変な言葉を使うとすぐにキレてしまうので、ギアッチョとの会話にはとても気を使う。というのはときどき嘘で、私は彼がブチ切れて騒いだりするところも好きだった。すぐにかっとなる性格を自覚しているから、そうしてしまった後にはいつもバツの悪そうな顔をして「……悪ィ」とボソリと謝る。だから私は、大丈夫だよ、と笑って許してあげて、頬を撫でたり頭を撫でたりしてみる。それをくすぐったそうに目を細めて受け止めてくれるから、彼は優しいのだ。スタンドのせいで平均より高い私の体温は、同じくスタンドのせいで平均より少し低いギアッチョの体温からしたらきっと熱すぎるだろうに、それでも決して嫌がったりしない。そういうところに愛を感じる。

でも、今は。

1本の電話がかかってきて、ギアッチョはキレた。それでもいくらか理性は残っていたのか机の上のごちそうをなぎ倒すようなことはなくって、けれど行き場のない拳を振り上げないわけにはいかなかったらしい。昨日一緒に飾り付けたばかりの、ちょっとだけ奮発して買った大きめのクリスマスツリーは、無残にリビングに散っていた。

「このサンタさん、なんだかギアッチョに似てない?」
「うるせえどこがだよ」
「なんとなくだよ。しいて言えば目つきかな」
「じゃあこっちはお前か?」
「それトナカイじゃん!」
「鼻が赤いだろ」
「だって外が寒くって…、ギアッチョ、あっためて」
「お前の方が体温高くね?」

そんな風に笑いあっていちゃいちゃしながら飾り付けたサンタのおもちゃは、パッキリと首が折れて私の足元にある。それを見下ろすギアッチョの目は、またやっちまったって言ってる。これはとっても後悔している目だから、いつもみたいに「悪ィ」「ううん、いいよ」じゃあギアッチョ本人が納得できないに違いなかった。さて、どうしてあげようか。

まったく気にしていないといえば確かに嘘になってしまう。せっかく用意したクリスマスツリーが台無しなんだから、そりゃあそうだ。けれど、だからといって怒ってもいない。だってこれは仕方のないことで、ギアッチョがやろうとしてわざとやったんじゃないってことくらい十分に理解しているからだ。

「怪我、してない?」

「……おう」

「そっか、良かった。さっきの電話、メローネでしょ」

「…チッ」

名前を出した反応で簡単にわかってしまう。そんなにわかりやすくて暗殺者ができるのかって心配になってしまうくらいに。

アジトでもクリスマスパーティをしようって言い出したのはメローネだったかペッシだったかソルベとジェラートだったか覚えていないけれど、とにかく今年はアジトでチームみんなのクリスマスパーティをやることになった。といっても、クリスマスというのは浮かれた雰囲気に紛れるのにもってこいのかきいれどきで、そのパーティは随分と気の早い12月の初めに終わってしまっていた。だから当日の今日は、こうしてギアッチョと2人で過ごせているわけだ。今月は2人でそれはもうハイペースで仕事を終わらせて、この2日間のために必死で死体を積み上げた。その様子をにやにやしながら眺めていたメローネなら、きっと昨日と今日、私とギアッチョがこうしてささやかなクリスマスをしていることに気づいているだろうから、きっと冷やかしとかそんなんだったんだろうな。

ギアッチョは私との関係を冷やかされるのをひどく嫌う。最初は私と付き合ってるなんて恥ずかしいんだろうかと不安な気持ちもあったけれど、すぐにそれは杞憂だとわかって、ギアッチョは真剣に私と向き合ってくれているからこそ、面白おかしくからかわれるのが不愉快なのだ。だから、私はそんなギアッチョのことをより一層好きになった。

「ギアッチョ、機嫌直して。私といるのにメローネのことなんか考えないでよ」

ね、と、なんとか破壊を免れた携帯電話を取り上げて電源を切ってしまう。もしかしたら仕事の連絡もあるかもしれないそれを切ってしまうのは少し勇気のいることだけれど、もし何かあれば後で一緒にメタリカ喰らおうね。そう言って手を握れば、暴れて体温が上がったのか少しだけいつもより暖かかった。少しは落ち着いてくれただろうか。

