プロシュートはいつだって自信にあふれていて眩しかった。できるかな、こわいな、不安だな、って実行の瞬間まで心臓が張り裂けそうな私をいつも呆れたように笑って、大丈夫だ、と背中をトンと叩いてくれた。背中にあたる温度はとても優しく、それは彼の自信を私に分け与える儀式だった。

あなたがいないと、私、人を殺す瞬間に震える足がとまらないんだよ。銃を撃つ瞬間、相手の脳が壊れる瞬間、一緒に自分も死んだような気持ちになる。アサシーノには向いてねーなと笑うあなたは、私がこれ以外の方法では生きていけないことを知っていたから、笑顔は少しだけ切なそうだった。思い上がりじゃあなかったよね。

私のこと、あなたは手のかかる妹分か、もしくは付きまとってくる犬とか、そういうくらいにしか思っていなかったかもしれない。あなたは美しい人だから、私みたいな平凡な女のこと、きっとなんとも思っていなかった。

車輪に巻き込まれボロボロになった身体は、最期の一瞬まであなたが戦い抜いたことを教えてくれる。すごいね、かっこいいよ。そんな覚悟、私には持てなかったと思うよ。ああ、でも、そう言ったら、あなたは背中にあたたかい自信をくれるんだろうな。

ちぎれた身体が元に戻る。いくつか足りない部分は、やっぱり戻せなかった。穏やかに眠っているような顔をしているけれど、乱れた髪型も戻せなかった。いつだってきっちりしているあなたの髪がおりているところ、死んでから初めて見たよ。少しだけ幼い印象になるんだね。でも変わらずに綺麗だよ。その顔で何人の女を泣かせたんだろう。

そっと指に絡めた金の一筋にキスをして、地面に体を横たえる。これ以上のことはしてあげられないから、ごめんね。





いつだって弱気な女だったな。ぐちゃぐちゃになって死んだ自分の身体を見て、それに近寄る女を見て、プロシュートは呆れた溜息をついた。ターゲットにとどめを刺す瞬間、近くにいるだけで鼓動のリズムがわかるほど緊張し動揺する、アサシーノには本当に不向きな女だった。それでも、出来ないなんて言わないで、真っ直ぐ打ち出された弾丸は正確にターゲットの脳を破壊する。精神のバランスが、ひどく不安定な女だった。

安心させてやろうと、何の気もなく背中に手を当てた。小さな薄い背中だ。その心臓はプロシュートの手のひらで簡単に握りつぶせるほど小さいのだろう。それなら、そっと握りしめて落ち着かせてやることだってできるんじゃあないか。らしくもないことを考えての行動だった。目に見えて落ち着いたリズムにはほっとした顔をして、それは2人で仕事をするときの決まった儀式のようになっていった。

美人でもなければ派手でもない、まったくプロシュートの好みから外れている小さな女は、それでも心の大きな部分をとらえて離さなかった、それは庇護欲に似たものだったのかもしれないし、仲間としての想いだったのかもしれない。今でも、はっきりとした区別はついていなかった。

引きちぎられた体のパーツが復元されて、ほどけた髪が顔にっかあった。そんなだらしねぇ恰好を他人に見せるのは初めてだ。顔にかかる髪がそっとはらわれて、毛先に戯れみたいなキスを受けた。抱いた気持ちの正体は、やっぱりわからなかった。