// 夢を見た

ベッドの中で不自然な動きを感じて、イルーゾォは目を覚ました。布団をめくると隣の部屋で寝ているはずのがガラスの目でじっと見つめているので、またか?と呟く。呆れたように聞こえないよう、責めているように聞こえないよう、細心の注意を払った声色で。

「うん、お父さんとお母さんの夢を見た」
「…どんな夢だった?」
「あのね、私は日本に住んでるの。お父さんとお母さん、とってもやさしくって、私のことじゃない名前で呼んでた。お父さんとお母さん、知らない人なんだけど、でもお父さんとお母さんだってわかるんだ。それでね、3人で旅行に行こうかって、飛行機にのって…、目が覚めた」

は消された記憶を時々夢で見るらしい。初めてそれを言われたときは肝が冷えたものだが、完全に夢だと信じている様子に心の底から安堵した。夢の世界の両親の話をするときのはいつもとは違う無表情で、声にも抑揚がなくなりどこかおかしくなる。こうして人の布団にもぐりこんでくる程度には不安になる夢らしいが、その本当のところはわからない。

「前よりもね、はっきりと声が聞こえたの。知らない声だけどなつかしくって、わたしはなんだか嬉しいような気持ちになって、でも悲しいような気持ちにもなるの。お父さんとお母さんなんて、私はわかんないよ。そう言ったら2人は笑顔をやめて悲しい顔をするから、私はやっぱりわかるよ、お父さんとお母さん、知ってるよって言うの。2人が笑うと、少しだけ、私も嬉しい気がする」

変な夢だよね、と言ってやっと少しだけ笑ったの顔色はいつもより悪くなかったから、そうだな、とだけ言って頭をなでてやった。自分と同じ黒い髪なのに、の髪の毛は細くて柔らかい。やがてゆっくりと目を閉じるので、肩が冷えないよう布団を引っ張り上げて隠してやった。もし真実を思い出してしまったら、は自分から離れていくだろうか。兄のように慕って、友人のように笑ってくれるはいなくなってしまうだろうか。

義体に入れ込みすぎるなとはメローネの言葉だったが、まったく守れていない。きっと依存しているのはイルーゾォの方だ。腕の中にある体温を抱きしめて目を閉じた。