// 身体が機械の女の子

「メローネさん、お願いがあるんです。私の腕も足も…全部、機械にしてもらえませんか」

大分回復してきた病室でおはようの代わりに言ったのはそんな言葉だった。

「ギアッチョさんのお役にたちたいんです。そのためには、私、普通の女の子じゃだめなんです」

その目の力強さには見覚えがある。メローネの妻が自分の体で実験がしたいと言い出した時のそれだ。もともと、いずれはそうなる可能性だってあった子だ。そうだね、やろうか。あっさりとOKを出したことに少しだけ驚いた顔をしたけれど、はすぐにぱっと花が咲いたように笑った。



「メローネさんにも、妹がいるんですよね」
「うん、いるよ」
「その子が、メローネさんのために機械の体になるって言ったら、嬉しいですか?」
「…俺の妹は条件付けもほとんどしていないし、体は全部人間のままだから、そんなことは言わない」

研究室のベッドの上で、これから四肢を切断するというのに緊張感のない声では言った。

「答えになってませんよ。私、ギアッチョさんはきっと喜ばないと思います」

そのセリフはもっともだ。ギアッチョはこの手術を行うこともしらない。ただ、ホワイトアルバムにあてられて入院している、数日すれば退院できると言ったきり、お見舞いにも来ていなかった。

「なのにやるの?」
「はい。これは私の欲で、私が私のためにする選択です。この手足はきっと、私の中に最後まである私の意思になる」

自由に動く体に生まれていれば、この子はどんなふうに生きたんだろう。ふとそんなことを考える。この子の家は裕福で、両親も寝たきりの娘を何年もそれは辛抱強く解放したのだ。きっと明るい未来が待っていたんじゃないだろうか。

「…こう考えるのも、条件付けの結果でしょうか?」
「…さあね」
「変なことを言いました。お願いします」

それきりは口を閉じて、目を閉じて、寒冷地仕様の手と足を手に入れた。

「メローネ、その子、そんなに強い条件付けはしていないでしょう」
「そうだよ」
「じゃあ、それは紛れもないあなたの意思だよって教えてあげたっていいのに」
「言ってもいいけど、それを信じるとも限らないからね…」

麻酔の聞いている間だけサポートに来るは先ほどの会話を聞いていた。呆れたように言うけれど、条件付けをされているという意識のある義体にそんな言葉はきっと通用しない。条件付けっていうのはそういうものだ。

目覚めたはカチカチと音を立てる機械の手足をもの珍しそうに見つめて、それから立ち上がってくるりと回って目を輝かせた。

「すごい、メローネさん、すごいです。こんなに普通に動けるなんて…!お願いしてよかった、わたし、これでもっと戦えます」

ギアッチョさんのために。その愛は間違いなく彼女自身の心だけれど、彼女の脳はそれを信じない。まあせいぜい無理はしないように。数日で退院して部屋に戻った時、ギアッチョはその手足を見てひたすらに顔をゆがませたのだった。