たまたま通りかかった道にジェラート屋があった。
悪いものでも食べたのか今朝からなんとなく調子が悪い。ムカムカするのがお腹か、胃か、何なのかわからなかったけれど、どうしても収まらないそれをどうにかしたくていつもとは違う道を散歩していたところにあったそのお店には「限定・メロン味」なんてパネルが置いてあった。なんとなく目についたから足を止める。カップルが仲良さそうにフレーバーを選ぶ様子をぼんやり眺めた。限定なんだって、とメロンを指さす女性をみてくすりと笑う。

メロン味。もし自分が食べるのだとしたら、それはまるで共食いみたいだとメローネは心の中で思う。何となく面白くて、それを誰かに言いたくなった。

――メローネがメロンを食べるの?なんか面白いね。

ふと女の声が聞こえた気がして、メローネは辺りを見回した。

「…誰だ?」

見回しても誰もいない。そもそも自分の名前を知っている者が突然ここにいるわけなんかないのだし、からかってくるはずだってなかった。

「…?」

空耳だろうか。疲れたのかもしれないな。
甘いもので糖分を補給しようと、メロン味を1つ注文する。限定と書いてはいるけれど、このメロン味って結構昔からここにあるんじゃなかったっけ。以前に来た時も、こうして限定だからって理由でメロン味を頼んだ気がする。

…以前に来た時。何の話だ。記憶にざわざわとノイズがかかっていいくようだった。以前にも、こうしてメロン味を頼んがことがあるような気がする。そんなはずはない。だって今たまたま通りかかっただけで、この道だって初めて歩いたのだから。
けれどでてきた甘い味は初めて食べるはずなのになぜか覚えがあって、あふれるように湧き上がる感情の波はお腹の中からじわじわとせりあがってくるようだった。やがてそのもやもやは喉元まで登ってきて、メローネはついに涙をこぼす。

「……治すたび記憶を奪っていくスタンド、って何だよ…」

嗚咽と一緒に呟いたから声になったのかわからなかった。一口食べて突然泣き出したものだから店主が狼狽えたように声をかけてくる。周りにいたカップの女性が心配そうな声をかけてきた。けれどその白い手に握られたアイスまで「メロン味」の緑色で、細い手はまるで今ゆっくりと記憶の中で色を取り戻していく彼女を連想させるのだから逆効果だ。

ああそうか、なんだかいつだって少し物足りないような気がしていて、生きていてもどこかつまらなくて、リゾットたち他の仲間と連絡をとってもどうしても何か不自然な感じがしていた、その正体がやっとわかった。

俺はのことを忘れていたんだ。