月曜日、私は今週中に仕上げるべき作品の数を確認する。今週は3体。少ないのでのんびりやっても大丈夫。くまとねことそれからうさぎ、サイズはだいたい30センチ。威力は人が死なないくらい。依頼主のことを考えながら生地を選んで裁断する。こんなかわいいぬいぐるみ、彼にはあんまり似合わないね。

のんびりやっても大丈夫、とはいえ私は作業がはやい。翌日形になった1体目のくまの目は、きらきら光る赤にした。赤色に映る私は嬉しそうな顔をしているけれど、私を映す赤色は無表情だ。あっちに座って待っててねと言えば、くまは重たいおなかを抱えてゆっくりと立ち上がった。

水曜日にはうさぎが立ち上がった。垂れた耳のうさぎは四足で歩いたので私はちょっと驚いて、同じぬいぐるみでも自意識とかこだわりとかそういうのがあるのかもしれないと少しだけ考え込む。そんなこと知ったこっちゃないうさぎはくまの横に収まって、真っ黒な目に散らかった部屋を映した。

予定が変更になっちゃって、どうしても明日の夜までに欲しいんだ!木曜日に駆け込んできた彼は申し訳なさそうに手を合わせて頭を下げた。くまとうさぎを見て目を丸くして、ミシンでがたがたとつなぎ合わされているねこを見てほっとした顔をする。任せてよ。あなたのために頑張っちゃうよ。

金曜の朝気合いを入れて丁寧に仕上がったねこの目は彼とおんなじグリーンに光る。背中をとんと叩けばねこはしなやかにしっぽをゆらし二足歩行をした。君は足で歩くんだね。部屋を訪れた依頼主は3体を大切そうに抱えて、グラッツェ、とお金の入った封筒を机に置いた。お仕事、いってらっしゃい。

寝て過ごす土曜日の昼過ぎに、静かに訪れたメローネはご機嫌だった。君のぬいぐるみは完璧だと両手を広げて立っているから、昼寝で重たい体を起こしてその両腕に飛び込んでみる。ほのかな火薬と血の匂い。あの子たちはちゃあんと役に立ったんだね。小さくてフワフワの、彼の仕事の道具として。

そのまま2人で寝てしまった日曜日、来週はこれだけのぬいぐるみが欲しいと新しい注文を受ける。来週は少しだけ忙しそうだ。ふと目についた依頼書に、爆弾のない”ただのぬいぐるみ”があった。珍しく、白くて毛足の長い赤目のウサギ、だなんて細かい見た目の指定付きで。

珍しいね、と口にすれば、メローネは珍しく口ごもった。少しの間をおいて出てきた答えは、君のぬいぐるみ、部屋に置きたくて。なんてあまりにもかわいいものだったから、私はとっても嬉しくなって声を上げて笑ってしまった。

メローネってかわいいね。うでによりをかけてつくっちゃうよ。火薬の代わりは盗聴器でどうだろう。そんな心をよんだみたいに、メローネは「盗聴器なんかいれないでくれよ」と言って笑った。何だ、バレちゃった。メローネってば何でもお見通しね!


2019.01.20



★作ったぬいぐるみに命を吹き込めるスタンドのぬいぐるみ作家に殺人用の爆弾ぬいぐるみ作ってもらってるという話
勝手に動いて女性を引き寄せたうえで適当に死なない程度に爆破できたらベイビィフェイスに便利かなって…