プロシュートの厳しさはいつだって優しさの裏返しである。飴と鞭というけれど、プロシュートの場合は飴1割の鞭が9割。そんなんだから、ときどきふってくる飴だって何かの罠なのではないかと疑ってしまうこともあるのだけど、その飴はこの世の何よりも特別で贅沢で甘い甘い飴なのでおそるおそる受け取ってみるんだ。…たまに、普通に騙されて鞭で打たれたりもするけど。

「下手くそ、鈍ったか?」
「すみませんプロシュート」
「言い訳しないところは褒めてやる。次だ」
「はい!」

建物まるごと1つを制圧しろっていう大変な仕事、私とプロシュートの2人で行って来いなんて無茶すぎる。けれどどうしても他の人は予定があわなくて、時間もなくて、何よりここは子どもの人身売買を行っていた組織の警察から逃げおおせた奴らの集まりだからリゾットの感情としてもはやく処理したかった。
しかたないなあと乗り込んで、プロシュートのスタンドで中の人を弱らせながら正確に脳を撃ち抜いて1人ずつ仕留めていく。思ったより人が多いから時間がかかって、3階にあがったころには私はときどきぴったり正確な射撃ができなくなり始めていた。
まるで射撃練習のようだ、と思う。生きた人間をスタンドで弱らせて撃ち抜いていくなんて悪趣味にもほどがある練習だ。厳しい目をしたプロシュートは私を見ない。まっすぐ、私が仕留めるべきターゲットを見ている。
本来気性が優しいのであろうプロシュートの殺しは穏やかだ。厳しく見える綺麗な容姿と乱暴な言葉遣いと態度からは想像もつかないのだけど、思ったよりずっと優しい殺し方をする。抵抗できないほどに老化させたら、脳幹を一撃で貫いて即死。きっとこわいとか苦しいとか、そう思う時間は限りなく少ないんだと思う。

階段をあがって、1部屋ずつ確認して、そこにいる人間を全員銃で撃っただけの仕事なのに、なんでこんな、膝に手をあてて息を切らしているのか。最後の1人を仕留めて全員始末したのを確認して、「終わりだ」っていうプロシュートの声を聞いた瞬間に銃を放り投げて大きく息を吐いた。もうだめ、本当に疲れた。肩も痛いし腕も震えている。体力ないなあ、怒られちゃう。なんならこのまま帰って即トレーニングなんて言い出しかねないのがプロシュートなので、おそるおそるその綺麗な顔を見上げてみた。

「よくやったな」

目があって、澄んだ青色の瞳が半分くらい隠れるような笑みを浮かべてプロシュートが言った。そんな、ストレートに褒めてくれるなんて。ぽかんとした私はまだ息を切らしていたから顔も赤くて、本当によかったと思う。照れで頬が赤く染まったような気がしたから。

「あ、…ありがとう。珍しい、プロシュートがそんなこというの」
「たまにはな」

ぐしゃぐしゃ、と髪の毛をかき混ぜるように撫でられた。本当に珍しい。機嫌が良いのか何なのか、裏があるんじゃないかと逆に怖くなるくらい。でも、傷1つ、汚れ1つないスーツの裾を見てはっとした。そうか、怪我をしなかったからかもしれない。プロシュートも私のスタンドのことを覚えていない。それなのに、どうしてか私がスタンドを使って傷を治そうとするのを嫌がるのだ。それは記憶があったころに染みついた嫌悪感なのかもしれなくて、忘れてしまっても本能的に避けるほどには私のスタンドの”副作用”を嫌っていたらしい。

なんて優しい人なんだろう。私がスタンドを使わなくっていいように、全部私にやれだなんていう矛盾した指示を出すプロシュート。いつだって厳しいけれど、その厳しさはいつだって、私のための優しさなんだ。

膝の震えも収まって、床に落ちた銃を拾い上げる。さあ帰ろう、と振り返るのと浮遊感が襲ってくるのは同時で、私はプロシュートに抱き上げられていた。

「わっわっ、なに、」
「帰んだろ。眠ってろ」

最高にご機嫌で、そしてどうやら飴の日だったらしい。うん、と肩に顔を埋めて目を閉じる。そんなに丁寧じゃない歩みだけど、その振動は疲れた私の意識をあっというまに夢の世界に放り込んだ。