【ギアッチョ】2人目のピタキャラさんです!の続き



3週連続で殺人現場に出くわすなんてことになったら、私はさすがに自分の不運を呪ってしまうよ。そんなことそうそう起こるわけないけど、でもなんか、すっごく嫌な予感がしていたので、私は週末恒例の散歩に出かけるのを諦めた。外はぴかぴかに良い天気、とっても出て行きたかったけれど、危険な目にあうのはごめんだ。いつもだったら家にいるのは退屈で散歩に出かけないなんてありえない選択だったけれど、今はこんなにかわいいピタキャラちゃんが3人もいる。だからまあ、家にいても退屈はしないしね。安全が1番だよ。

ピタキャラちゃんたちは、私がボーナスで買った立派なドールハウスに住んでいる。1階の真ん中にちゃん、その向かって右隣の部屋がメローネちゃん、反対隣にギアッチョちゃんと3人並んでいるけれど、基本的には机のうえでわちゃわちゃと遊んでいることが多い。

ちゃんは昔からお絵かきが好きで、自分の身体より大きなノートとペンで器用にお絵かきをする。これが結構上手で…たぶん親馬鹿とかではないと思うんだけど、なかなかなものなので、私はその落書きノートを1冊残らず全部保存してある。スタンドも成長するらしく、その絵は年々うまくなっていくのが見ていて面白い。

メローネちゃんは、まだ2週間の付き合いなんだけど、ちゃんとすっかり仲良しだ。家の中で歩き回るにも手を繋いでいたりするし、ほっぺにちゅーとかしちゃうみたいだ。ちゃんは嬉しそうにしたり照れてみたり楽しそうで、そういうのを見ているとギアッチョちゃんがぐいっと押し入って2人を引きはがす。すると、ちゃんとメローネちゃんは顔を見合わせてにやっと笑ってから、ギアッチョちゃんの両頬にキスをしたりして、ふくざつな三角関係みたいだ。本当に可愛いなあ。

にぎやかな3人を眺めながら家でのんびり過ごすの、悪くないかも。窓の外から差し込む太陽の明かりは外にいるのと同じくらい心を癒してくれるし、たまにはゆっくり紅茶でも入れて本を読むのもいいよね。買うだけ買って読んでいない本も1冊や2冊じゃなかったので、私はリビングのソファに横たわって読書を始めた。暖かい日差し、柔らかいソファ、適度な人の話し声。そんな環境でうとうとし始めるのに時間はかからなくって、私の意識は夢の中にゆっくりと沈み込んでいった。



そんな穏やかな休日を台無しにしたのは、「許可しない!!」っていう知らない男性の叫び声だった。ぱっと目が覚めた私はまず窓の外を見た。何かもめごとかと思ったから。誰もいない。真後ろの通りじゃないのかも、まあ、見える範囲じゃないなら関係ない。もめ事とか面倒事とか、そういうのには関わりたくないからね。無理矢理目を覚ましてしまったのでちょっと頭が痛い。紅茶はすっかり冷めていたので、入れなおそうかなって思ってリビングの方を振り向いた。そうしたら、なんということでしょう、ピタキャラちゃんが1、2、3、…4人…と、知らない成人男性が1人…。

「な、ななななな何!?誰ですか!?け、警察…!」
「お、おいやめろ、まってくれ、通報は許可しない…!」
「それ決めるの私ですよね!?あなたの許可なんて要らな…むぐ」

さっと血の気が引いた。すごい速さで距離を詰めてきた髪の毛をいくつかに結んだすっごく特徴的なヘアスタイルの男性が私の口を抑え込んだから。こ、殺される…!家から出なくてもこれなの!?運が悪すぎる、最近の私どうしちゃったんだ?やだ、やめてほしい、超怖い…!口を押える力は強いし手のひらも大きいので、ほとんど呼吸ができない。男性はすっごく焦ってるみたいでおろおろしてるし、ていうか玄関の鍵しまってるはずなのに中にいるこの人本当になんなの、どうやって入ったの…って困惑していたら、視界の端でちゃんが動いた。

