// 他の義体

「メローネ、さっき射撃場で泣きながら撃ってる子を見たんだけど。あの子もう2日はあそこにいるわ」
「どんな子?」
「年齢は多分私くらいで、松葉杖の子」
「あー、ギアッチョの妹じゃあないか?あいつ、義体が”そういうもの”だって知らないでどうせ無茶なことでも言ったんだろ」
「ふうん…」
「行ってやれば?」
「…ううん、会いたくない」

は最初の実験のあと、さらにいくつかの実験を自分の体で行っていた。脳やところどころの細胞が人工に置き換えられた体は義体と言えるものになっていたが、それは紛れもなく自分の意思で、自分のために行われたものだ。だから、事故や病気で選択の余地なく義体化された少女たちに会うのは気が引けた。自分は幸運であり、特別だから。

「ギアッチョさんかあ、そっちに会いに行くよ」
「苛められるぞ」
「殴り飛ばしてやるわ」

義体とパートナーは兄と妹のようにいつでも一緒に過ごし仕事をするので、二人まとめて兄妹…『フラテッロ』と呼ばれた。兄は組織の職員だったり研究員だったりするが、妹は事故や病気で再起不能になったり社会からリタイアした少女が中心だ。選択の余地なんかなく、生きるためにそうなるしかなかった子どもたち。だからフラテッロとはいえ上下関係もある。

はもともと研究員で、そして今では主任研究員のメローネの妻なのでそれなりに立場が強い。義体を妹に迎える職員の教育や説明だって私の仕事の1つだ。だからああいう扱いをする兄にはガツンと言ってやらなきゃあいけない。

「ギアッチョに負けたら、慰めてね」
「任せろ、敵はうってやるからな」

脱いでイスにかけていた白衣を羽織って部屋から出ていくの背中を見送るメローネは、あれがまだ12歳だなんて嘘だろ、と呟いた。