「悪ィ、ぐちゃぐちゃにしちまって」

「ううん。もし気になるなら、また来年もこうやって一緒にクリスマスしてほしいな」

「…お前はよ」

「ん?」

全然怒んねーのな。そういうギアッチョの声は拗ねた子どもみたいな声で、すぐ頭に血が上る自分の性質を「子どもっぽい、制御が効かない」って思っているらしいから、きっと自分ばっかり怒って暴れて、子どもみたいだなんて思っているんだろう。全部わかってしまうからおかしくて、ふはっと息を吐き出すみたいに笑った。

「冷静沈着で静かなお仕事をするさんだって、知ってるでしょう」

「あんなに熱くなるのにな」

「ギアッチョこそ、あんなに冷たくなるのにね」

ギアッチョと私のスタンドはまるで双子みたいな対の能力をもっていた。同じ時期にチームに入って、同い年で、能力も対になっていて。だから他人とは思えなくって、それを知った時からずっとギアッチョは特別だった。周囲の温度を限界まで下げてしまうホワイトアルバムに対して、私はそこにあるものすべてが発火して溶けていくほどに温度を上げることができる。新人のころ、よく2人セットでプロシュートのサポートについていろんな任務に出向いた。ギアッチョの氷の壁でザ・グレイトフル・デッドの能力を防ぎながら、その向こうの温度だけを急激に上げてプロシュートの能力を最大限に発揮させる。そんなものなくたってプロシュートは1人で仕事ができたというのを知ったのは少しだけ後で、それは私たちのいまいち制御しきれていないスタンド能力を細かくコントロールできるようにするための訓練だった。面倒見の良いお兄さんだよね。そのまま、私たち2人の関係まで察して、繋いでしまったんだから。

ギアッチョは冷気を扱うけれど、世界のすべてに苛立っているようにすぐ熱くなるし、私は熱気を扱うけれど、何事にも酷く冷静で冷めていた。そんな私たちだから、一緒にいて真ん中の温度になれたのかもしれないよね。

「俺はよ、」

ギアッチョは私の手を離して、足元に落ちていた壊れたサンタを拾い上げた。それから部屋に散ったツリーの残骸を足でけって寄せ集める。

「不器用だし、すぐにかっとなって暴れちまうし、お前みたいに冷静に物事を考えて落ち着いて行動するなんてことは、きっとこの先もずっとできねぇ」

木の本体だけは残っていたから、その周りに一通り集められた残骸が、パキパキと音を立てて凍り始めた。冷えていく部屋の中で、ギアッチョの周りだけがうっすらと白く見える。

「けどよ、なんだ、…昔みたいに、何もかもにたいして無性に腹が立つとか、そういうのはなくなったんだ」

言いながら凍りついていく残骸はやがてツリーと結びついて、元の姿を取り戻していく。バラバラになったって、凍ってくっついてしまえば元通りだ。こういうのなんていうんだっけ、木を覆う氷、そう、樹氷っていう…。前にテレビで見たことがあって、それを見た私はとてもきれいだと喜んで、この程度のものならいつだって俺が作り出せるっていうギアッチョに、ロマンがないなあなんて会話をしたことを思い出した。

「それは多分、お前のせいだ。一緒にいて、苛立ってかっとなる気持ちが、ぬるくなっちまったのかもしれねェ」

それは、さっき私が思ったのとまったく同じことだ。私たち、やっぱり似ているね。

氷で覆われて元通りになったツリーは透き通っている。綺麗だねって笑ってみたら、お前が前にこういうの…って言いかけて、それから「人工じゃあロマンがねぇか?」とそっぽを向いた。ギアッチョは何だって覚えている。私に関することならなんだって。それが嬉しくって、つい口元がゆるっとなってしまった。

「ううん、最高。ギアッチョ、ありがと」

「もとはと言えば俺が壊しちまったから…」

「こっちの方がずっと綺麗だよ」

笑って、さあ、ごはんにしよっか。って言えば、ギアッチョはそうだなって笑って額にキスを落としてくれた。嬉しかったから背伸びして頬にお返しをして、そうしたら自然とどちらからともなく唇に触れて。震えるほど優しい目で私を見下ろすから、幸せな気持ちが体の中に納まらなくなってしまいそう。

「ギアッチョの心がいつだって熱いから、私の冷めた気持ちもあったかくなったのかも」

「…そうかよ」

照れた顔は、それでも愛しさを乗せたまま。私たちはあついのとつめたいのを半分ずつ混ぜ合わせて、これからも幸せなまま一緒にいられるだろう。

透き通った純白