// 寝たきりの義体

「起きているか?」
「……リゾットさん、来てくれたの」

ベッドの上で顔だけを向けて微笑んだはまた少しやせたように見えた。前に訪れたのはたった2日前だというのに。リゾットは持ってきた花を入れ替えてベッドサイドに腰掛ける。はゆっくりと体に力を入れて上体を起こそうとしたので、それを手助けして背中に枕を挟んでやる。

「リゾットさんが来ると、少しだけ体が軽くなるの。不思議だわ」
「そうか」

短い言葉を返しただけでも、は柔らかく笑った。彼女が最初に条件付けのために投与された薬は脳をじわじわと浸食した。やがて記憶が抜け落ちるようになり、体が動かなくなり、今では彼女の記憶は反復されないかぎり2、3日しかもたない。リゾットがここに来るのをやめてしまえば、リゾットのことすら忘れてしまい病室の入口に現われた彼をみて「はじめまして」と言うのだろう。そんなことは耐えられなかった。

「昨日お医者様がきたの。不揃いな金髪のお兄さんと、その奥様なんですって。夫婦で同じお仕事をしているのって素敵ねって言ったら笑っていたわ」
「メローネとだな」
「ああ、そんな名前…だったかしら。さん、奥様の方、検査のときずっと私の手を握ってくれていたの。あったかかった」

は義体の前には基本的に姿を現さない。しつこく絡みにくるイルーゾォの妹くらいか。だからのところに来たというのは驚いたが、きっともう現場を引退しているの調整はメローネだけでは手が届かないのだろうと想像する。

が言った、リゾットがいると体が軽くなるというのは真実だった。メタリカはの体の金属を操ることができるから、動こうとしているのがわかればそれをサポートしている。けれどは、自分が仕事でその手を血に染めたことや、リゾットのスタンド、メタリカのことなどはもう覚えていない。

「…
「なに、リゾットさん」
「すまないな」
「どうして謝るの?変なリゾットさん」

できるなら、昔のように「リゾット」と笑いかけてほしい。儚げな笑みじゃなく、元気があふれる昔の笑顔をみせてほしい。彼女の命を無理やりに伸ばして、結局こうして苦しめているのは誰でもない自分のエゴだったから…、体が動かなくなったとき、もう働けないから壊してくださいと言った彼女の言葉を押さえつけて忘れさせてしまったのは自分だったから。そんなことは言えないし、願うのすら赦されないことだったけど、それでも祈らずにはいられなかった。

リゾットは、あのひまわりのような笑顔を忘れられずにいる。