そういえば、4人目の謎のピタキャラちゃん、この人にそっくり…

「いってえ!!」
「わっ!は、はあ、助かった…」

ちゃんが、成人男性そっくりなピタキャラちゃんの後頭部を思い切りひっぱたいた。それに続いてメローネちゃんもギアッチョちゃんもビシバシと暴行を加える。ピタパタ謎の男性ちゃんはピタキャラになればやっぱりかわいいので可哀想なんだけど、本当に可哀想なんだけど、今はそのダメージのおかげで逃げられたのでいいぞもっとやれっていう気持ちです。ごめんね。いくら可愛いものに弱いとはいえさすがに自分の命の方が大事なんです。

とりあえずピタキャラちゃんたちに駆け寄って、暴行されてる子を助けてあげた。すっごい泣きながら抱きついてきたので、あの人は結構うたれ弱いんだろうなと察する。ピタキャラちゃんって、本体の性格を結構そのまま引き継いでくるらしい。メローネちゃんは甘えんぼだし、ギアッチョちゃんは寂しがりなのに強がりだし、この新入りちゃんは泣き虫だ。さっき私の口を押えたときもその後どうしようって結構おろおろしていたもんな。

ダメージから立ち直ったらしい男性は、私があきらかに敵を見る目をして携帯電話でいつでも通報できる準備をしているのを見て降参したように両手をあげた。

「まずは落ち着いて話をしよう」
「不法侵入者の提案にしてはまともですが、落ち着いたところであなたは不法侵入の不審者です」
「頼む聞いてくれ…!俺はメローネとギアッチョの仲間だ!」

あーなるほど。私は察しの良いほうなので、この2人を取り戻しに来たか様子を見に来たか、もしくはピタキャラを作られていない仲間に私を処分させようとしたんだなと思い至った。危険じゃないか。どう考えても敵。どのパターンでも敵。様子を見る…だけならいいけど、可能性は低いと思った。選択肢の中で、最も可能性が高いのは。

「ピタキャラにされていない仲間に私を処分させようとしたんですね?それに失敗した、と」
「うぐ……、そ、そういうわけでは…」
「じゃあ、この子たちの様子を見に?元気に育ってるかな〜って」
「…そ、そう、それだ」

嘘へったくそだな〜!大丈夫なのかなこの人。あの2人の仲間ってことは暗殺者…なんだよね?ギャングなんだよね?うたれ弱くて嘘のつけない人って心配なんだけど、仕事できるのかな?あ、すっごくそういうのに向いてるスタンドを持ってるのかもしれないね。ターゲットの血液を使って女性を1人犠牲にして子どもをうむ、とか、めちゃくちゃ寒くする、とか、人間からピタキャラをうみだす、とか、スタンドっていろんなのがあるみたいだから。そういうのもあるのかもしれない。体から心臓だけ取り出してみるとかね。そんなのあったら怖すぎるけど。

「うーん、まあ、そういう目的ならそこでピタキャラちゃんたち見ていてもいいですよ。…なんて言うわけないじゃないですか!今すぐ出て行って、あなたの好物だけ教えて今すぐ出て行って!じゃないと通報です!」
「わ、わかった、わかったから!好きなものはトマトだ!通報は許可しない…!」

完全にこっちが有利だって自信を持って言えるほど狼狽えるので、私は少しだけこの人のことが可哀想になった。チーム内での立場が弱そう。黒髪の人はトマトが好きだと叫ぶと、鏡の中にすうっと消えて行った。な、なにそのスタンド…。なるほど、そこから入ってきたんだな。家じゅうの鏡を裏返しにしておいた方がいいのかもしれない。寝起きでドタバタとやり合ったのでちょっとくらりときたけれど、普段から栄養のあるごはんに適度な運動を心掛けている健康な私はふるりと頭を振って復活した。まったく、慌ただしい日になってしまった。

机の上にとりのこされ不安そうにきょろきょろしているピタパタ……

「誰だ君!?」

名前を聞くのを忘れたね。あちゃー、と頭に手をやった私に、新入りのピタキャラちゃんは申し訳なさそうに頭を下げた。はあ、ものすごく可愛い。癒しの力が強い。ビシバシと叩かれたからか他の3人とも距離を置いてびびりまくりのこの子があまりにも可哀想なので、私はすっごく嫌だったけれど2週間ぶりにメローネさんの声を聞くことにした。


ピタキャラも個性はいろいろです!


(ああ、そいつイルーゾォだよ。なんだあいつ失敗したの?情けねえー)
(やっぱり、立場弱いんだ…かわいそう…)

(…失敗って、何をだろう)