超能力って信じるだろうか。

私は小さなころから不思議な妖精と一緒にいた。その妖精はデフォルメされた私みたいな容姿をしていて、喋り方も私とほとんどおんなじ。サイズだけは手のひらに乗るくらいのサイズで小さいけれど、出たり消えたり、自由気ままに私の傍にいた。超能力というよりは霊感があるとかそういう類のものかもしれない。いつだって一緒にいるその妖精は私以外には見えていないらしくって、その子を住まわせてあげるために買ったドールハウスは両親からしたら空っぽの家を愛でる娘ということでさぞかし不思議だっただろう。

妖精さんは自分はすごい力を持っているんだとよく言っていた。なんでも、人を”ピタキャラ化”できるらしい。そんなこと言われても、私はその”ピタキャラ”というものを知らないのでよくわからなかった。ただなんとなく、それを言った時の妖精さんは…ピタパタちゃんはどこか誇らしげだったので、それができる自分の能力は誇りなんだろう。たぶん。

そんなイマイチつかみどころのない妖精、ピタパタちゃんと私はいつだって一緒にいて、成人してひとり暮らしをしてからも変わらなかった。だからもう、彼女の存在は私の中で自分とイコールになっていたんだ。その能力のことだって実を言うと忘れていた。今日、たった今この瞬間までは。



特に目的もなく散歩していただけだ。それはなんも悪いことじゃないはずだ。悪いことがあるとすれば、休日の昼間、公園なんていう公共の場で人を殺したあなたじゃないか。なんてことを殺人犯に言えるような度胸はなかったので、私は何も見なかったことにして立ち去りたかった。通報は市民の義務ですよ、なんて、知ったことか。私は面倒ごとと怖いことは嫌いだ。関わらないに限る。なのにそんな時に限って、お約束っていうんだろうな、小さな枝をパキリと踏んで音を出した。振り返る殺人犯。短い人生だった。

現場を見られてしまったからには私も処分されるんだろう。彼はずいぶんと綺麗な顔をしていたけれど、マスクで隠されていない方のグリーンの瞳をすっと細めて、その横にいるなんか…モンスターみたいなものに声をかけた。モンスターがこちらへ歩いてくる。と、冷静に考えていたけれど頭の中は大混乱。何そのモンスター、本当に何、なんだそれ。

「な、ななな、なんですか、それ…」
「…君、そいつが見えるのか?」

見えるも何もいるじゃないか。何いってるんだ、私はそこにいるものを見落とすほど視力は低くない。うん、見える、何それ、と、もうどうせ死んでしまうならと頑張って声を出してみた。すると彼はとても驚いた顔をして、それから少しだけ考えるようなそぶりを見せた。モンスターは立ち止まる。あれ、もしかしたら助かる可能性…が、

「まあ、見えたところで関係ない。やれ、ベイビィフェイス」

なかったみたい。幸せな人生だった…かな?わかんないけど、私どうやら死ぬらしい。つらい。そういえば、私が死んだらピタパタちゃんってどうなるんだろう。あの子私といつも一緒にいるけれど、もしかしたら一緒に死んじゃう…なんてことになったらちょっとだけ申し訳ない。すごく申し訳ない、なってならないのは、だってこの状況は私が悪いんじゃないからだ。私に悪いところがあるとすれば枝を踏み折ったことくらい。

ベイビィフェイスって呼ばれたモンスターが迫ってくる。悪魔みたいな見た目してる。頭痛そう。あれで頭突きされるのかな…。こわいな。そう思ったら、私の中からピタパタちゃんが飛び出した。ピタパタちゃんは手のひらサイズの妖精で、全長15cmくらいの小さな存在だ。あの頭の角で貫かれたらひとたまりもない。危ない、そう言おうとしたら、ピタパタちゃんが一瞬で金髪マスクのイケメン殺人犯の目の前に移動していた。あの子あんなに早く動けるんだ。びっくりしたけど、向こうはきっともっとびっくりしただろう。緑色の目がぼろっと落ちそうなくらいに見開かれている。

そうしたら、眩しい光があたり一面に満ちて―――……





「……私だって、私の、ス、スタンド?に、こんな力があるなんて知らなかったんです…」
「あんたが知ってるか知らないかなんてどうでもいいんだよ、いいからそいつを消せよ」

公園でもうだめだって思ったら、ピタパタちゃんが金髪マスクのイケメン殺人犯メローネにとりついて強烈な光を放った。そうしたら、私の手のひらの中でもぞもぞと動く感覚がして、それはなんとピタパタメローネさんだったのだ。

なんでかわからないけど、私はその瞬間にメローネさんのすべてを理解してしまった。あのモンスターはベイビィフェイスといって、メローネさんにとっては私にとってのピタパタちゃんみたいな存在であること。物を分解して作り変える能力をもっていること。メローネさんはその子を生み出すために、そこにいる人の前にもう1人女性を殺していること。他にもいろいろわかったけど、1番有益だった情報はピタパタメローネさんがいる限り、彼が私に攻撃できないということだった。

