【メローネ】ピタキャラって何ですか!?の続き



私の家には、ピタキャラっていう小さなデフォルメされた容姿の生き物が2人いる。1人は私のスタンドで、私にそっくりな見た目。生まれた時から一緒にいたこの子は妖精だと思っていたけど、”スタンド”っていう能力らしい。私の精神力の具現化…って言われたけど、よくわからないね。私は生まれた時から精神力が強かったのかな。照れちゃう。

もう1人は、私にそのことを教えてくれたメローネさんから生まれたピタキャラ。私はピタパタメローネちゃんって呼んでるけど、長いよね。でもそれしか思いつかないし、そう呼ぶとちゃんと反応してくれるからもうそれでいいかなって思ってるんだ。ピタパタメローネちゃんはその名前に反してメロンを食べない。どっちかというと好きじゃないというより嫌いみたいで、メロンを差し出した時のあの絶望した表情はあれ以来1度も見ていない。真っ青というより、もうほとんど真っ黒になっていた。可愛いものに弱い私は、もう二度と自宅にメロンを入れないことを心に決めた。



ギャングの暗殺者と関りを持ってしまったことは私の人生において最大の失敗だと思ったのだけど、あれ以来あちらからの接触はない。私がピタパタメローネちゃんに危害を加えていないことは体で理解しているのでどうでもいいのか、私をこっそり消してしまうために計画を練っているのか。後者だったら嫌だなあ。

そう思っていたのも2,3日で、楽観的な性格の私は一週間もすればピタパタメローネちゃんは何年も前からうちにいたようなつもりになって、その誕生の経緯についてなんてものはすっかり忘れていた。余計なことを深く考えるのはよくないだろうし、忘れたかったので。都合の良いように物事を忘れられる自分の性格をほめてあげたいなあって、思っていたのだけど、世の中ってそう…うまくできてはいないらしい。



なんで、二週間連続で、私は殺人現場に出くわしてるんだろう。



さよなら私の平凡な日常、さよなら私の平穏な人生…、って、悲観にくれている場合ではなかった。先週と違って、私は殺人のその瞬間を真正面で目撃してしまった。いや、おかしいでしょう、って、文句を言いたい気持ちでいっぱいなんだけど、休日の公園の隅で仕事をするっていうのはどうなんですか。だめでしょう。私は本当にただのんびりと散歩をしていただけなんだよ。本当に…、こんな現場目撃したくなかった。2mくらい先でうつぶせに倒れている男性の背中には大きな穴が開いていて、大量の血が流れだしている。倒れて少しの間はうめき声をあげていたけどそれはもう聞こえなくなっていて、私は生まれて初めて人間の命が途切れる瞬間を見てしまった。気持ち悪いとか怖いとか可哀相とかそういう風に整理して「こう思った」って表現できるようなものじゃあなかった。胃の中身がぐるぐるして気持ち悪い。

男性の向こうに立っている水色頭のくるくるの少年はどう考えてもカタギの人間じゃないだろう。氷みたいなものをまとっていたし、あれはきっと先週メローネさんに教えてもらったスタンドというものな気がする。そういえば、別れ際にメローネさんが「スタンド使いっていうのは引かれあうらしい、今まで本当に周りにいなかったのか?」って言ってた気がする。なるほど、私はこの人と今まさに引かれあってしまったというわけなんだな。…スタンド使いってみんな人殺しなの?

