「すまない、急な任務なんだが…」

言いながらリビングに入ってきたリゾットに最初に振り返ったのはだった。取引に同意したはいいものの、相手が信頼できる人物かどうかの裏を取るのに時間がかかった。結果、あまり関わり合いになりたくないなあという人物だということが判明したので、取引を帳消しにするため事故死させてほしい。なんとも身勝手な仕事だ。
しかし幹部から直に下りてきた緊急の依頼となればさっそく取り掛からないわけにはいかない。今日の天気は雷雨で、事故死に見せかけたい仕事があるのなら以外に適任はいない。雷にうたれて死んでしまった。どう考えても事故に見えるだろう。

それなら私だね、と依頼内容を聞いてすぐに立ち上がったは、依頼書の地図を見て少し考え込んだ。

「ちょっと距離がある」
「メローネのバイクか誰かの車で出られないか?」
「いいんだけど、今日は天気が…雷だからなあ」

リゾットが、そうだった、という顔をした。は電気を操るスタンド使いだ。自由自在に制御できるものの、常に体に張り巡らされる電流は完全にゼロにはできないらしい。そのせいで、天気が雷の日に外にでるとどうしても雷がめがけて降ってきてしまうのだ。もちろん自身にダメージはないが、あまりに目立つし、乗り物や近くにいる人や物には被害が及ぶ。以前それでバイクを爆発させてけがをして帰ってきたことがあった。

「いや、いいか。これも経験だ」
「ん?」
「メローネ、バイク運転してよ」
「ちょっとまって、いくらのお願いでも雷にうたれるのは」

完全にNOの顔をしている。メローネが嫌がるなんて珍しいな、とリゾットがしみじみと言うけれど、当然だ。メローネはからのパンチや蹴りなら喜んで受けるし、ちょっと数日痺れる程度の電撃も大歓迎だ。けれど自然の雷となれば話は別。とても人間の体で受けきれるエネルギーではない。

「あのね、雷が落ちてきたらそれを私が跳ね返せばいいんじゃない?運転せず集中していれば、多分できるよ」
「たぶん、って…確実じゃないだろ」
「うん、まあできなかったらメローネとバイクがお釈迦だね」

あはは!と笑うと笑えねーよ!と机をバンとたたいた。ギアッチョ芸だねと言うと隣にいたギアッチョがうるせーよ!と机をたたいた。おんなじじゃん、とまた笑う。

「クソッ、早く行けよ」
「メローネが嫌っていうんだもん」

ぶりっこすんな、と怒られた。ギアッチョのことはおいといて、バイクだしてほしいなとメローネに改めてお願いする。いくらのお願いでもさすがに、ほんとに、ちょっと、とかなり後ろ向きのメローネはそんなに私のことが信用できないんだろうか。どうしようリゾット。と不思議な色の目を見上げると、何してんだとリビングの入口から声がかかった。

「パードレ!バイクだして!」
「あ?」

リゾットが差し出した依頼書にさらっと目を通したプロシュートは、お前が適任だな。と頷いてから壁にかかっているバイクのキーを取った。

「おら、行くぞ。雷の対策はあんのか?」
「跳ね返せると思う!やったー!信頼を感じる…パードレ大好き…!」

腕に抱きつくとくしゃりと頭を撫でられた。

「あ、まって、やっぱり俺が…」
「メローネは私のこと信用できないんでしょ。いいよパードレと行くから」

なんかあったのか?と聞かれたので、メローネは私が雷を100%回避できるか信用できないからバイクは出したくないんだって。と伝えると、プロシュートは口の端を持ち上げる綺麗な笑みを作った。

「おめーにはまだ早えーな」
「…うるさいな」

ふん、と顔をそむけたメローネは私よりずっと年上なのに年下のように可愛らしかった。いってきまーすと手を振ってどしゃぶりの中外に出る。雨で塗れた道路をバイクで走るのは危険だけど、プロシュートの運転技術に絶対の信頼を置いているので不安はまったくない。

「で、ほんとにできんのか?」
「雷が落ちてくるっていうのはいつも察知できてるの。大丈夫、パードレはが守りますよ」

頬にキスをすれば額に帰ってくる。信頼してるぜ、と言われるとくすぐったくてかなわない。気合はいっちゃうよね。パッショーネに入ってから、パードレは今までと比べてずっと私に仕事を任せてくれるようになった。それは当然なんだけど、もともと心配し過ぎというくらいに私に構っていたのが、ある程度実力を認めて好きにやらせてくれるようになった。

さくっと終わらせて、ちゃあんと雷を回避できるところをみせて、今度はメローネにも乗せてもらおう。私だってやればできるんだからね。ヘルメットをかぶりプロシュートの腰に手を回し、エンジンの音を体で感じた。



無事に帰ってきた私たちを真っ先に迎えたのはメローネだったけれど、「大丈夫だったよ!」という私と「コントロールも上達したなァ」とご機嫌に私をほめるプロシュートを見て、眉根にぎゅっと皺を寄せ、「次は俺が運転するから」といつもよりずっと低い声で言った。