がアジトにきて半年が過ぎていた。最初から人見知りはしないと思っていたが、あれでもまだおとなしかった方だと気づく。

「リゾット、おはよう!おなかすいた!」

朝の目覚めは大きな子どもの声になった。リゾットはもそりと起き上がると寝巻のままキッチンへ向かう。覚えたての字で、朝に食べたいパンの種類のメモをキッチンに置いておくのが最近のはやりらしく、たどたどしく「クロワッサン、いちごジャム」と書かれたメモを手に取る。その様子をリビングから見ているは得意げな顔で、読める?と首をかしげた。

「ああ、大丈夫だ。プロシュートも起こしてきてくれるか?」
「はーい!」

バタバタと廊下を走る音のあとは、静かに階段を上る音が聞こえる。アジトの階段は傾斜が急なので、の体では1段ずつゆっくり踏みしめないととても危険だ。アジトにきて1週間のうちに2度上から滑り落ちてけがをして、プロシュートにみちみちに叱られて以来2,3か月は降りるときはプロシュートに抱きかかえられる生活を送っていた。
今ではすっかり高さにもなれたようで、1人でちょろちょろと歩き回っている。

「パードレ!朝だよ起きて!」

2階から聞こえてくる元気な声が微笑ましい。はすっかりプロシュートを父親として見ているらしく、プロシュートもなかなかまんざらでもないという顔で受け入れているのが面白い。
階段をおりてくる足音は1人分だ。

「…はよ、リゾット」
「おはよう。クロワッサンでいいか?」
「ああ…」

ふわ、とあくびをする。プロシュートは朝からキッチリと身支度をして出てくるタイプだったが、が来てから随分と気の抜けた格好を見せるようになった。
朝食の用意ができて、3人で食卓に着く。いただきます、の挨拶はにつられて2人とも口にするようになってしまった。

「2人の今日の予定は?」
「この後すぐ出かける。夜には戻る」
「俺は昼から2,3時間出てくるぜ」

ふんふん、とはメモをとる。

「今日も人を殺すお仕事?」
「そうだな」
「俺はちげーぞ」
「リゾット、気を付けてね」

はリゾットとプロシュートの仕事を正確に理解していた。サンダーバードという雷を宿した大きな鳥は、その翼から分身を作ることができる。は、出かけるリゾットとプロシュートに手のひらくらいのサイズのサンダーバードを張り付かせ、どこで何をしているのか様子を見ていたらしい。
子どもに見せるようなものではない残虐な殺しもいくらかしていたはずだが、は特に動じる様子はなかった。それどころか、1度ヘマをして窮地に陥ったリゾットを、手のひらサイズのサンダーバードからは想像もつかない電撃で救ったこともあった。

「ああ、お前も…」
「家からでない、誰か来ても返事をしない、索敵をやめない」
「よくわかってんじゃねーか」

ぐりぐりと頭を撫でられると嬉しそうに笑う。こんなに表情豊かになったのはプロシュートのおかげだろう。リゾットではどうしてもああいう接し方はできない。

食べ終わった食器を片づけて玄関へ出る。とたとたとついてくる足音に振り返り額にキスをする。ひらりと飛んでくる金色の鳥はサンダーバードの一部だ。これがメンバーの帰宅の合図になる。

「いってらっしゃい、リゾット」
「ああ、いってくる」

帰る場所が明確に決まっているというのはいいものだな。と柄にもなく思って、その日の仕事はとても順調に進んだ。