珍しくソルベが1人でアジトにいた。

「珍しい。ソルベが1人だ」
「なんだよそれ。そういうこともあるだろ」

ソルベって無口なんだと思ってた。けれど、ジェラートがいないと普通にしゃべる。つまりソルベの言いたいことはすべて、一緒にいるおしゃべりのジェラートが話しちゃうってだけらしい。

「いやいや、めったにないよ。どうしたの、ふられたの?」
「付き合ってない」
「知ってる知ってる。怒んないでよごめんね」

両手を合わせて首を傾げれば、別に最初から怒ってなかったソルベは表情を和らげた。リゾットと同じくらい表情のわかりにくい人だけど、慣れってすごいものでその微妙な変化が感じ取れるようになる。

「隣いい?」
「ダメって言ったら立つのか?」

ぼすん、とソファの隣に腰掛けて聞くと、ソルベはちょっぴり呆れたみたいな笑いを含んだ声色で返した。ううん、立たない。むしろソルベを追い出す!と体を両手でおしてみたけどびくともしない。さすがソルベだ。武器がなくたってターゲットをころしてしまうその腕力、見習いたいものがある。見習わないけど。

「……最近は、どうだ?」
「ん?何のこと?」
「ちゃんと眠れてるのか、って聞いてるんだ」
「ああ…」

戦闘力という観点だと、ソルベはリゾットの次に強いかもしれない。だから怪我をすることもあんまりなくって、それにジェラートがあっという間に手当をして帰って来るものだからあんまり私のスタンドを使ったことがない。つまりリゾットと同じく、このチームで私について覚えていることが多い人物でもある。過去のことについて、とかも。
確か全員に話したはずなんだけど、そのことを覚えているのはもうリゾットとソルベとジェラートだけだった。みんな忘れてしまう。それでいいんだ。変に気を使われるより、それで優しくされるより、普通のギャングの女の子として接してくれた方が私も気が楽だから。

私の目の下にクマがあったらしい。軽く指でなぞって眠れているのかと聞くソルベは鋭いねって笑ったけれど誰だってわかるだろうなと思った。

「実はあんまり。なんか事故の日の夢を見ることが増えちゃって」
「疲れないか?」
「最近私に回ってくるお仕事ないからね。平気なんだけど…」

ふあ、とあくびがでた。そう、眠いことは眠いんだよね。でも眠れないから…、話していたらちょっとだけ眠たくなってしまったみたいだ。

「寝るか?」
「ん?ここで?」
「嫌じゃなければ」

とん、と膝をたたいたソルベに目を丸くしてしまった。そこってジェラートの特等席なんじゃなかったの。からかい半分に言うと「嫌ならしない」って足を組んでしまったので慌てて両手で押さえつけた。

「ううん、嫌じゃない。膝借りてもいいかな?」
「どうぞ、お嬢さん」

分かりにくい微妙な表情の変化を読み解こうとじっと顔を見つめることの多いソルベが、激レアのふわっとした笑みを浮かべたのでちょっとだけ照れた。顔がいいんだよねソルベ、というより、ここにいる全員なんだけど。ありがとう、おじゃましますって膝に頭を預けてソファに横たわる。なんとなくジェラートみたいなにおいがしたような気がしたけど、気のせいだろうか。
目をとじたらソルベの手が降ってきて部屋の明るさから視界を遮ってくれて、気づけば私はぐっすりと、ここ数日の寝不足を全部解消できるくらいにゆっくりと眠ることができた。