、怪我してるわ」
「あ、ほんとだ。これ銃でやられたんだ、威嚇射撃だね。かすり傷だから平気だよ」
「でも、の綺麗な足にこんな…こんな傷…」
「うおっ!トリッシュちゃん、女同士とはいえ足に頬ずりはね、ちょっとね、やめてほしいかな」
「すべすべでしっとりしていて気持ちいいの、もう少しだけいい?」
「いやあ良くないでしょ。アバッキオ見てないで助けてよねえ」

アバッキオは手元の雑誌を読んでいた手を止めて頭をあげた。それから私とトリッシュちゃんを見て、「ほどほどにしとけよ。泣くまではやるな」と言って雑誌に意識を戻してしまった。泣く寸前まで許可された。アバッキオ泣かす。あとで覚えとけ。

「…ねえ
「なあにトリッシュちゃん」
「私、父に会って…どうなるんだと思う?」
「…それは……」

俯いたトリッシュちゃんの顔は暗い。そりゃあそうだ、母親が死んだだけでもショックなのに、実はまだ生きている父親はギャングのボスだから会いに来いだなんて不安がらないほうがおかしい。

「おかしなことを言うけど…私、父が、あなたたちのボスが、私を生かそうとは思わないと、思うの」
「え?」
「指令が来るのを見て思ったわ。これだけ正体を執拗に隠しているボスが、娘を見つけたからって自分のところに呼び寄せるなんて…きっと始末したいんじゃあないかって」
「そん、そんなことは」

ない、とは言い切れない。考えなかったわけじゃあない。可能性としてはもちろんあるかもしれない。どちらかというと、高い方だ。ぐ、と唇を噛む。その唇をトリッシュちゃんの細い指がなぞって、切れるわよ、と言った。

「もしそんなことがあっても、させない。私がさせない」
…」
「トリッシュちゃんは私が守るわ。私たちみんなで」

だから大丈夫。ぎゅっと両手を握りこむと、トリッシュは肩を震わせる。不安の裏返しのハイテンションだったのかもしれない。まだまだ子供だもんね。気づかなかった私が悪い。大丈夫だよ、という意味を込めて、両手をはなしてそっと背中に回してみる。私より身長のたかいトリッシュはすっぽり収まるというわけにはいかなかったけど、肩がじわじわと温かくなるので泣いてるのがわかって、そのまま落ち着くまでそうしていた。





ジョルノとミスタは何事もなくディスクを取って戻ってきた。襲撃があると思ったけれど、列車の一件で向こうにも何かしらあるのかもしれない。

たどり着いた島に上陸できるのはトリッシュちゃんとは別に護衛の1人だけ、というのが指令だった。列車で襲われたきり襲撃に合うことはなく、おそらく暗殺チームのリーダーであるリゾットにあのプロシュートという男が何か言ったのだと思う。

普通に暮らせるようになったら一緒にお出かけしましょう、っていうトリッシュちゃんが不安そうにしていたので、私は約束だよと言って両手を握った。恋する乙女のように頬を染めたトリッシュちゃんはそのまま私の手を撫でさすってきたので笑顔で手を引いて背中に隠して見送った。



待ちぼうけの船で兄のことをぼんやりと考える。リゾットは、本当に優しい兄だったんだ。正義感が強くて、真っ直ぐで、だからこそあんなことをしたのだろうというのもわかっている。正直会って何を話したらいいのかなんてわからなくって、けれど何か言いたい気持ちはあって。なんだか暗い気持ちになってきてしまったな。

まぎらわすように、アバッキオの手はそろそろ触っても大丈夫かな?とか(まだちょっとダメだった。握ったら痛がってた)、フーゴの服の穴に指をいれて数を数えたりとか(指を逆に折られそうになった)、ナランチャに算数の問題を出したりとかしながら過ごしていたら(自分でも暗算できない掛け算の問題を出したらフーゴが即答した)、気を失ったトリッシュちゃんと大けがをしたブチャラティが帰ってきた。

あまりにも気を抜いていたからその光景に驚いてしまったのだけど、トリッシュちゃんが想像していた通りになったなとどこか他人事のように考える。守ってあげるなんて言ったのに、ボスの司令でついていけない先でこんな事になってしまってごめんね。ブチャラティが抱きかかえていた身体をそっと受け取ると、その身体は怪我のせいか熱を持っていた。

「えっと……なんか、聞くまでもないかなって気がしてきたんだけど、ブチャラティはこの後どうするの」
「ボスを裏切る…ことになるだろうな」
「なるほどね」

私の目的はただ1つ兄を見つけることだけだったので、ボスへの忠誠とかどうでもいいにもほどがあった。表向き「忠誠を誓っております、信頼しております」って姿勢だけ見せておけばよかったので、裏切るというのならそれも自由だろう。

「お前らについてきてほしいとは言わない…が、」
「はいはい、いいよ。私は着いて行くよ」
「…いいのか、そんな軽く」
「私は兄を探しているだけで、組織とか別にどーでもいいからね。信じて着いて行くのはブチャラティただ1人って決めてるもの」

俺もだ、というアバッキオと、調子よく乗ってくるミスタ。ジョルノは何も言わずもう船に乗っていた。少しだけ迷っていたナランチャとフーゴも最終的には船を追いかけてきて、結局私達はみんなでボスを倒しに行くことになった。

ごめんねブチャラティ、ボスを倒すとかあなたについていくとか言ったけれど、私の目的はやっぱりリゾットを見つけるところにある。あれだけ襲ってきた暗殺チームが来なくなったってことは、やっぱりリゾットがなにかしたとしか思えないから。それなら、きっとこの先で出会えるような気がした。