ブチャラティ率いる、ボスの娘を守りながらボスに引き渡すためのチーム。そいつらが私を警戒して、鋭い目つきで睨みつける。無理もない。今ここに近づく可能性があるのは、ボスか、その親衛隊か、暗殺チームしかいないんだから。鋭い目つきは迫力があって、こちらへの敵意をしっかりと感じるけれど、暗殺を専門にするチームにいた私からしたらやっぱりまだ甘い奴等だ。睨みつける時間があるなら殺すべきなのに。

なんか、あんたたち、人数少ないんじゃないの。その言葉は神経を逆なでしたらしい。ブチャラティも、身体ボロボロじゃない。血も出ていない。その体どうなってるの、もう死んでるように見えるんだけど。あの女、なんとしてもとらえてボスを引きずり出すのに利用したかったけれど、ボスに殺されそうになったらしい。だからボスを裏切ったんだって。殺してやるつもりでここに来たんだって。

目の前が真っ暗になって立ち止まり、ピストルの弾が腹を貫通したのにも気が付かなかった。

私達だってボスを殺したいと思ってここまで来た。みんな死んで行って、私は最後の1人になってしまったけど、ボスの足でも腕の1本でも、この際指でも眼球でもなんでもいいから、もぎ取ってみんなに見せてやりたいと思って単身ここまでやって来た。末っ子のあまえんぼなんてもう言わせない。そう思ってきたのに。
目的、同じだったんじゃない。じゃあ、なんで私の仲間は、戦って、死んでいったんだよ。私、1人でここに取り残されてさ。どうしてなの。もしここにみんながいて、同じ目的に向かって動いていたら、ねえ、もしかしたら、誰1人死なない未来もあったんじゃないの。

「ただ冷遇される現状がつらくて、待遇を変えてほしかった。そのためにボスに近づいた仲間は殺されてしまって、しばらくは黙って状況を受け入れるしかなかった…けど!ボスの娘がいるのなら、人質にしてでも拷問してでも何をしてでもボスのこと知って、引きずり出して、ぶっ殺してやりたかった…!なん、なんで私たち戦ったの!?目的、同じだったんじゃない…!何のために死んでいったの、私一人残して、リーダー、メローネ、ホルマジオも…なんで、みんななんで…、なんでよ!!」

叫んだ声はコロッセオに反響してぐわんと消えた。腹が熱くて、そこを貫いた銃弾のことを思いだす。油断して、ダメだなあ。こんな弾を受けたって知ったら、きっと、みんな私のことを叱るだろう。すぐに油断する、末っ子のマンモーナだ、って。

私の感情がごちゃごちゃになって叫びだしたことに、ブチャラティのチームの奴等は驚いたらしい。そりゃあそうだ。今まで殺してきた暗殺チームの最後の1人がやってきたと思ったら、甘ったれたことを言いながら泣き出してしまったんだから。

どうにもならない感情が止まらなくて、ただ涙をぬぐっていると、視界に影が差した。

「えっ」

呆然とする私の正面から、どろりとした気配が迫る。ああ、私やっぱりダメな子だ。真っ直ぐに突き出された腕は背中から突き出していて、熱いものが口からぼたぼたと吐き出された。もう、何やってるんだ。動揺して感情的に叫んで隙を作って殺されて。もう、私、何をやってもダメだね。みんな、ごめん。仇はとれそうにないみたいだ。これ、すごく痛いなあ。



私の仕事は人殺しだから、まともな死を迎えられるなんてこれっぽっちも思ってはいなかった。

仲間たちも、みんながみんな、楽に死ねるなんて期待を抱くにはあまりにもひどいことばかりして生きて来た。でもそれでも、自分以外の皆には健やかに生きて、できるだけ楽な死を迎えてほしいって、思ってたんだよ。誰1人かなわなかったね。

できればみんなで生きて、この世界から足を洗って、それで幸せに老衰したいね。いつだったか、そんなことを話したことがあった。みんなして「ばかだなあ」って笑ったのを覚えている。何言ってるんだろうねえって私も笑ったけど、あれは本気だったんだよ。みんな、みんなのことが大好きだったでしょう。せめて自分以外の全員は、って、全員が思っていたでしょう。



熱い、背中から出た腕がぐり、と動く。焼けるような痛みが広がる。もう、こんなに痛いなら、いっそ痛覚なんて麻痺してくれたらいいのに。

私、もう死んじゃうみたいだ。会いに行くよ。でも、あともう一瞬だけ待ってほしい。私が今から頑張ること、ちゃあんと見ていてほしい。もう尽きたような命だけど、最後の最後にどんと燃やしてみるね。暗殺チームの末っ子のちっぽけな覚悟だ。みんなへのお土産は、このお腹に生えた腕でいいかな。

霞む視界、響く笑い声、私の背後に向かう護衛チームの殺気。太ももに伸ばした手で引き抜いたナイフが、私の身体の中心に生えた腕を目いっぱいの力で切り裂いた。