マスクの下の素顔、最期まで見られなかった。

スタンドを使って直さなくても眠っているだけみたいな顔のメローネは、毒蛇に舌を噛まれたみたいだった。遠距離スタンドだから、接近戦に弱いんだよなあと言っていたのを思い出す。だからって、こんな攻撃をしてくる敵がいるなんて反則なんじゃないの。毒蛇ってなんだよ。どんな能力なんだよ。

しんだメローネは抵抗できない。だからこっそり、マスクに手をかけてみた。メローネはこれを外さない。何のこだわりかわからないけれど、大事なものらしかった。服装により色や素材が違うこともあったけど、絶対に外すという選択肢は選ばなかった。素顔が見てみたいなとずっと思っていたので、最後の機会にという悪い気持ちが動いたのだ。

けど、やめた。苦しかったかもしれないけど、綺麗な姿で死ねてよかった。死んでよかったということはないけれど、ほかの人に比べたらずいぶんと綺麗だったから。サラサラと音が聞こえそうな綺麗な金髪は私のあこがれだった。そんな綺麗な髪の毛をざっくりアシンメトリーにカットしてしまうんだからもったいない。でも、そういうところを含めてメローネなんだよね。最後まで、私の記憶の中ではいつものメローネでいてもらおう。

えげつない変態ってイメージが強いメローネだけど、私は大好きだったよ。母親探しに付き合ったことが何度かあるけれど、そういうことをするときはさりげなく私を遠ざけてくれた。遠ざけられているのに気づいたのは2,3度の任務を共にした後で、なんてスマートなんだと感動した。かっこいいよメローネ。初めてそれを聞いたとき、私が恥ずかしがって真っ赤になったのをからかって笑ったくせにね。苦手なんだろ、ああいうの。なんで遠ざけてくれるの、と聞いたのに対する答えはそれで、気遣ってくれるなんて思わなかったから驚いたよ。

美人だから女性なんていくらでも寄ってくるだろうに、がいいんだって迫られた日のこと、今でもはっきりと覚えている。瞳の奥に欲が燃えているみたいですごくドキドキした。普段の様子からは考えられないくらいに優しく触れられて全身が燃えるように熱くなった。なんでか普段はそんな気がしないんだけど、メローネってがっちりしていてたくましいんだよね。優しくて穏やかなお兄さんが急に男性に見えて戸惑ったけど、私、嬉しかったよ。

結局気持ちの返事を伝えていなかった。今度会えたらちゃんと言いたいなあ。メローネ、私、雰囲気に流されちゃったんじゃないんだよ。ちゃんとメローネのこと、大好きだ。亡骸の唇は冷たく濡れていて、しょっぱい味がした。





ねえ、泣いているのかい?

ホルマジオが死んでも、イルーゾォが死んでも、プロシュートが死んでも、ペッシが死んでも、頑なに表情を殺して耐えていたのに。俺が死んだら、は泣くのか。良いねその顔、可愛いよ。愛しくてたまらない。

まさかベイビィが毒蛇になって帰ってくるなんて思わなかったから、完全に油断していた。多少の毒には耐性があるつもりだったけど、さすがにあれは無理だったね。体に負担がかかって、心臓がゆっくりとまっていくのを最後まで感じていた。死ぬ瞬間、こんなにあっさり死んでしまうなら、無理矢理にでもあの時の返事を聞き出すべきだったなあなんて全く関係のないことを考えていたよ。

はそっとマスクに手を伸ばした。ああ、やっぱり気になってたんだ?いいよ、外しても。別に隠していたわけじゃあないんだ。もしが良い返事をくれて、それで気になるっていうなら、見せてもいいって思ってたし。

マスクに手をかけたは、しばらく悩んでからそっと手を下した。もし俺が隠しているんだとしたら、死んだ後に勝手に見るのは卑怯かな、とか、そんなこと思ってるんだろうなあ。わかりやすいよね、って。良い子だよね。こんな良い子に、なんで神様はアサシーノになる運命を与えたんだろう。あまりにひどいんじゃないか。こんな運命を選ばせた神様なんて、俺が殺してあげようか。

どうしても触れたくて、ほとんど無理矢理に迫った夜があった。戸惑いながらも抵抗しないで、それどころか腕を伸ばしてきて、怯えるどころか少しうれしそうに笑ったから、もしかしたらって俺のこと好きなんじゃないかと思っちゃった。好きだよって言ったのに、そうなんだ、嬉しいって、返事にならない言葉を返してふんわりごまかして、ずるい娘だなって思ったよ。

だからさ、ねえ、そんな死体にじゃなくってさ、ちゃんと俺にしてほしいんだけど、わかるかな?でも、ここには会いに来なくってもいいからね。こんなことからは足を洗って、どうか逃げて、明るい世界で生きてくれたら。