まさかリーダーが死ぬはずないっていう信頼があった。メタリカって強いんだもん。器用で何でもこなしどんな武器も誰より上手に使う。スタンドだって暗殺向きで、身長が高く力持ち、用心深い、自分の姿も消すことができちゃうリゾット・ネエロ。最強のリーダーがまさか、負けて、頭に穴をあけて片足を切断されてここにいるなんて、思わないじゃない。

これまで何人もの仲間の亡骸を見て来たのに、なぜかその光景が信じられなかった。どういうことなの、リーダー、リゾット。呼びかけても返事はない。傍らに落ちる足首の切断面を覗いた。なんにもいない。傷口の中にメタリカがいない。

身体を直して、そっと抱き起そうとしたら持ち上がらなかった。体が大きすぎるんだよ。張りつめていた緊張の糸がプツリと切れて、思わず笑ってしまった。あはは、リーダー、本当におっきいな。

ねえリーダー、部下がどんどんん死んでいって、そのたびにこぶしを握り締めて、最後、私が行きますって言うのを無理矢理おさえてつけて、「必ず帰ってくる」って言って扉をしめたあと、あなた、どんな顔してたんですか。どうして、帰って来てくれなかったんですか。

私の忠誠はすべてリーダーに捧げていました。あなたの命令で命を投げるならそれでよかった。死に行ったわけじゃない皆に失礼だけど、どうせいつか死ぬのなら、みんなと一緒に死にたかった。なんで、私1人だけを残していったんですか。少しだけ声を荒く問いかけても、返事はない。

いつか、テレビでみたシチリアの景色が綺麗だと話したことがありましたね。行ってみたいなあと言ったら、いつか行こうっていってくれた。いつかって、守られない約束の枕詞じゃないですか。でも、まあ、楽しみにしてます。って笑ったら、珍しくリーダーも目を細めてシチリアが生まれ故郷であることを教えてくれました。私、リーダーが自分のこと話すの、あれで初めて聞いたんです。きっと良いところなんでしょうね。連れて行ってほしかった。

みんなとの出会いをくれたこと、とっても感謝しています。私を、路地裏の薄汚いクソガキみたいな私を、拾い上げてくれてありがとう。人をだまし、殺し、盗み、ゴミ箱を漁って生きてきて、いつ死んだっていいって思って生きていた人生だった。けど拾われてみんなに出会ってからは、うまれてはじめて、死にたくない、生きていたいって思いました。あなたは私の命の恩人、そんな言葉じゃ言い表せないくらい大切な人なんですよ。

重たいから、横たわったままのリーダーに手を合わせる。私、あと少しだけ、全力で生きますね。





お前を拾ったのは、気まぐれというよりはもう少し欲のある理由だった。こんな世界に身を置いているけれど、10代のほとんどを光の当たる場所で生きてきた。ちょっとしたきっかけで踏み外したけれど、その踏み外しのきっかけとなる人物に、はとてもよく似ていたのだった。容姿や内面ではなく、纏っている雰囲気が。

任務でも何でもない1日に、特に意味もなく立ち寄った路地裏には座っていた。真横に立って突然姿を現したリゾットに驚くこともなく、殺すなら殺せばいいけど、今は金目のものは持ってないよと掠れた低い声で言ったのだ。何もかも諦めたような黒い瞳には何の感情も宿っていなくて、それがひどく胸をざわつかせた。

気づけば組織に引き入れ、手のかかる末っ子として面倒を見てしまっていた。が来てから、チームの雰囲気は明るくなった。なんとなくバラバラで個人主義だったメンバーが、アジトに集まるようになり会話をするようになり、協力して任務をこなすのがうまくなった。雰囲気がやんわりとまとまっていったのはの功績だ。

俺の身体を持ち上げようとしたは、少しだけ踏ん張ってからあきらめたように笑った。お前には無理だろうな。そこに置いといていい。足がつながり、穴がふさがり、それだけでもう十分だ。アサシーノとしては考えられないほどの優しさを持つ少女に苦笑した。

1人にしてしまってすまなかったな。シチリアへ行く約束も、守れなくてすまない。できればこのまま身を隠し、明るい世界で生きて行ってもらえたら。そんな思いは届くはずもなく、リゾットの死体に話しかけるの目には決意が宿る。

行ってほしくない。全員にそういわれていただろう。でも、お前は行くんだろうな。聞き分けのない、本当に困った末っ子だ。