「朝ごはんができたよー!」

コンコン、と扉を叩きながら入ってきたに、ノックしながら開いたらノックの意味がないと注意するのは10回を数えたところであきらめた。7歳のは世間的にはまだまだ幼い子どもだし容姿もその通りに子どもだったが、家事を覚えスタンドを使いこなしすっかり生活になじんでいた。

特に料理の腕はなかなかのもので、屋敷にいたころに世話になった日本人メイドがこっそりと差し入れてくれた料理の味を舌で覚えているらしい。リビングに出ると、もうプロシュートは食卓についていた。

「いただきます」

朝ごはんを食べながら1日の予定を確認する。早朝や泊まりの仕事がない限りは決まってこの時間が設けられる。

「今日は2人とも休みだが、新人がくる」
「えっ」

リゾットの言葉にがパンをくわえたまま声をだした。あわてて飲み込んで、ほんとに?と続ける。

「そもそもチームとして人数が少なすぎた。今日来るのは2人だが、先日顔は合わせているので問題はない」
「リゾットよォ、のことは説明してんのか?」
「…していない」
「え、あ、わたしどうしよう?隠れたほうがいい?」
「これから先、一生隠れているわけにはいかないだろう」

微妙な沈黙が流れた。

「あ、あのさ」

その沈黙を破ったのは7歳のだ。

「私が、パッショーネに入るっていうのは…」
「却下だ」

の気持ちはわかる。最も安全な策もそれだ。しかし、はスタンド能力が桁外れすぎる。これ以上成長されたらリゾットやプロシュートでも敵わないのではというレベルだ。そんな成長性のあるスタンドをもった7歳児をパッショーネ本部に紹介したら、ずっとこのチームにいられるかもわからない。最悪ボスの親衛隊としてこき使われるか。モルモットだってありえる。

「家事を担当している家政婦です、とか…」
「…ないだろう」
「だよね」

7歳児を家政婦に雇うギャング。ジョークにもならない。
考えた結果、ひらめいた。

「単純に、パードレの娘、じゃだめなのかな」
「プロシュートのか?」
「歳が近すぎるだろ…」

じゃあどうするんだ。3人が考えていると、がビクリと震えた。

「わ、誰か来た。2人。男の人。路地裏の方。黒髪の背の高い人と、それより背の低い茶色い髪の人」
「ああ…、そいつらが新人だ。出てくる」
「もう?私、ここにいて大丈夫かな。部屋帰った方がいい?」
「…いや、正直に話そう。そこにいてくれ」

リゾットはリビングを出て行った。プロシュートと取り残されて目を見合わせる。ソファに座るプロシュートに近寄りひざに正面を向いてまたがると、落ちないよう腰に手を回して支えてくれる。そのままもたれかかり肩にあごをのせると、とんとんと背中を叩かれた。

「パードレ、も大きくなったらパッショーネに入りたいなあ」
「おーおー、そのうちなァ」
「適当だあ…もう十分役に立ってると思うんだけどなあ」

くっ、と肩で笑うのが響いた。

「あ、そういえばね、この前リゾットに借りた本で読んだの。人間って、脳みそで考えるのは電気信号で制御されてるんだって。だからね、私がほんのすこーしの電気を脳に流して、例えば本当のことしか話せなくしてみたりとかって、できるのかもしれなくて」

やってみたいんだけど、どう思う?頭上の反応がわからないうちに、音でも気配でも感じた通り、リビングの扉が開く。リゾットがとプロシュートの体制をみてちょっと驚いた顔をした。降りようとしたが、腰を押さえられて動けなかったのでそのままになる。

「プロシュート、。黒い方がソルベで茶色いほうがジェラートだ」
「ご紹介どうも。ジェラートだよ」
「ソルベだ」

顔だけ振り向いたが不振そうな表情をつくった。

「ソルベとジェラートは、なんでその…腰に手を回してるの?」
「え…いやいやお嬢さん、じゃあ君たちはなんで抱き合ってるんだい?」

不思議で仕方ないといった顔のに苦笑して答えたのはジェラートだった。言われてみればそうか。なんでだろう?とプロシュートに問いかけると、なんでだろうなァ、と面白そうに笑った。

「私は。こっちのかっこいい人はプロシュート」

挨拶だけすると、はプロシュートに向き直り肩に顔をうずめた。目を閉じて息を大きく吸い込むと、香水の良いにおいがする。集中してスタンドを操ると、少しピリッとしたのかプロシュートが少しだけ身じろいだ。

「ソルベとジェラートに質問です。あなたたちは…信用できる人間なの?」
「…あー、俺らはパッショーネに入って1年くらい。それまでは2人で個人請負みたいな感じで殺しをやってたんだけど、縄張りでパッショーネと揉めちゃってさ。話し合いの結果、パッショーネに加入してここで働くことになったんだよね」
「俺たちはだいたい2人で組んで仕事してっけど、2人じゃどうにもできない仕事も少なくないからな。これからチームとして協力して頑張っていこうって気持ちはちゃあんとあるぜ」

パチパチ、と音が弾けて消えた。プロシュートとリゾット、それからソルベとジェラートも目を丸くしている。

「今の、本当だよね」
「…ああ、ほんとだぜ。なんだ今の、勝手にしゃべっちまったけど、お嬢さんがなんかやったのか?」

首の後ろをかくようなポーズでジェラートが驚いている。

「ソルベとジェラートの脳にね、電気をパチパチっとやって操れるかなって思って、やってみた」
「へえ、すごいんだな…」
「初めてやったから、失敗して死んじゃったらどうしようかと思ったんだけど、大丈夫でよかったよ」

にこ、と笑うとソルベとジェラートがぞっとしたというような顔をする。

「お嬢さん、どこでそんなこと覚えてくるんだよ…」
「リゾットの本でみた!」
「お前なあ…」
「うまく使えれば能力としては素晴らしいんじゃないか」

リゾットは感心したように頷いた。プロシュートはまたそんなことを覚えて、と苦い顔をするが、は褒められたそうな顔をしている。この顔に弱いんだよなあと自分の頭をガシガシとかくと、慎重に使うようになと告げて頭を撫でた。

「とりあえず信用してもらえたとは思うんだけど、そこのお二人の関係って何なの?」

最もな疑問だ。

「プロシュートはね、私のパードレなの」
「俺の娘みてーなもんだな」

あまりわからないという様子で左右対称に同じ仕草で肩をすくめたが、それ以上の追及はなかった。

「ま、よろしくな」
「おう、よろしくな」



memo
リゾット19歳
プロシュート19歳
7歳(12歳差)
ソルベ18歳
ジェラート18歳