「メリークリスマス!」

パン、とクラッカーの弾ける音がして、部屋に入ってきた承太郎は足を止めた。目を見開いたり、肩をビクリとさせたり、そういうリアクションをとらないところは実に彼らしい。

「ねえ、びっくりした?びっくりしたでしょ。びっくりしたよね?」

それでも、驚いたと言わせたいらしいは、頭2つ分は差があるであろう下からその顔を覗き込んで、にこにこと笑顔を作った。それを見たホリィも手には使用済みのクラッカーを持ち、ものすごくうれしそうな顔をしている。ひとつ、小さくため息をついた。

「ああ、ものすごく驚いたぜ」
「やったー!ホリィさん、承太郎びっくりしたって!」
「きゃー!やったわねちゃん、大成功よ!」

2人は駆け寄ってハイタッチを交わす。この騒がしくも鬱陶しい2人は、片方は承太郎の母親で片方は恋人だ。この恋人は自分よりも母親の方が仲が良いのではないかと言うほど家に入り浸っていて、年齢のこともあってか近所では結婚している関係だと思われている。すでにの部屋もあり、一週間のほとんどをこの家で過ごし仕事にもここから行ってるので、それはほとんど間違いではないのだが。

「クリスマスだよ、覚えてた?」
「街が騒がしいからな。嫌でも気づく」
「あ〜たしかに。にぎやかすぎて承太郎は苦手かな?クリスマスの歌、耳に残って離れなくなるよね」

そう言いながらクリスマスソングを口ずさむ。途中からホリィも混ざって、2人で声をハモらせ笑顔を見せあった。まったく、のんきなものだ。

「そういうわけだからね、今日はクリスマスごはんだよ。ケーキにチキンにチーズフォンデュ!あ、引き止めちゃってごめんね。はやく着替えておいで」

帰宅早々に絡まれたので、承太郎はまだ仕事着だった。の言葉を聞いて大きなコートを脱ぐと、自然な動きでがそれを受け取ってコートかけに戻す。そんなことが承太郎にとっては幸せだった。伝えたことはなければ、声にも表情にも出したことはない。ただ、心の底でひっそり思っているだけだけれど。

「ごはん、たべようか」
「ああ」

3人で食卓についていても、話すのは2人だけだ。承太郎はいつも短く「ああ、」とか、「そうだな、」とか、そういうことしか言わない。にぎやかな食卓に並ぶ食事はどれもおいしく、母と恋人が2人並んで台所に立ち用意した姿を思うと自然と口角が上がった。

「承太郎、楽しそうな顔してる。おいしい?」
「美味しいぜ。ありがとうな、
「良かったわねちゃん!承太郎、ママにも言ってよ」
「うるせえ」

つれない子!と笑うホリィは承太郎の厳しい態度なんか全然堪えていないようだった。一方のは、珍しい好意の言葉に少しだけ頬を染めて照れたように笑っている。

「2人は、本当に仲が良いわね」
「そうです、かね?そう言われるとちょっと照れちゃう」

ね、承太郎。隣から見上げてくる顔には嬉しさがぺたりと貼り付けられている。そんなふにゃふにゃの顔、どうやったら作れるんだ。自分の肉体にはなかなかの自信があったが、表情筋に関してだけはの方がずっと使われていて、鍛え上げられている。それは承太郎がに対して好ましいと思う部分の1つでもあった。





食事を終えて風呂に入り、クリスマスとはいえいつもの日常と変わらない夜を迎える。空条家に自室を与えられているものの、特に例外がない限りは自分の部屋から出て承太郎の布団に入って眠っていた。今日も例に漏れず、電気を消した部屋にバレバレの忍び足で近寄ってきて、布団をそっと捲って入り込んでくる。

「承太郎、寝てる?」

特に意味はないけれど、寝たふりをした。

「寝てるかあ。お邪魔するね。承太郎、今日は楽しかったね」

寝ている相手に話しかけるのはどういう心境なんだろうか。はよくこういうことをするが、もしかしたら自分が寝たふりをしているのに気付いているのかもしれない。

「あのね承太郎、私承太郎のこと、本当に大好き。ホリィさんのことも。今の生活がずっと続いたらいいなあって思うんだ」

俺は寝ているので返事をしない。そこまでで話は終わったらしく、無言になったは小さな寝息を立て始めた。その寝息が整って、完全に眠りについたのを見計らってスタープラチナをだし、机を開ける。中から出てきたのは今日受け取ってきた小さな小箱だ。クリスマスのラッピングをされたそれをの枕元にそっと置いた。

「…朝が楽しみだな」

これを見つけたら、彼女はどんな反応をするだろうか。想像しながら口元にだけ笑みを浮かべて、すでに眠っている体を抱き込んで目を閉じた。





「じょ、承太郎、おは、おはようおきて、ねえ、サンタさん…じゃないでしょう!承太郎が、これ、え?」

大混乱の声で起こされた承太郎が見たのは、真っ赤な顔に大粒の涙を浮かべ、プレゼントを見つめるの姿だった。



特別な1日

(merry chiristmas,and let's get married!)