「ねえメローネ、どういうつもりなの?」
「そのまんまの意味だけど」
「そうじゃなくって、私達もう死んでるんだよ。まだ私もメローネも消えないってことは何か未練があるんだろうけど…まさか、私とその、なに、さっきの、…ほら」
「結婚?」
「……そう、それしないと成仏できないっていうなら、それってもう、無理じゃない…」

メローネは少しだけ考え込むようなしぐさをした。それから、やっぱり真剣な顔のまま私の目をまっすぐに見つめる。

「死んでなかったら?」
「え?」

そんなこと言われても。だって、私たちは死んだからここにいるんでしょう。

「もしもだよ。死んでいなかったら、は俺と結婚してくれるかい?」
「…そうだね。したかったな。これでも女だし、ウェディングドレスにもあこがれはあるし、相手がメローネだったら素敵だよね。みんなにお祝いしてもらえたら、もっと」

言い切る前に降ってきた口づけは深く、脳まで痺れるような甘いやつだった。苦しいって意味を込めて胸板を叩いてみたけれど、手首をつかまれて固定されてしまう。頭がくらくらする。意識がなくなりそう。私の身体、いまどうなってるんだろう。苦しいのに、くらくらするのに、心の奥底から幸せだって気持ちが湧き上がる。もしかして、もうみんなみたいに消えているのかな。

メローネの顔、最後に見たかった。けれどもう重たくなったまぶたはひらかなくて、そのままゆっくりと暗闇に落ちていく感覚に陥った。






ピ、ピ、と規則的な電子音が聞こえる。何の音だろう。わからなくて、瞼は開かなくて、体を動かそうにもとても重たい。声も出ない。どこにいるんだろう。わかるのはほんの少しの消毒液みたいなにおいがすることくらいだ。もう一度体に力を入れる。鋭い痛みがお腹にはしる。なんだこれ、痛すぎる。何、なんで、私は死んだはず、痛覚なんてもうないはず。なのに。

ぱちりと開いた目に飛び込んだのは真っ白な天井だ。まぶしさに目を細める。全身に一気に感覚が戻った。指先、動く。爪先、動く。匂い、消毒液。音、規則的な電子音。お腹は痛む。ここは病院だ。

痛くて体が起こせないのでどうなっているかわからない。人がいるのかいないのかも。けれど、隣でガタンと音を立てて椅子が倒れて、人が立ち上がって、それからベッドに手をついて覗き込まれれば、それを認識することはさすがにできた。

「メローネ?」

泣きそうな顔で見ているのはメローネだ。メローネ、泣かないで。私ここにいるじゃない。何その顔。ナースコールを押したらしい。パタパタと足音が聞こえて看護師が入ってくる。支えられて体を起こして、それからいくつか検査をして。その間私は、ずっと泣く寸前みたいな顔をキープしているメローネを気にしていた。病室が静かになるまで時間はかからなくて、そうして、メローネがようやく涙をこぼした。

、覚えてる?」
「わかんない。私、どうなったの?死んだと、思ったんだけど」





結論から言うと、私たち2人は死ななかったらしい。

メローネの身体の毒への耐性は強かった。噛まれて心臓にも負担がかかりほとんど死んだような状態になったけれど、私が立ち去った後で駅の係員に通報され救急車が来て、奇跡的に一命をとりとめたそうだ。スタンドも使えない医者だけど、最後まで諦めず患者の命を引っ張る強い意思を持った人がいたらしい。

私はというと、お腹にディアボロの腕を抱えたまま倒れ込んだ。そこを、護衛チームの新人のジョルノが助けてくれたらしい。物質から生命を生み出せるとかいうチートみたいな能力で、私のお腹にあったディアボロの腕を内臓に変えて塞ぐという荒療治だったそうだ。意識がなくてよかった。めちゃくちゃ痛そうだ。…私のお腹の中身があいつの腕でできていると思うと、かなり気持ちが悪い。

つまり、私とメローネは仮死状態になってしまったので、一時的にあの世への途中段階の未練のある世界に引っかかってしまっただけだった、ということになるんだろうか。リゾットなんかはたぶん気づいてたよ、とメローネは言った。もしかしたら全員が知っていたかもしれないな、とは思う。みんな優しから。知れば、きっと私が死を選ぶと思ったんだろう。

「寂しい?こっちに引っ張ったおれのこと、…怒ってない?」

私より一足先に目覚め、回復したメローネはもう自由に歩き回れるだけ回復している。ベッドの横で心配そうに私の顔を覗き込んで手を握る。

「怒ってないよ。でも、ちょっとだけ……寂しい」

メローネがいるから大丈夫だけどね。って言った私は、うまく笑えただろうか。ちょっとだけ自信がない。でも、マスクをしていないメローネがふにゃりと笑顔を作ったのできっと大丈夫だ。退院したら、きっと新しいボスになった新入りから今後の私たちの扱いについて話があるだろう。みんなを殺したあいつに忠誠か死か、そんなこと今は考えられなかった。

今やりたいことはただ一つ。私が動けるようになったら、こっそり抜け出してアジトに行って、それからみんなのお墓を作ろうか。