// 自由な身体と不自由な感情

四肢をすべて切断して義手と義足をつける、というのもありだけれどね。まずは薬でどうにかしてみようか。メローネのその提案に、少女ははい、とはっきり返事をした。四肢を切断するという言葉を聞いても顔色ひとつ変えないのは肝が据わっているというよりは自分の意思で体を動かしたいという欲求からくる強さだろう。生まれてこのかたずっとベッドで暮らしてきた少女の自由への執着は、動かない四肢なんか簡単に切り捨てられるものらしい。

それでも、生まれ持った天然の四肢を使えるのであればそれに越したことはない。筋肉を活性化させ、脳からの命令を伝わりやすくする。そんな薬がある。かなり強いので吐き気や頭痛などの副作用も当然強いのだが、それでもいいですと喰い気味に投与を願う少女に、特に何の感慨もなく実験開始のサインをした。

「ギアッチョ、お前の妹だ」
「…おう」

松葉杖をついてよたよたと歩く少女を見下ろしたギアッチョは何の感動もない声をだした。もともとギアッチョは妹なんて迎えるつもりはまったくなかったのに、どうしてこうなったかというとギアッチョ本人の教育という名目だ。彼はスタンド能力の強さは一流だが何しろメンタル面が未熟すぎる。そんな上層部の判断でまだ身体がちゃんと動かない少女を妹としてつけるのは心配もないわけではなかったが、何事も「なるようになる」としかとらえていないメローネはさっさと少女をギアッチョに引き渡した。

「薬の時間だけは守ってくれ、体が動かなくなるからな。リハビリとかそういうのはちゃんと話し合ってやれよ」
「わーってるよ、チッ、なんで俺が…」

松葉杖だというのを考慮しないスピードで歩いていくギアッチョに、着いて行くよう視線で指示する。カツン、カツンと廊下に響く音はどんどんギアッチョから遅れて行って、やがて振り返ったギアッチョはイライラしながらその歩みを待つ。心配ではあるけれど、ギアッチョもばかではない。まあ大丈夫だろう…と思ったメローネの思惑は、数日後が見かけた飲まず食わずで睡眠もとらず射撃練習をするの姿で外れたことを知るのだった。