、なんてイメージの人には大変申し訳ない。好きか嫌いかと言われればまあ仕事にするくらいには好きだけれど、ぐっとのめりこむような気持ちにはなれなかった。

週末はいつも私は休みを取ってのんびり散歩をして心を穏やかにして、また来週のお仕事がんばろう!っていう切り替えに使っているのだけど、今日はなんと出勤している。週末でますって言った時の店長はなんともびっくりな顔で、ちゃんが週末に働くなんてエリート暗殺者が現場を目撃されるくらい珍しい、なんてピンポイントにドキッとするたとえをしたのであははと笑っておいたけど内心はドッキドキだった。怖いこと言わないでほしい。

2週連続そんな現場を見てしまって、3週目には家に引きこもっていたのにトラブルに巻き込まれた。これはもう人目の付く場所にいるしかないなと思って私は出勤を選んだんだ。平和な生活が送りたいなあ、いっそイタリアを出てしまおうかな。私、勉強は好きなので言葉には困らないし。どこでもいい、どこか、イタリアじゃない、ギャングのいない土地へ。

どうせ店長には見えていないので、私はいつも仕事にピタキャラちゃんたちを連れてきている。家に置いておくのは心配だし、もともとちゃんはずっと私のそばにいたんだし。お花屋さんにもいつもきているから慣れたもので、お花の名前あてゲームをして遊んでいるみたいだった。この1週間でおどおどだったピタパタイルーゾォちゃんはみんなになじんできていて、時々意地悪をされているみたいだけど強気な態度で「ドヤッ」とした顔を見せることが増えた。本当は気が弱いのに虚勢を張って強く見せようとするタイプだと推測する。すっごく想像できる、あのイルーゾォさんって人は本当にそんな感じだった。不測の事態にはとことん弱いんだろうな。

そんなのんびり考えていた昼過ぎ、じいさんいるか?って店に入ってきたのは、ものすごく綺麗な金髪の男性と観葉植物のような男性の2人組だった。すっごい美人。あまりに綺麗なのでびっくりして一瞬声がでなくって、なんとか「店長なら、奥に」って声を絞り出して呼びに行こうと背を向ける。その時、観葉植物の視線がが足元でわいわいやってるピタキャラちゃんたちを、捕えた…ような、気がした。動きが止まる。…気のせいだろうか。気のせいだろうな。だって見えるはずがないんだもの。私は店長を呼ぼうと今度こそ来客に背を向けた。

はずだったのだけど、私の腕は金髪の男性に押さえつけられ、もう片方の手で顎をグイと持ち上げられていた。近い近い近い近い何だ!?こわい、なんだ、この、こわすぎる。美人すぎて怖い。目がめちゃくちゃ怖い。真っ青な空より濃い青色の目にうつる私の顔は目の色を差し引いてもきっと青ざめてる。だってこの鋭い目、ぞわっと背中に走った悪寒、それから背後に現れた、たくさんの目のついた腕で立ち上がった大きな……これは…。

「こ、殺し屋ですね!?」
ちゃん!?」

思ったより大きな声がでたので、奥から店長が駈け出してきた。店長、って呼ぼうとした瞬間、目の前が真っ白になる。この光、私は知ってる。金髪の人の背後に跳びあがったピタパタちゃん、君は最高のスタンドだ…めちゃくちゃ強いんじゃないか?えらい、もう本当にえらいよ。目いっぱい褒めて今夜はケーキ買ってパーティしようか。命の危険は去ったよ。ほら、ぽんぽんって2度続いて鳴った音、それからふわりと浮かび上がる新しいピタキャラ。これはもう、私の勝利だ。

「プロシュートさん、うちのが何かしましたか?」
「…いや、なんでもねぇ。こいつってのか」
「はい…そうですけど…」

光もうまれたピタキャラも見えない店長は、私が何かしたのかと思ったらしく私の頭をつかんでぐいっと下げた。痛いけど仕方ない。この人の迫力は間違いなくギャングだった。店長はこのプロシュートと呼んだ男と知り合いだったみたいだから、逆らうなんてもってのほか、こわいんだろう。もめ事を持ちこんじゃったかなあとお世話になっている店長にはとても申し訳なく思うけど、そんなに力入れたら頭割れちゃう…。

「ちょっと借りてくぜ」
「どうぞどうぞ!ちゃん、閉店までには戻ってきてくれると嬉しいよ」
「て、てんちょお…ちゃんは渡せないって言ってくださいよ…」
「いってらっしゃい」

にこやかに手を振られた。面倒なことしやがってっていうのが透けて見えて怖かったからおとなしくでかけておこう。あーもう最悪、仕事にでてたってダメなのか。私はどうしたらいいんだ。もうほんと、国外逃亡かな…。どこに行こう。日本かな。日本でのんびり暮らしたい。日本といえば、私は漢字っていうものに興味がある。1つ1つの文字自体に意味があって、それを組み合わせて単語にするんだって。パズルみたいで面白いよね。その漢字自体も、意味のあるパーツの組み合わせだったりするもんだから面白さは無限大だ。そういうの勉強してみたいなあ。

余計なことを考えて気を紛らわせながら連れてこられた場所は、なんとメローネさんやギアッチョさんが白昼堂々殺人を働いていたあの公園だった。ここ嫌いになりそうだよ。暗殺公園じゃん。

