※原作通りにすすんでジョルノがボスになった後のはなし


私の一週間が始まる。月曜日、朝日が昇るのと一緒に目を覚ましてベッドから出て、今日も元気に咲いてねと話しかけながら皆にお水をあげる。まだ少し肌寒い時期だけど、水を受けて綺麗に光る花たちは寒さなんてへっちゃらな顔をして笑った。良い一週間になりそう。

火曜日、いつも訪れる金髪の少年にいつもの花束を渡す。花束の代金としては随分と多いお金を置いていくので困るのだけど、彼が乗ってくる黒塗りの車はいかにもカタギじゃあないので抵抗もできず受け取ってしまう。真っ白な菊の花束を抱える彼はいつだって少し切なそうに目を伏せるのも…理由の1つだ。

水曜日。定休日だからといって家でごろごろするわけではなく、お店に並べるお花を見に行く。色とりどりの花は良い香りで私を癒やしてくれて、これがあるから私はいつだって頑張れる。ピンクや赤、明るい色が好きだけど、最近は中でも黄色い花を多く選んでしまう気がする。これはどうしてなんだろう。

近所のリストランテへ花を届ける木曜日はちょっぴり緊張する日だった。この店の奥の部屋にはよくギャングのチームがいて、言い争うような声が聞こえることも多いから。けれど最近はあの声は全く聞こえなくなった。ほっとするはずなのに、それはなんだか寂しい気もする、不思議な気持ちだ。

金曜日は小さな花のラッピングが多い。花束には届かない数本の花をフィルムで巻いてリボンを結ぶ。受け取ってくれる誰かの笑顔を想像し私の顔までほころんで、大切な子どもたちを見送るような気持ち。幸せになるのよ。誰かを幸せにしてね。その愛情は、花の香りになって渡される人に届くのだ。

雨が降っている音で目覚めた土曜日、私は外にある花を慌てて店内に運び入れた。天気予報が外れるとこうして慌ただしい朝を迎えることになるけれど、予定外の早起きをした朝のエスプレッソはいつもよりずっとおいしい気がするし、余裕のある1日が始まる予感は私をうんとわくわくさせた。

すみませんと呼びかける声に振り向いた先にいたのは日曜日に来るのは初めての金髪の少年だった。白い菊の在庫をとっさに確認する。彼は苦笑して今日は違うんですと告げると、真っ赤な薔薇の花束を注文した。恋人か想い人への贈り物だろうか。どうか、彼の愛が伝わりますように。

彼の愛が伝わるよう祈りを込めて結んだリボンの先がカールして跳ねる。どうぞ、と少しだけ余裕をなくした笑顔を向ければ、彼は受け取った花束をそのまま私に返した。気づいたら、あなたのことが好きになっていました。なんの飾り気もないシンプルな告白だ。彩るのは薔薇の花束の真紅だけ。

私のお祈りを花に込めてくれる小さな妖精が飛び出してくるりと跳ねて、くすくす笑った。あなた、私にも力を発揮するのね。自分で込めた香りで火照った顔をそらしたら、目に飛び込むのは最近増えた黄色い花たち。…ああ、なんだ、お祈りのせいじゃないみたいだ。

最近増えた黄色い花と、同じ色の髪をした少年を見上げる。薔薇の花束に負けない満開の笑顔で返そう。私も、あなたのこと好きみたい。まずは名前を聞いて、それから…お仕事のことは聞かないで。白い菊の花束を届ける場所に行くときに、隣に寄り添える人になりたい。

2019.01.17


補足がいる時点でお話として成り立ってないんですが、花屋の娘は「お花を渡す人から渡される人への愛情を花の香りに込めて正しく伝える」みたいな力のスタンド…という設定
毎週少しだけ寂しそうに墓参りへ行く少年だと認識していて、その寂しさを癒してあげられないかしら、という動機から好きになっていった、みたいな