// 実妹の思い出

生きた人間を改造して便利な暗殺者に仕立て上げるだなんていうのは、暗殺者である自分が言うのもおかしいことだがあまりにも人道に反する、とプロシュートは考えていた。肉体を改造し記憶を改竄し愛を植え付けて、そうしてできた義体を『妹』と呼んで仕事に出る仲間の姿を見るたびに虫唾が走る。それはプロシュートに実妹がいることも原因だったかもしれない。

「お兄様、今日は晴れなんですって。夜は遅くなるの?」
「何時だ?」
「私は22時には屋上へ上がります」
「間に合わせる。あったかくして待ってろ」
「はい!待っています、お兄様」

はもともと体が弱く、青白い肌を一層際立たせるような夜色のワンピースを着て家からほとんど出られなかった。彼女の興味のほとんどは夜空に浮かぶ星々に向いていて、「あの光のいくつか、もしかしたらほとんどが今はもう滅んでしまっているのかもしれないと思うとドキドキするの」といつも話していた。それはプロシュートには共感できない感覚ではあったが、病気がちで家から出られない妹が少しでも楽しいことがあるのならといつだってその隣で見守っている。



「見てお兄様、あれがオリオン座よ」
「どれだ?」
「あの1番大きく光る星と、それからその下にあるあれと…」
「よく覚えたな」
「昼間は、本を読むしかできないから」

その笑顔は純粋に褒められたことへの喜びしかないので、失言だったかと思ったプロシュートはほっと息をついた。

「お兄様がくれたテレスコーピオ、とっても綺麗に星が見えるの。これ高いんでしょう?」
「お前は気にする必要ねぇ」
「…ありがとうございます」

肌寒い夜風になびく髪の毛はプロシュートと同じ金色をしていて、女性らしい柔らかさを含んでいる。

「あの星、あの明るいやつはベテルギウスっていうんです。こんなに広い星空の中でもぱっと目に着くくらい大きくて明るくって…、お兄様に似てるでしょう?わたし、あの星が1番好きです」

言いながら寒そうに手をこすり合わせるのを見て、それから時計の針がそろそろ真上で揃いそうなのに目を向ける。

、そろそろ時間だ」
「待って、もう少しだけ」
「つい最近、そう言って熱を出して一週間も寝込んだのは誰だ?」
「…はあい」

がっかり、というのを仕草で表現して見せるけど、顔は笑っていた。重たい望遠鏡を出したり片づけたりするのはプロシュートの仕事だ。一歩下がったに微笑んで片づけを始める。

「冷えたから温かいココアが飲みたいわ」
「作ってやる。片づけたら行くから下で待ってろ」
「ありがとう!私お兄様のココア大好き」

自宅と病院、それから星空だけがの世界の全てだった。その世界が輝くのなら、どんなことだってしてやろう。その治療費を稼ぐために、どんなに手を汚しても。