「…お前、俺にスタンドを使ったな?」
「なんのことでしょう?」
「とぼけるなよ」

す、と手がスーツの胸元に差し込まれた。あっこれ知ってる、絶対拳銃だ!私は急いで両手をあげた。素直に手をあげると撃たれる確率はぐっと下がるって、私の脳で統計がでているんだ。

「つかいました!すみません!」
「…ハァ」

プロシュートさん、でいいと思うんだけど、プロシュートさんはため息をついて手を服から出した。何も握られていない。命は繋いだみたいだ。おろおろと見守っている後ろにいる観葉植物さんもほっとした顔をしている。

「危害を加えるつもりはねえ。座れよ」
「は、はい…」
「ペッシ、お前もだ」

観葉植物の人はペッシっていうらしい。植物なのか魚なのかはっきりしないね。膝を閉じてピタキャラちゃんたちを乗せる。万が一のことがあったらまとめて逃げたいから、ちゃんにメローネちゃん、ギアッチョちゃん、イルーゾォちゃんの4人を抱え込む。さっき新しく誕生したプロシュートちゃんとペッシちゃんはどうしよう。ベンチに座った私とペッシさんの間の1人分のスペースに向かい合って立って、何やらじっと見つめ合っている。この2人、きっと仲良しなんだろうなあ。その2人を見るペッシさんの視線は暗殺者…だと思うんだけどとても穏やかで、なんだか癒される感じだ。一方のプロシュートさんは視線は鋭いものの、さっきまでみたいな背中が冷たく冷えるような色は消えていた。

「…さすがにここまで行くと無関係とは言えねーからな。お前に話しておきたいことがある」
「聞きたくないです、っていう選択肢は…」
「ねぇな」

でしょうね。しょうがない、もう、命が助かるならなんだっていいかな…。腕の中の4人をさらにぎゅっと抱きしめる。とっても癒されるんだよなあ。この子たち、心配そうな目で私を見ていて、みんな私のこととっても好きでしょ?って気持ちになる。自分のこと思ってくれる存在っていうのはたとえ人間じゃなくってもいいものだ。

「俺たちはパッショーネの暗殺チームだ。そこにいるちっこいのも全員な」
「メローネさんに聞きましたよ。まじで関わりたくないなあって思いましたし、今も思ってます」
「だろうな。だが関わっちまった。そいつらをさっと消してくれりゃあいいんだが…できねーんだな?」
「私にはなんとも…。ちゃん、できる?」

ピタパタちゃんはふるふると首を振った。それからころんと首をかしげて、よくわからないという顔をする。あざとくってかわいい…。ペッシさんもそれをみて目を輝かせた。可愛いもの好きなのかな。気が合うね。でも暗殺者なんでしょ。触らせないからね。伸びてきた手からピタキャラちゃんを遠ざける。少しだけがっかりした顔をしていたけど、「ペッシ、あそんでんじぇねえ」ってプロシュートさんに凄まれてペコペコと謝っていた。上下関係がはっきりしている。プロシュートさん、強そうだ。

「できねーんだな。じゃあお前、パッショーネに入る気はねーか?」
「……」

驚くと人は反射でも声がでなくなるらしい。びっくりしすぎて何も言えなかった。だって、ギャングにならないかっていうお誘いだ。ありえない。ありえないにもほどがある。私は言葉が見つからずものすごい速度で考えを巡らせていたのだけど、やがてどうにもならなくなって「ありません」とだけ声を絞り出した。

「…突然そんなこと言われても、私は本当の本当に、平和に暮らしたいんです」
「いいか、よく聞けよ。お前は今、かなり危ない立場にある」



それは脅しなんかではなく、もしかしたら私自身の身を案じてくれているのかもしれなかった。ギャングに争いはつきものらしい。特にこのスタンドという特殊能力を持った人たちの戦いというのは激しいもので、しかもそれは自分の意思とは関係なくひかれあってしまうものらしいので(メローネさんも言ってたね)、例えば私がどんなに平和に暮らしたくっても、私がスタンド使いでありピタキャラちゃんたちと暮らしている以上はそういうトラブルに巻き込まれる可能性は限りなく高いということだった。

今まではたまたま私のちゃんが先制できて危ない目にはあっていないけれど、例えばスタンドの中にはそういう能力が通用しなかったり、あっさり人の命を奪ったりできてしまうものだってたくさんあるらしい。そういう悪意ある人に私が見つかった場合、それはとても都合が悪いのだと。私のピタキャラちゃんたちが敵に捕まった場合、彼ら暗殺チームの皆様がどこから攻撃されているかもわからず壊滅してしまう可能性だってある、ということだった。

身柄の保護という観点で、パッショーネの関係者としての立場を確保しておくのはお前にとっても悪い話じゃあないはずだ。そういってプロシュートさんは綺麗な髪を全く乱さずに踵を返して帰って行った。しばらくその話をぼんやり反芻しながら私は花屋へ戻り、店長に面倒ごとを持ち込まないでほしい何度も手を合わされ、とぼとぼと帰路についた。

心配そうにしてくれる小さなみんなと、平和に安全に…、これから、どうやって暮らしていこうか。



私の立場って危険ですか?


(…生ハム、でいいかな…。あ、食べる…)(君は…ブロッコリー?)