いったいどういう仕組みでそうなるのかはわからないけれど、私に攻撃しようとするとピタパタメローネさんがダメージを受けて、それはメローネさん自身に跳ね返っているらしかった。なんだそれ、最強じゃん…。そう言ったら、ピタパタさんはものすごく自信満々な表情で胸を張ったので今までで1番に可愛く見えた。なるほど、ずっと言っていた”ピタキャラ化する”ってこういうことだったんだ。

ピタパタさんと同じ等身のピタパタメローネさんは、ダメージを受け止めたり跳ね返したりできる以外は普通に自我があって行動するみたいだった。その性格がメローネさんに似ているのかはわからないけれど、机の上で組んでいる私の指先にずっと頬をすりすりと押し付けている。あまりにも可愛らしいので食べていたケーキをあげた。おいしそうにクリームを食べる様子を見たピタパタさんが怒った顔でじたばたしてピタパタメローネさんを突飛ばそうとしてやり返されて、小さな体で取っ組み合いを始めたので慌てて2人ともにケーキを追加で注文してしまった。可愛いものにはつい甘くなってしまうよねあ。ちなみに、ピタパタメローネさんはたぶん20cmくらいあるんじゃないだろうかっていうサイズをしていた。元の身体の大きさによるのかもしれない。

「消せって言われてもね、どうにもならないし…。さんは消せるんだけどね」

消すというか引っ込めるというか、そういう感覚でピタパタさんのことはひっこめることができた。けれどピタパタメローネさんはそうもいかないみたいだ。

「でも、可愛いし、出ちゃったものはしょうがないんだからこのままでもいいんじゃないですか?可愛いし、私に懐いてるみたいだし…。ちゃんと面倒は見ますよ」

ね?と首をかしげてみたけど、メローネさんの顔は険しかった。ピタパタメローネさんがうまれたことで私は彼についてのほとんどのことを知ってしまったのだけど、どうやらメローネさんはギャングで、暗殺を仕事にしているらしい。ほんとーに関わらなきゃよかった。

「とりあえず、俺はそいつが存在すると困るんだよ。ていうか自分のスタンドもろくに制御できない、能力も知らないなんて…あんた、ほんと何なんだ?」
「そんなこと言われても、この子がスタンドっていうのだって今日知ったのに」
「……どうしたらいいんだよ…」

頭を抱えてしまった。困ってるみたいだけど、私だって困ってるよ。だからお互い様じゃない。相手がギャングでも殺人者でも、私は彼が直接私に攻撃できる手段を失ったらしいことで調子を取り戻していた。大丈夫大丈夫、なんとかなるなる!そういえばもう絶望的ってくらいに嫌な顔をして私をにらむので、超おもしろい、とさらに笑ってやった。だって、私からしたら他人事だからね。

「できちゃったものはどうしようもないじゃない、あなたの子だと思って大切に育てますよ。何かあったら連絡するから、連絡先だけ交換して今日は解散しませんか?」
「誰が得体のしれない女に連絡先なんて教えるかよ」
「…で、でも!あなたの子なのよ、私、あなたと連絡が取れなくなったら…!」

公園から移動した私たちがいるカフェは、お昼は過ぎた時間だけれどまだまだ席はほとんど埋まっている人気店だ。だから大声でそんなことを言えば当然のように注目を浴びるし、その言葉から注目は避難の視線になってメローネさんに降り注いだ。

「ああもう、なんて女だ!クソッ…、わかったよ、教える、教えるから大人しく座ってくれ」
「そう、そうしてくれれば助かる。私はこの子が可愛いから、ずっとこのまんまでもいいんだけどね」
「今日はいったん引き下がるけど…変なことしないでくれよ」
「それってえっちなこと?」
「馬鹿なのか!?踏んだり蹴ったり煮たり焼いたり、とにかくそういう痛めつけるようなことだけはよしてほしい」

その目は真剣なので冗談じゃないことはわかるんだけど、ただの一般人の女がそんなことをすると思っているんだろうか。ギャングってそういうのが日常なのかな。こわいね。

「その頼みを聞くには、1つだけ条件があります」
「…なんだよ」
「私お金持ってないの。ここの支払い、お願いしていい?」
「あんたが店に入るって言ったんだろ…!?ほんとに信じられない女だな!」

嫌悪感しかなかった表情は話しているうちにどんどん悪い感情が抜けて柔らかめになっていったけど、最終的にはこの呆れた顔に落ち着いたらしい。お金ないの、忘れてたんだよね。助かりました。

店を出て本当におかしなことはするなと念を押されて別れた。念のため連絡先は交換したし、何かあれば連絡するとは言ったけれど、私は特にこの先彼とかかわりになるつもりはなかった。だってギャングだし、絶対絶対に関わりたくない。私はピタキャラちゃん2人と幸せな生活を送るんだ。これ以上の面倒ごとには、巻き込まれたくなんかないからね。



ピタキャラって何ですか!?


(もしもしメローネさん、昼間ぶりです。
 あの、好きな食べ物を教えてください…。
 この子、お腹空いたっていうのになんにも食べなくって…
 ええ、はい、……わかりました、ありがとうございました…)

(メローネっていうくせに、メロンを食べないなんて想定外だ!)