のことを思い出した3人はの現状を調べた。

はまだパッショーネにいること。新しいボスのジョルノの直下のチームで護衛の仕事をしていること。
のスタンドには攻撃能力がない分、銃やナイフの扱いは他のメンバーと比べても目いっぱいに仕込まれている。現ボスの要望にもしっかり応えられる実力があったというのならそれを育てた自分たちを誇りに思う気持ちが半分、守り特化のスタンドを発現するような心の少女に攻撃を教えた罪悪感が半分といったところだろうか。

そして、最も重要な情報が1つ。

「現在のボスのジョルノ・ジョヴァーナだけど、スタンドはゴールド・エクスペリエンス。物質に生命を与えるスタンドらしいけど、こいつで失った体のパーツをつくったり傷を埋めることができるらしい。つまりは、このチームでスタンドによる治癒をすることはない」

それが記された部分を指でトントンとたたきながらジェラートが言った。

「つまり今のの仲間である、元・君たちの敵は、の記憶を守ってくれてるってことだ」

リゾットの表情が曇る。
の記憶が消えてしまうとわかっていながらスタンドを使わせ続けたのは自分たちだった。大丈夫だよとが笑うから、自分だけは絶対に怪我をしないという誓いを立てたから、リゾットはのスタンドの使用をとめなかった。それなのに結局守れず全員の中からの記憶を消させてしまって、敵だった奴らの中に放り込んでしまったのだ。そこでがスタンドを使わず、誰からも忘れられず、笑って生きているのなら。

「今更思い出したなんて言って出て行くのは、にとって良いことだろうか…?」

リゾットの呟くような声に、ソルベもジェラートも答えを出せないでいた。



     *



「…ふうん」

誰もいない部屋でぽつりとこぼした声は静寂に消えていった。ジョルノのことをこそこそ嗅ぎまわっている奴らがいるなと調査してみれば、なんてことはない暗殺チームの生き残りじゃあないか。のことを忘れてのんきに生きて来た奴らが今更何の用があるのか。彼女を自分たちの仲間として引き入れようとした当時のことを思い出す。あれだけ頑なに心を閉ざしてふさぎ込んでしまった原因のくせに、今更でてきて引っ掻き回されたらたまらない。またがあんな風になってしまったらどうしてくれる。

「フーゴ、フーゴどこ行ったの?聞きたいことがあるんだけど…」

扉が開いて、「あ、いた」と笑ってが顔をのぞかせた。うつ伏せに書類を置いてそちらへ向かう。

「なんですか?」
「あのね、この前の仕事の報告書なんだけど…」

こうして自由に歩き回って、声を出して、笑って。やっとそんな風に生きて行けるようになったをまた崩されちゃたまらない。場合によっては実力行使に出る必要があるなと、ぼんやりと考えながら部屋を出た。



     *



はディアボロを打ち倒したあとで組織の内部を調査していた時に見つけた女性だった。切り立った崖の上、高いところからぼんやりと海を見下ろす小さな背中を発見したとき、あんなに激しい戦いを繰り広げた暗殺チームの最後の1人にしてはなんてよわよわしくて、頼りないんだろうと思った。

「…護衛チームの方々でしょう。私はぶどう畑の街のそばで戦ったリトル・フィートのホルマジオや、ポンペイの遺跡で戦ったマン・イン・ザ・ミラーのイルーゾォや、フィレンツェ行きの超特急で戦ったザ・グレイトフル・デッドのプロシュートや、ビーチ・ボーイのペッシや、…メローネはどこで戦ったんだろう?遠距離ハイパワーのチートみたいなベイビィ・フェイスのメローネや、ヴェネツィアで戦ったホワイト・アルバムのギアッチョや、サルディニアで戦ったメタリカのリゾット・ネエロの仲間でした。暗殺チームのといいます。スタンドは”アンジュ”、相手と自分の思い出を対価にどんな傷も癒します」

抑揚のない淡々とした語り口で一息に話すと、と名乗った女性は顔を上げてジョルノを見た。

「こんな何の攻撃力もないスタンドの私を、なぜかリーダーのリゾットは暗殺チームに引き入れてくれました。そこでみんなと精一杯に楽しく生きていっぱいの思い出を作ったから、私の天使は死んでしまったみんなのことを生き返らせることができた。あなたたちが殺したんでしょう?でもみんな生きています。私と過ごした10年分の思い出を対価に生き返って、きっとそれぞれどこかで幸せに暮らしてる。……みんなのことみたいに、私も殺しますか?」

ことりと首を傾げる瞳にはなんの光も映していなくて、ジョルノもすぐに返事ができなかったらしい。

「ううん、殺してくれた方がいい。だって私、みんながいないのに生きて行くなんてもうできないかもしれない」

直前までの暗い表情が一変、ぱっと明るく笑ったは急に立ち上がってくるりと回った。

「みんなは生きてるけど私のことは覚えていない。私のことを好きな人はもう誰もいない。誰も悲しまない、じゃあもう、こんなつらい気持ち全部なくしてしまいたい。そうね、みんなを殺したあなたたちに殺されるよりは…最後くらい、自分で」

ふらりと、その足が崖の淵を蹴った。音を立てて崩れた石がずっと下の海に落ちる音がする。
慌ててブチャラティが腕を引くと、力の入っていなかったの体は簡単に後ろにひっぱられ尻餅をついた。

「……あは、なんでとめたんですか。このスタンドが使いたいなら無駄です。思い出がないと…私が好きになれないと誰の傷も治せない。私はもう誰も好きにならない。だから私はもうスタンドなんかもってないただの人殺しなのに」

俯いて座りこみ、それきりは話さなくなった。
置いておくわけにもいかなければここでむやみにを始末してしまおうとする者もいなくって、結局びくともしないをアバッキオが抱きかかえて帰ったのだった。

の人間不信は重症で、誰とも口をきかないし食事もとらない、隙さえあればアジトにしている住居から逃げ出してしまうので大変だった。ここにいる誰よりも年上のくせして絶対に譲らない頑固者だった。それでもかまい続けるナランチャやミスタに、少しくらいは心を許してくれたのかなと思う少しだけゆるんだ表情を見せてくれるころにはもう数か月がたっていたけれど、それでも決して口をきかなかった。