は正式なパッショーネの構成員ではないが、暗殺チームに割り振られた仕事をすることがときどきある。今日はそんな日だった。

「リゾットよお、多少ならにやらせてもいいとは言ったがこれはさすがにねーだろうが」
「それは確かにそうだが…がいるのといないのとでは効率に差がぎる」
「…チッ」

リゾットの部屋に呼び出されたプロシュートは、来週に行われるとある会合の参加者を全滅させろというなんとも大規模で物騒な仕事の依頼書を渡された。参加人数は30名程度、それぞれが複数名の護衛をつけるレベルの人物ばかりだから、おそらく100人近い人数を皆殺しにすることになる。
最も向いているのはプロシュートで、全員を老衰させてしまえばいい。けれど会場内の護衛にはスタンド使いがいる可能性もあり、100%通用するとは限らない。そこで会場の電気系統を破壊し身動きを取れなくするのに便利なのがのスタンドだった。なんならフロア全体に電撃を流して全員の息の根をとめるか、そこまでの威力がなくても全員の意識を失わせることができるかもしれない。

「大量虐殺に10歳のガキ連れていくのは気がすすまねえ」
「それは俺も同じだ。だが、」
「…本人は行きたがるだろうな」

リビングでは、とホルマジオが話していた。他の奴らは全員任務で出払っている。

、来週仕事になるかもしれねェ」
「ほんと!?」
「どう思う?」

依頼書を手渡すと、真剣な目つきでそれを読み始めた表情が、ほんの少しだけ険しくなる。

「…多いね」
「そうだな」
「私が行かない場合、やるのはパードレとイルーゾォにソルベとジェラート、って感じかな」

依頼内容から実行する人物のあたりをつけるのもうまくなったな、と要らない感心をする。10歳にして、多少の仕事は1人でもこなせる暗殺者としてのスキルを身に着けてしまっていることは父親としては喜ばしいことではない。

「そうなるだろうな」
「いいよ、私、行くよ」

覗き込んでいたホルマジオがうげえ、と汚い声を出した。

に行かせるにはえぐすぎるんじゃねーか。適任だろうけどよ…」
「だいじょうぶ!まかせて」

にこ、と笑った顔には先ほどまでの苦々しい表情や不安などは見られない。子どもなのにというべきか子どもだからこそなのか、は死に対して割り切った考えができる方だった。かわいそうだけど、しかたがないよね。と足元に転がる焦げた死体を見つめて呟いたのも、8歳の時だったのだから。



「イルーゾォ、いーれて」
とプロシュートを許可する」

現場まではイルーゾォのスタンドで向かう。何か少しでも様子がおかしければ引き込んでもらうようお願いして、屋敷のセキュリティ室に足音を立てずにプロシュートが降り立った。足音を消せないはその腕に抱きかかえられている。

「電気を落とせ」

バチン、と音がして屋敷の電気が消えた。遠くのフロアのざわめきが聞こえて、部屋へ駆け寄る足音が近づいてくる。

バタンと乱暴な音を立てて開いた部屋が懐中電灯に照らされる。セキュリティ室にいたのは、1人の少女だった。

「なんでここに子どもが…!?」
「パパと来たの。迷子になっちゃって…」

真っ暗でこわい。そういって涙をこぼせば、駆けつけた男はおろおろとうろたえた。とりあえず電気を、と部屋に足を踏み入れた瞬間、男の鼓動は一瞬だけ大きく跳ねてからピタリと止まった。

「ごめんね」

焦げて崩れ落ちた男をまたぎ、扉の後ろに隠れていたプロシュートと廊下に出る。あわただしい雰囲気が伝わる。

「パードレ、抱っこして」
「あァ?仕事中に甘えてんなよ」
「今の私だとあとで力が入らなくなっちゃうかもしれないけど、やってみたいことがあるの」

両手を伸ばせば、なんだかんだいいつつもプロシュートは必ず抱きかかえてくれる。

「今日は全員、私にまかせてもらっていい?」
「できんのか?」
「がんばる」

はプロシュートの首に腕を回すと、大きな深呼吸をした。

今回のターゲットたち、この集会の参加者や関係者は、二度とこんなことをしないようお仕置きされたことが外に伝わるようにしなければいけない。全員が一晩で老衰した、なんていうプロシュートのスタンドによる殺害でもそれは十分伝わるだろうが、もう少しこちらのやり方は隠しておきたいという気持ちも大きかった。スタンドによる攻撃を行ったことはバレてしまう。もう少し手段は隠しておいたほうがいい。

「サンダーバード、できるよね」

黄金の鳥が細かく散った。音もなく飛び立っていく方向はメイン会場だ。その姿が見えなくなるまで見送る。

「何する気だ?」
「…」

は答えない。抱きしめた体の温度が上がった気がして背中に手をあてると、明らかに平常時よりも早い鼓動に気づく。目を閉じてスタンドの制御に集中している様子を邪魔するわけにもいかず、抱きしめる力を強めた。

ほんの数秒が数分に感じられたあと、会場の方からドタバタと激しいやり合いの音が聞こえる。何事かと思い駆け寄ろうとすると、が「いかないで」と声を出した。

「いるー、ぞぉ、いれて。サンダーバード以外」
とプロシュートを許可する」

鏡の世界は静かだ。中を移動してメイン会場を覗くと、そこは阿鼻叫喚の世界だった。

「な、んだこれ…」
「サンダーバードでね、脳を少しだけ傷つけて、凶暴化させたの。人数が多くて、大変だった。何人かは失敗してそのまま死んじゃったっぽいんだけど、大丈夫だよね」

後は勝手に殺し合うと思う、とその様子を眺めて言って、はイルーゾォにサンダーバードの許可を求めた。小さくなったサンダーバードは鏡の世界にはいったものから合体し1体の大きな鳥にもどる。

鏡の向こうの戦いを見つめているのはイルーゾォとプロシュートだけで、制御に集中しきって一気に体温を上げたはプロシュートの腕の中で荒い寝息を立てていた。やがて最後の1人が自分の首をかきむしるように力尽きると、2人は顔を見合わせる。

「誰がこんなこと教えたんだ」
「さあな…俺じゃあねーぞ」

を暗殺者として活用しようという気持ちが強いのはリゾットだ。ソルベとジェラートもリゾット寄りの考えをしている。ホルマジオは本人がやりたいようにやらせてやればいいという考えだが、プロシュートとイルーゾォは暗殺の仕事をさせるのにはどちらかというと反対だった。こんなやり方を教えたのは、おそらく人体構造などの勉強を定期的にさせているリゾットか、考えたくはないが独学だろう。

「末恐ろしいっていうか……本当に10歳なんだよな?」
「…そのはずだ」

はあ、とため息をつくけれど、いずれパッショーネに入るのならやはりこの能力は磨くべきだ。どうしたものかな、と頭をかいて、それから熱を出した身体を抱き上げる。

「私のお仕事、どうだった?」

本当に、その顔には弱いんだ。褒めてほしそうな顔にすっかりやられてしまい、考えるの早めにしてとりあえず、それでこそ俺の娘だ、と褒めておいた。