ペッシはプロシュートを兄貴と呼ぶけれど、私にとっての兄貴はホルマジオだった。いかつい坊主頭にでかい身体、声も大きければ仕草も雑で、いかにも男って感じの人だった。豪快に笑う声が好きで、上から押さえつけるようにぐりぐりと頭を撫でられるのが大好きだった。

全身を火傷して穴だらけになって、息絶えているあなたを見つけた私がどれだけ怖かったかわかりますか。じゃ、行ってくるわ。って、いつも通り出て行ったんだから、いつも通りにただいまって帰って来てくれないとダメじゃない。私には口うるさく生きて帰って来いよって、それはもう耳にたこができるほど言い聞かせておいて、自分が死ぬなんてどういうこと。

帰ってこないと、あなたの猫ちゃん、寂しがるんじゃないかな。俺に万が一があったときには、こいつらを頼むな。そう言われたのはもう遠い昔だね。縁起でもないこと言わないでよって怒って、それから、ホルマジオが死ぬならそこで私も死ぬんだよって言った。そしたら、言い出したのは自分のくせに、そのことを棚上げして、縁起でもないこと言うなって不機嫌な声をだしたね。ちょっと喧嘩しそうになって、でも、おめーのことは俺が必ず守るから一緒に死ぬなんてことはありえねェ、なんてあまりにもかっこいいことを言って、それで私は照れてしまって。本当にかっこいい兄貴だよね。

壊れたものを直すことができる私のスタンドは、人間相手には役に立たない。壊れた武器や建物を修復する後始末の仕事が最も多く、戦うときもホルマジオとペアでいることが大前提だった。矢とか大きなナイフ、鉄の棒をリトルフィートで小さくして粉々にする。私がそれを修復するのと同時にリトルフィートを解除すれば、とたんに串刺しになるターゲット。最初は掛け声が必要だったよね。タイミングがずれて失敗したり、自分が怪我をしたり、それが原因で追い詰められたり。いつのまにか阿吽の呼吸で、アイコンタクトもなしにタイミングを完璧に把握して戦えるようになったんだよね、いっぱいいっぱい殺したね。無残な死体をたくさん積み上げた。今のあなたよりひどい状態のものだって、たくさん。

死んでしまった人間は物みたいなものだ。手をかざすと、傷だらけの体から火傷や穴が消え去って、見慣れたいつもの寝顔になった。せめて最後にきれいな姿が見たいだなんて、今まで殺してきた人たちはどう思うだろうか。

ねえホルマジオ、こんなことを言ったら呆れちゃうかな。それとも照れてくれるかな。案外、余裕そうないつもの笑顔を見せてくれるかもしれないね。この気持は恋じゃない。家族として、兄貴、私はあなたを愛してるよ。





死ぬな、と思った時、まず思い浮かんだのはの顔だった。クソ生意気で甘ったれで全然戦うのに向いていないスタンドの女だ。怖い、失敗したらどうしようとすぐに泣くくせに、後ろを向いて逃げ出すことは絶対にしない奴だった。

スタンドの相性が良いとペアで仕事をするようになり、リトルフィートも使う幅が広がった。感謝してるぜ。声に出して合図をしてもタイミングがずれて、けがをさせたり、させられたり。いい加減にしろと怒鳴ったこともあったな。それでも、ごめんと謝るよりも次はやりますと、うるんだ強い視線を向けてきた。根性だけはあったな。お互いの考えていることが手に取るようにわかるようになって、距離をあけていても「ここだな」というタイミングがばっちり合うようになった。相棒として、認めてたんだぜ。

暗殺者として甘い考えだが、俺はお前を死なせたくなかった。パッと行って片づけてきてやる。いつも通り、買い物にでも行くようにアジトを出た。相手は子ども1人だし、まさか負けるわけねェっつう慢心が招いた結果かもしれねーな。油断するなと口うるさく言っておいて、情けない限りだ。

無様だな。死んだ自分の身体が見える。焼け焦げた死体に影が落ちる。だ。おいお前、何やってんだ。死んだ奴のことなんてほっといて、さっさとアジトに帰って寝てろ。俺がダメでも、次、その次とほかの奴等がボスの娘を狙う。できるだけ安全に、誰かがそれを成し遂げるのを待ってろ。

俺の猫を頼んだぜ。俺にすら懐かないあいつらは、には随分と懐いていて、すぐに部屋を抜け出しての足元にまとわりつく。あぶないよ、と言いながら猫を抱きかかえてほおずりするの姿があまりにも平和で、意味もなく泣きたいような気持になったことがあった。どんな任務に出ても、絶対に最後まで守り抜こうと思ってた。そばにいられなくなって、悪ィな。

そっとの手が触れて、自分の死体から傷が消えていく。何も感じなかった。死んでしまった魂と肉体はまったくの別物らしい。

それでも、ぼそりと呟かれた言葉は、まるで本当に耳元でささやかれたように響いた。そのまま、こらえろ。泣くんじゃねーぞ。もう慰めてやれねぇからな。しょーがねぇなあ、と、笑いたかった。