とか考えている場合ではない、本当にそんな場合ではない。私を睨みつけて冷気を出している水色頭さんは絶対私を殺すって決めてる顔をしている。逃げたいけど、寒くて寒くてもう足も手も動かないし、奥歯はかみ合わずガチガチなっている。どうしよう、私が死んでしまったら…ピタパタちゃん、ピタパタメローネちゃん、どうなっちゃうの。ちゃんと自我があって行動するあの子たちのこと、私は私なりに護ってあげたいって思ってるんだ。死んでたまるか。先週と比べてずっと前向きな気持ちなのが不思議だった。多少なりとも回避できる案を思いついているからかもしれないね。私はこっそり背後に呼び出していたピタパタちゃんに、寒いけど、お願い、あの人を”ピタキャラ”にしてもらえないかな。ってお願いしてみた。

見えないけれど、満面の笑みを浮かべて頷いてくれた気がする。頼りにしてるよ。ピタパタちゃんは目にもとまらぬ速さで水色頭さんとの距離を詰めると、驚愕に目を見開いた彼を包み込んで、一週間ぶりに見る眩しい光を放った。





「それでですね、これは私のスタンドで、これはピタキャラって言うらしいですよ。ピタパタギアッチョちゃん、うん、かわいい、かわいいじゃないですか!あは、髪の毛クルクルってしてる」
「ッざけんなよお前…!」

ガン、と机をたたきつけるので、ギアッチョさんの紅茶がこぼれた。ピタパタちゃんが小さな身体でおしぼりを引きずって零れた紅茶を拭いてる。かわいい…。ごしごしと小さな生き物が自分の汚した机を綺麗にしようとするのは、さすがの殺人犯でも気が咎めるらしい。おしぼりを奪い取って自分で拭こうとしたらしいんだけど、勢いがあったので引っ張られてピタパタちゃんが後ろにひっくり返った。私が慌てて手を伸ばす前に、近くをうろついていたピタパタメローネちゃんがそれを支えてくれる。なんかこの2人、うちで暮らしている一週間のうちにずいぶんと仲良くなったらしい。ありがとう、当然のことをしたまでだよ!なんて会話をしているのを、少し距離を置いた新入りのピタパタギアッチョちゃんがじっと見つめている。仲間に入りたいのかも。背中をちょん、と押してやったら、ピタパタギアッチョちゃんはちらりとこっちを向いてから、おずおずと2人の方へ歩き出した。可愛すぎる。何これ楽園か?

その様子を複雑そうに見ているのは本体の方のギアッチョさんだ。なんと彼、メローネさんとおんなじチームの暗殺者らしい。殺人現場に鉢合わせたのは当然悪いことだったんだけど、多少つながりのある人ならほんのすこーしだけマシだったなと思う。

「おめーのことはよ、メローネに聞いてたんだ」
「へえ、天使に出会ったとでも言ってたのかな」
「…よく真顔でそんなことが言えんな。クソ厄介なスタンド使いの女に分身作られて攻撃できなくなったから気を付けろよ、って……クソクソ、厄介なスタンド使いっていうから俺はてっきり強そうな女かと…」
「まあ、私は本当に平凡な一般市民だし。気づかないのも無理ないですよ」

眼光が鋭いのでとってもこわい。ギアッチョさんは一睨みで人間を殺せそうな迫力を持っている。メローネさんはメローネさんでまた迫力があったけれど、方向性が違うやつだ。一方のピタパタギアッチョちゃんは…ピタパタちゃんとピタパタメローネちゃんとすっかり仲良くなったみたいだ。ピタパタちゃんが私の部屋にあるドールハウスの間取りを紙ナフキンに描いて、どこのお部屋に住みたいのか希望をとっているらしい。大きいおうちにしておいてよかった。

「クソ、余計なことしやがって…本当にそいつは消せねーのか?」
「無理みたいなんですよね。まあ、可愛いからいいじゃないですか!」
「よくねーよ!チッ、消せるならメローネがとっくに消してきてるか…」

その消すってどこにかかってるんだろう。知りたくない気がする。とりあえず、ピタパタメローネちゃんと一緒にピタパタギアッチョちゃんも引き取るから、何かあったときのために連絡先が知りたい。ギアッチョさんは、教えるわけないだろと低い声で言った。

「ん、まあ、メローネさんの連絡先はわかるので最悪連絡はとれると思うからいいかな…」
「…メローネがよく教えたな」
「”あなたの子なのよ、私、あなたと連絡が取れなくなったら…!”って大きい声で言ったら、すぐに教えてくれたよ」
「最低な女だな」

