ペッシは唯一私よりあとにこのチームにやってきた。主にプロシュートについて仕事に出てるけれど、まだ殺しの経験はないらしい。だから怪我なんかすることもほとんどなくって、それなのに最初の数回でピンポイントに私のスタンドについてを忘れてしまったのは本当に都合が良かった。あんまりにも優しいから、覚えている間のほんの数回、骨が折れているっていうのに私のスタンドを攻撃しようとしてくるんだもん。困っちゃうよね。

「君みたいな小さな女の子もいるの?」とは、所属して最初にペッシが私に言った言葉だ。

ギャングなんてまともな常識通用しないんだよ。自分から入ってきたひともいる。これしか生きる道がなかった人もいる。無理矢理に叩き落された人だっているし、性別も年齢も能力も関係ない。ダメなら死んで、はい、おわり。そういう世界だ。

このペッシという穏やかで優しくて殺しをしたことのない青年を、プロシュートがどうして連れて来たのかわからなかった。けれどスタンドは確かに便利で暗殺向きだったし、磨けば光る原石だっていう表現はしっくりきた。何か感じるものがあったんだろうな。

ゆっくりと、成長していくペッシをみているのは私もなんだかたのしかった。年上の男性に向かって失礼かもしれないけど、ペッシは可愛かった。私のことを妹みたいに思っているらしいけど、私からしたら後輩のペッシは弟みたいな存在だった。

「ペッシ、他に人はいない?」
「…大丈夫。ターゲット1人だけだよ」
「おっけー、ありがとう」

ビルの屋上から狙いを定める。スタンドで目標を捉えるソルベ&ジェラートコンビにはかなわないんだけど、ジェラート仕込みの私の狙撃はなかなかのものだ。こんなところから、と少し不安そうなペッシに大丈夫だよと声をかけて伏せて、狙うはあの窓に現れるターゲットである。息をひそめてじっと待って、やがてターゲットの姿が窓に現れた、瞬間。

パン、と窓ガラスに飛び散る血しぶきに、ペッシは小さく悲鳴をあげた。私の心臓もドキドキと速いからその気持ちはわかるよ。こういう人間らしい気持ちをなくさないでいたいって思っていたけれど、最近は昔ほど怖くなくなってしまった。人としてよくないことで、暗殺者として良いことだ。

「今日はあのままでいいんだよね。かえろっか、ペッシ」
「う、うん…」

ああいうのを見ると動揺してしまうペッシのことはとても好ましいと思っている。だから落ち着かせてあげるために、できるだけ優しく、笑って手をとった。女の子に慣れていないらしいペッシはこの距離感があんまり得意じゃなくてどきどきしてしまうからやめてほしいのだと前に言っていた。どきどきするのならちょうどいい。怖くて、不安で、そういうどきどきを、私と手を繋いだどきどきで上書きしちゃおっか。

「思ったより早かったねえ。帰って報告書かいたら、一緒におでかけしよっか」
「いいよ。…あの、
「ん?」

手を引いて歩いているのにペッシが立ち止まったので、ぐいっと引っ張られて立ち止まった。真剣な目をしたペッシがじっと私を見ている。

「どうしたの」
「あの、…ありがとう」
「ええ?何が?変なペッシ」

いつになく真剣に何を言うかと思えば。笑ったけれど、ペッシの表情は真剣なままだった。

「俺がこわがるから、こうやって落ち着けようと明るく振舞ってくれてるんだよね、だから」
「…ペッシは察しが良くって、観察力が優れていて、スタンドの性能も申し分ない。成長してほしいだけだよ」
「あは、兄貴にも言われた」

ふっと真剣さを崩して笑ったペッシが、離れかけた私の手をぎゅっと握りなおした。驚いて目をぱちりとさせた私にくすくすと笑って、「俺だって、少しくらい成長してるさ」と握った手を持ち上げる。

指先が触れただけで慌てて振りほどいて真っ赤になってたペッシがねえ、って、年上のペッシにお姉さんみたいな気持ちを抱いた。ほら、帰ろうってぐいっと手を引くペッシについて歩く、見上げた青空と真っ赤になった耳の鮮やかな色彩はきらきらと目に焼き付いた。