2日後、よたよたと部屋から出てきたの目に映ったのはメローネだった。メローネはスキンシップ過剰でいつでもうっとうしいが、弱ったときには最も甘やかしてくれる。今利用しない手はなかった。

「めろーーねぇ!」
っ!」

出来る限り甘えた声で名前を呼び両手を伸ばす。ぱっと嬉しそうに振り返ったメローネはすぐに駆け寄り、ぎゅっと抱きしめてくれた。

「おなかすいた、血がたりない、ごはんたべたい!」
「はいはいはい、まかせて!」

抱きしめた状態から勢いもつけずに膝の裏に手を回り、お姫様抱っこの状態になる。細く見えるけれど実際は全身にバランスよく筋肉がついているメローネのお姫様抱っこは安定していてあまり揺れない。さすがはアサシーノだ。リビングに辿り着くと優しくソファにおろしてくれて、ちょっと待っててねと額にキスをひとつ落としてキッチンに消えて行った。

「おめー、もういいのかよ」
「ん?ああギアッチョ、おはよ」
「…はよ」

ぶっきらぼうなあいさつに優しさがうかがえる。そうか、一昨日も昨日もギアッチョはアジトにいたのか。彼は任務を割り振りやすいスタンドをしているので不在がちだから、タイミングよく私が暴れている間に居合わせたのが初めてだったのかもしれない。

「もう大丈夫。びっくりさせてごめんね」
「顔色が死人と同じだぜ」
「ごはんたべてないから、貧血かなあ。死人は言い過ぎじゃない?」
「ギアッチョの言うとおりだよ」

キッチンから投げかけられた声にギアッチョがうなずく。そうか、そんなに顔色が悪いのか。鏡なんて見ていなかったのでわからなかった。貧血の自覚はあるのだけど、地下室から自力ででてこらえれたので今回は比較的軽かったなと思っていた。本当にひどいときは地下室で意識を失ったまま、気づけばプロシュートに引き上げてもらうから。

「はい、どーぞ」

コトリと机におかれたのは少な目のパスタと鉄分のサプリメント。地下室からあがってきたばかりの日は胃が小さくなっているみたいで、ごはんは少しだけにして栄養はサプリメントでとる方がいい、と言ってくれたのはメローネだ。それは暗殺チームに所属することになった新人が最初に役に立った瞬間だった。

「グラッツェ。…ん、おいしい」
「もう少し食べられそうならスープもあるよ」
「ん、どうだろう…ちょっと様子みるね」

にっこり笑顔は年上の異性とは思えないほど可愛らしい。その笑顔をギアッチョは「気色悪ィ」なんていうけれど、あれはあまりの可愛さに照れているんだろうなというのがの考えだった。


「なあにメローネ」

少しずつパスタを食べる顔を見つめられているので食べにくいな、と思っていたらちょっとドキドキする優しい声で名前をよばれたので、なあにと名前を呼び返してみた。

「そのつらいのさ、10か月くらいとめてあげようか」
「………は?」

言葉の意味を理解するよりも先に、メローネが凍り付いた。

「ばっばばばばばばばじゃじゃねーの!?!?!?きめーんだよ!!!!!」

反応するより先にギアッチョが怒ってしまったので、ドン引きとかきもちわるっ!とかそういうのが全部すっ飛んで笑ってしまった。ギアッチョの怒鳴り声とメローネの笑い声が頭に響く。あはははは、はあ、と自分の笑いが引くと、まだ本調子じゃない頭にズキリと響いたみたいだった。ちょっとくらくらしてしまう。
私の分も怒っておいてね、とギアッチョに心の中で話しかけると、私は食べ終わったパスタのお皿を放置して喧騒をBGMにそのままソファでひと眠りすることにした。