ボスを倒すのに貢献したとして、贅沢をしなければ一生暮らせるくらいのお金をもらった。驚いて突き返しておろおろした私をおかしそうに笑って、これは9人分ですと言われてしまえば受け取るしかなかった。メローネはラッキーなんて言って喜んでいたけど、私は申し訳なさの方が大きかった。

ネアポリスの町はずれに私たちのアジトはあった。新しい家は海が見える郊外にある、古いけれど2人で暮らすには広すぎるくらいの一軒家だ。新しい家の掃除をして、アジトの片づけをする。

アジトの部屋を片付けるのは、精神的にとてもつらかった。みんなの思い出がつまっていて、数分起きに涙ぐむ私をメローネが必死に慰めるというなんとも無駄な時間をめいっぱい過ごした。



ホルマジオの部屋にあった、机に伏せられた写真たてには、私とコンビを組み始めたころに取った2人の写真が入っていた。こんなもの飾ってたんだ。少し日焼けした写真にうつる私とホルマジオは楽しそうに笑っていて、それは新しい家にも持って行くことにした。

イルーゾォの部屋にあった、大きな姿見も持って行くことにした。一等お気に入りらしいその鏡はとてもきれいに手入れされていて、ほこりをかぶらないように掛けられていたカバーごと運び込んでおいた。

プロシュートの部屋には、いくつかの香水が飾ってあった。1つずつにおいをかぐと知らないものもあったけれど、1つだけ、これは知っているなというにおいを見つけた。きっと普段仕事の時に使っていたものだろう。その1つだけ、割れないように梱包して引越しの荷物に寄せておいた。

ペッシの部屋にあった釣竿は、さすがに使いこなせない気もしたけれど、いつもおいしい魚を釣ってきてくれていたなあと、いつか私もメローネと海に行ってみようかなと思ったので、良し悪しがわからないけれど1番上にあったものを2つもらうことにした。

ギアッチョの部屋には…、これを見て私は崩れ落ちるように泣いてしまったのだけど、手作りの勉強用のノートがあった。子ども向けのドリルや、仕事に役立ちそうな言葉の多い本、その何ページにどういう内容があるので、これができたら次はこっち、と、几帳面にメモがしてある。ギアッチョは適当に本をよこしてこれがこうだ、という説明をするだけだったので知らなかったけれど、私のためにできるだけわかりやすくなるよう、きっちりと計画を立ててくれていたのだった。
全部持って行く、と泣いた私を撫でながら、これはそうだね、持って行こうか、とメローネが1冊ずつ丁寧に梱包してくれた。

リゾットの部屋には物がなかった。ベッドとクローゼット、以上。何にもなさすぎる。初めて入ったけど、こんなに何もないものなのか。机の中も基本的に空っぽだった。必要最低限の服があるだけだ。本当に何もないね。メローネもちょっとびっくりしていた。

執務室という名の作業部屋。ここは書斎も兼ねていて、みんなで共有できる本とか資料とかが置いてある。ここの机はほとんどリゾット専用だったなと思いだして、何かあるかもとゴソゴソ漁った。

「…あ!」
「なになに、なんかあった?」

手に取ったそれは日記だった。メローネと目で相談する。読んでもいいと思う?わかんない。どうしよう。さすがのメローネも、他人の日記を無神経に開くような人間じゃあなかったことに少しほっとしたんだけど、もうリゾットは死んでしまっているし、このまま捨てるか持って行くか。すごく悩んで、開かずに引越しの荷物に混ぜた。

リビングは家具もまるごと持って行くことにした。新しいおうちでも同じ配置にして、いつでもみんなのこと思い出せるように。思い出すのがつらくなっても、メローネがいれば大丈夫かなあ。

最後に自分の部屋。ここもほとんどもっていくつもりだ。メローネもそのつもりみたいだった。丸一日かかって、すっきりと片付いたアジトはすっからかん。私達が過ごしたそれほど長くない時間は、それでもこの場所への愛着を強くするには十分で。

「ねえメローネ、やっぱりさみしいね」
「…そうだな、短かったけど、ずいぶんと長く過ごした気がする」

手の中で燃えるマッチの焔は私たちの気持ちみたいにゆらゆらと揺れていたけれど、ぽとんと落ちて音を立てて家を焼いていった。今までありがとう、それから、組織とのつながりを断つ最後の手段として。

「いままでありがとう」って、つぶやいた声は燃え盛る炎に消されて消えた。