メローネさんにも似たようなこと言われた気がするよ。でも私はできるだけ安全に生きるためにそうしただけであって、ギャングの暗殺者のあなたたちに言われたくないなっていうのが正直な気持ちです。あんな目立つところで人を殺しておいて、目撃者まであっさりやっちゃおうとするんだから最低はどっちだ。なんて、怖いから言えない。メローネさんにだったらたぶん言えたけど、ギアッチョさんはだめだ。だって本当にマジにこわい。

「…そいつに何かあったときに、間にメローネを通されるのは面倒だ」
「はあ」
「あいつは…連絡がマメとは言えないし、面白がって連絡をとめる可能性もある」
「じゃあ、ピタパタギアッチョさんに何かあってもギアッチョさん本人には何もお知らせできない、ってことで」
「はあ!?なんでそうなるんだよ、クソッ…察しの悪い女だな!教えるって言ってんだよ、連絡先」

びっくりしてしまった。ギアッチョさん、思ったより悪い人じゃないかもしれない。なんていうか、そもそも落ち着いて人と話すのに慣れていないだけなのか、な?携帯電話を机にバンと叩き付ける。壊れますよって言おうと思ったけど、本体に大きく入っているヒビを見て言うのはやめておいた。そんな忠告は無意味だからそうなってるんだろう。

「…一応確認しておきたいんですけど、メローネさんご本人はここ一週間体調に異常があったりはしないんですか?」
「さあな…不調があっても隠すとは思うが、そういえば今週はなんか機嫌がよかったぜ」
「へえ…、多少は連動するのかなあ。ね、どうなんだろうね」

机の上にいるピタパタメローネちゃんの頬をつついてみる。くすぐったそうに身をよじって笑って、それからつついている指を両手で捕まえて指先にキス。これ、ピタパタメローネちゃんのクセらしい。指を差し出すと捕まえてちゅってしてくるの。すっごく可愛くってされるたびに身悶えてしまう。ときめきで胸がしめつけられる。そんな私を、ギアッチョさんはとっても冷めた目で見ていた。

「…まあ、どうでもいいがよ、そいつに…変なことはすんなよ」
「え、それってえっちなこと?」
「バッ……!?女がえ、えっちとか言ってんじゃねー!」

メローネさんにも同じことを言われたので同じことを言ってみただけなんだけど、ギアッチョさんは突然真っ赤になって立ち上がった。出会ってから今までの1時間ほどで最も大きな声とどもり具合だ。童貞なのかもしれないね。



今日はちゃんとお財布を持っていたので自分の分はちゃんと支払おう、と思ったのだけど、なんとギアッチョさんはさらっと伝票を掴んでまとめて支払ってしまった。出します、って言ったのに、んな恥ずかしいことできるかよってぶっきらぼうに一言。やっぱりギアッチョさん、悪い人じゃあないんじゃないかな…。グラッツェ!って笑ってみたら、ピタパタちゃんも小さい声で「グラッツェ!」って投げキッスを飛ばしていた。こういうの怒るのかなって思ったんだけど、それを見て少しだけ困ったような顔をして柔らかく笑っていたので、うん、これはもう、実はそれほど悪い人でもないっていう評価に変更だ。視線で人を殺せそうだけど、きっと心の奥底は良い人。きっとピタパタギアッチョちゃんもそんな性格の可愛い子になるんだろうな、今後が楽しみだ。

お別れの前にしっかりと好物も聞いておいたし、今日の私はなんだか完璧って気がしてきた。家に帰ってから、そもそも殺人現場に出くわしちゃう1日は完璧でもなんでもないなって気づいたよ。でもまあ、家族が増えたからいっか。



2人目のピタキャラさんです!


(それにしても、好物の氷って…ほんとうにただの氷?わっ、食べた!)