リゾットはため息を隠さなかった。頭を抱える。悪ィな、なんて全然悪いと思っていなさそうな声色で言われて、その腕の中で眠る少女を見る。プロシュートの頭上では金色の大きな鳥がゆっくり翼を動かして飛んでいて、それが少女のスタンドなのだという。
突然同僚がターゲットの屋敷から幼女を連れてきたとなれば、その性癖について疑問が浮かぶ。その怪訝そうな表情を読み取ったのか、珍しく慌て気味に「ちげーぞ」と声をあげた。

ターゲットの男が勝ち目はないと思ったのか、部屋に監禁していた娘を盾にした。盾にされて苦しそうにもがく娘に父と呼ばれてもまったく動じず、自分はお前の父親ではないと何度も言い捨てた。それを聞いた娘がプロシュートに助けてと手を伸ばした。ついひるんでしまい隙ができたところにターゲットが突っ込んできたが、それをこの娘がスタンドで殺した。
リゾットもそうだが、プロシュートも子どもが嫌いではない。だからその男の態度が許せなかったのだろう。気持ちはわかる。だからといって、仮にもギャングの、暗殺を生業とするチームのアジトに連れ帰るのはいかがなものか。

「気持ちはわかる、リゾット。だが…スタンドの利用価値も高い」

だからといって利用するつもりは毛頭ないだろうに、あくまで私情で連れ帰ったのではないと強調したいらしい。

「連れてきてしまったものは仕方がない。事情はわかった」

ほ、と安どしたように息をつく。受け入れられるだろうと予想はしていても、実際には不安があったのだろう。

「…抱くか?」

眠っている小さな体をそっと差し出してみる。リゾットはしばらく悩んだ後そっと受け取り、「ちいさいな」と呟いた。



翌朝、目覚めたは何の疑問ももたず家になじんでいた。予想以上に図太い精神なのか、子どもすぎて状況が理解できていないのかは判断がつかない。
ベッドも布団も2人分しかないアジトで、どこに寝かせようか悩んだ結果しばらくはプロシュートと同じベッドに入れることになった。朝、プロシュートよりも早く目覚めたは、ベッドから降りて部屋の中をうろちょろと歩き回り、それからプロシュートの額をぺちぺちと叩いて起こした。

「ン…?なんだ、起きたのか…」
「おはよう」

朝起きていつもと違う部屋にいたら普通はもっと動揺しねえか、と思ったがそんな様子は全く見えなかった。アジトの階段は急なつくりになっているので抱きかかえて降ろす。リビングではリゾットが一足はやく朝食を食べていた。

「…適応力が高いな」
「驚くよな」
「おはよう」

リゾットをみても、は人見知りもせずおはようとあいさつをした。それから手元にあるパンをじっと見るので、腹減ったか?と声をかけるとこくりと頷く。パンを焼いてだしてやると、いただきますと手を叩いて食べ始めた。行儀も良いし、食べかすをこぼしもしない。幼く見えるだけで実年齢はそれほど低くないのかもしれない。

は何歳なんだ?」
「……」

尋ねると、リゾットの顔を見てもぐもぐと口を動かす。返事はない。もう一度聞こうとすると、ごくんと口の中のものを飲み込んでから左手を開いた。

は5歳」
「子どもだな…」

答えてからしばらく待ち、続きの会話がないことを確認してからまたパンをかじる。驚くほど行儀が良い。こうしなければいけない環境で育ったのかと思うと胸が痛むが、これから先面倒を見ていくことを考えると好都合でもある。

全部食べ終わってから、は再び手を叩いてごちそうさまと言った。その挨拶はなんだと尋ねると、ジャポネーゼの食事の挨拶なのだという。食材やご飯を作ってくれた人に感謝する言葉。誰に聞いたんだと聞けば、屋敷にいたメイドに日本人がいたらしい。彼女はのことをとても気にかけてくれ、言葉を教えてくれたのもしつけをしてくれたのもほとんどが彼女だったそうだ。
そいつも殺したかもしれねーな、と後味の悪さを感じていると、は「去年日本に帰った」と告げた。5歳にして表情から思考を読み取り気を使うとは。

「リゾット、今日は買い物出てくるわ」
「ああ…、兄妹とでもいうつもりか?」
「あー…」

スーツを着込んでを見下ろす。プロシュートは17歳だったが、身長や顔つきのせいで20歳以上に見られることがほとんどだ。は5歳と言っているが、もう少し幼く見える。兄妹というよりは。

「親子かァ?」
「…そうかもしれないな」

リゾットが少しだけおかしそうに言った。プロシュートはしゃがみ込み、に自分を父親と呼ぶように伝える。

「おとうさんは死んだわ」
「俺が次の父親だ」
「…わかった、パードレ」

きゅ、と小さな手が差し出した手の指先を握る。湧き上がる感情は何だろうか。まさか自分に父性でもあったというのか、むず痒い気持ちになる。

「もう一回呼んでみてくれ」
「パードレ」
「…よし、買い物行くか」

がばっと抱き上げると、ちょっと驚いたような顔をするがすぐに笑顔になって抱きついてきた。これはなんというか。

「リゾット、これはやべぇぞ」
「そういう犯罪だけは犯さないでくれ」

ギャングジョークだ。暗殺者が何を言う。ケラケラと笑いながら家をでた。後ろ暗い世界で生きてきて、こんなに明るい気持ちになる日がくるなんて想像していなかった。買い物はたくさんある。まずは服でも買いに行こうか。



memo
リゾット17歳
プロシュート17歳
5歳(12歳差)