// プロシュートの義妹

と名前を変えてプロシュートの妹になった。記憶は全て消去され、実兄であるプロシュートのことも覚えていないが初めて会ったプロシュートに、「はじめましてプロシュートさん、です」とあいさつをしたときのプロシュートの表情は、正直もう二度と見たくない、というのはメローネだった。

けれどその表情はそれきりで、もともと自分の意思を一本貫く強さを持っているプロシュートはフラテッロとしてのの扱いにも次第に慣れていくようだった。プロシュートさん、とその後ろを着いて行くを見て、複雑なのは周りの方だ。病弱で、自宅と病院、それから星空しか知らなかった少女は、それらを全て、実兄のことすら忘れ代わりに外の世界を手に入れた。それがはたして幸せなことなのか、それは誰にもわからない。


「プロシュートさん、その写真」
「俺の妹だ」
「はい。その…、メローネさんに聞きました。妹さんはもう…いない、って…」

余計なことを教えたものだ。メローネはすべての義体のメンテナンスを請け負っているから、自然と会話も増える。研究とのこと以外ほとんど興味もなさそうなあの男は時々こうして余計なことを教えることがあった。

「妹さんって、私に似てます…よね。だから私をフラテッロに?」
「…全然似てねぇよ」
「でもメローネさんもそっくりだって。私、その、…いいえ、なんでもありません。すみませんでした、変なことを言いました」

それを聞いて、プロシュートは写真たてを伏せた。その心の中に渦巻くモヤモヤしたものは、でてこないよう必死で閉じ込めておかないといつあふれ出して暴走するかわからない厄介なものだ。



「メローネさんメローネさん、プロシュートさんの妹さんって、どんな方だったんですか?」

定期健診で聞いたのは、手持無沙汰ですることがなかったからだ。足をバタつかせながら聞いたに、メローネは声だけで答えた。

「プロシュートに聞いたらどうだ?俺は直接会ったことはなかったよ」
「なんだか、あんまり話したくなさそうにするんです。ここに来たことはなかったんですね」
「うーん、たぶんね。俺は研究室からあまり出ないから、来てても気づかないかも」

本当は来たことなんてないことを知っている。家と病室、それしか彼女が生きて行ける場所なんてなかったから。といっても、今まさにここにいるんだけどね…なんてことは当然言えるわけもなく、メローネにもそのくらいの配慮はできた。

「まあ、人には触れられたくないこともあるからね。あんまり掘り下げてやるなよ」
「死んじゃってるから…ですか?死んじゃうってどんな感じなんでしょう」

私は死んだことがないから想像できません、というの言葉を聞いてさすがのメローネも一瞬手を止めた。一度ほとんど死にかけていたのにな、と。

「もし、もう自分はこのまま死んでしまうんだって状況になったらどうする?」

はバタつかせていた足をそろえておろし、少し考えた。別に答えなんか聞いていなかったメローネは作業を再開していたけれど、次の言葉でもう一度手を止めて…止めるどころではなく取り落して試験管を1つ割ってしまったのだけど、それはもう、あまりにも残酷な言葉で。

「…どうでしょう。きっと苦しいのかなって思うので…私だったら、そのまま死なせてほしいです。楽しことも嬉しいこともその先いっぱいあるかもしれないけれど、死にそうになったのならそれがきっと私の命の期限で、運命なんだと思います。無理矢理、生にしがみついたって仕方ないんじゃないですか」

ねえ、と軽く笑う笑顔は病室のベッドの上で死にかけていた時の表情とは別人みたいだ。記憶を消して新しい人生を歩んでいるのだから当然だ。しかしそのセリフは、あまりにも。

「…それ、絶対にプロシュートには言うなよ」
「え?なんでですか?」
「なんでもだ。そんなことあいつに言ってみろ、その場で殺されても文句は言えない」
「…きをつけます」

まあでも、そうなるのならそうなるで、私の運命なんでしょうね。あんまりわかっていなさそうな声色で言うから、メローネはもう本当に黙っていてほしいと思った。