// 女の子の相手なんかできない

生まれつき四肢が動かなかったと聞いていたわりに、松葉杖で歩いているとはいえ腕も普通に動き普通に話す少女に、ギアッチョは少し拍子抜けしていた。もっと、障害のある子ども、みたいなのが来ると思っていたからだ。少女はと言ってギアッチョの『妹』になったが、仕事に関しては全く使えなかった。まず松葉杖のせいで音をたてるので潜むことができない。これは致命傷だったが、投薬とリハビリ次第ではいずれ歩けるようになるとのことだったので「リハビリはちゃんと行けよ」「はい」という会話を済ませて解決した気になった。せめてそれならと教えた銃は、これもへたくそだった。生まれてこのかた寝たきりだった少女は筋力が弱い。どんなに脳からの信号を制御して力を強くしたとはいえもともとの筋肉量が少ないのであればほとんど意味はない。

気の長いほうではないギアッチョは、射撃場での練習が1時間を過ぎたところでキレた。そして言ったのだ。

「7ヤード、この距離であの的に100%あたるようになるまで、お前帰ってくんなよ」
「はい」

それきり部屋に戻って、本を読んだり仕事の整理をしたりして夜を迎えて、妹が帰ってこないことにギアッチョは疑問を持たなかった。それはどうせ研究所か病室にでもいるんだろうという予想から来たものだったが、数日後、怒りの形相でが乗り込んで来たときに勘違いだったと知ることになる。

「ギアッチョさんちょっといいかしら」
「もう入ってんじゃねーか、なんだよ」

乱暴に扉をあけ放って入ってきたのはメローネの妹、兼妻で、10歳そこそこの女を妻にすると言い出したときは頭でも打ったのかと思ったが、容姿をのぞけば態度や言葉遣いは大人顔負けであり研究者としても優秀なを大人として扱う気持ちだけは理解できていた。だからある程度、仕事上では対等に接しようという気持ちはあったのだ。

「あなたの妹さんはどこ?」
「そういや最近見てねーな。研究所じゃねーのか?」
「ほんっとうに馬鹿ね!今すぐ射撃場に来なさい」

ぐい、と強引に腕をつかまれ、とっさに振り払おうとしたが力ではかなわなかった。は自分の意思で自分の体を義体化しているから、自分の体のどこがどうなっているのかを正確に把握していて戦闘力が異常に高い。もちろん体のパーツを人工的なものに取り換えた義体をのぞいて、だが…。

連れてこられた射撃場では、泥だらけになって射撃の練習をしているがいた。数日前にあそこに連れて行ったのと同じ服装のまま、ざあざあと降る雨の中かさも刺さず一心不乱に銃を撃ち続ける。そのたまはほとんどが的の中央を撃ち抜くが、時々外れて恥にあたる。何やってんだ、という声はほとんど消えるような小ささだったけれど、の耳にはしっかりと届いていた。

「義体の条件付けっていうのはね、絶対服従なんだよ。あの子はギアッチョさんの言うことなら何でもきくの。どんな無茶でも、どんなに自分の身に危険が迫ることでもね。あの子に何を言ったの?」
「…7ヤードで必中できるようになるまで、帰って来るな…」
「馬鹿じゃないの!?ごはんも食べず休憩もとらず睡眠すらとらないで、あの子はずっとああやってるの!あなたのせいで…!義体ってそういうものなの、メローネに言われなかった?話ちゃんと聞いてた?私みたいなのが特別な例外であって、義体っていうのはみんながあんな風に条件付けをされていて、自分の意思であなたの命令に逆らうなんてできないんだよ」
「…」
「わかったなら迎えに行って、謝って、きっと体調を悪くしているし薬も投与してないから…しばらくは動けなくなるわ、あの子」

の冷たい視線を受けたのは自分が悪いと思ったからだ。知らなかっただなんて言い訳にならない。あんな小さな女の子どもを、どう扱ったらいいかわからなくて邪険にした。

「…おい、その辺でやめとけ。戻んぞ」
「ま、まだ…必中とまではいかなく、て、」
「いい。そんだけできれば十分だ。…しばらく休めよ」