私はメローネのスタンドがあまり好きではない。勝手に発現するそれに好き嫌いをつきつけるのは乱暴なので言わないけれど、メローネは何となく察しているらしかった。だから「一緒にこないか」って誘われた今日の仕事は、スタンドを使わなくってもできることか、もしくは母体にする女ごとターゲットのどちらかだろう。

とくにすることはないので気配だけ消してついて歩く。今日は街に馴染む服を選んだ日らしい。メローネの服は奇抜で、たくさんの意味の分からない切れ目の入った○印のついた服が1番多いんだけど、それ以外にもいろいろなのを着ている。だぼっとしたオーバーサイズのパーカに細身のパンツだったり、サイケデリックな目にチカチカダメージを与えるなんと表現するのかもわからないような形の服だったり、明らかに女性もののセットアップを着ていることもある。今日は真っ白なパーカーにジーンズのとてもシンプルな恰好をしていて、長いアシンメトリーの金髪も1つに括っていてマスクの代わりに赤くて細いフチの眼鏡をかけている。こうしてみるとただのかっこいいお兄さんだ。

「そんなに見つめられると照れるんだけど、俺の顔に何かついてるかい?」
「ううん、何も。強いて言えばかっこいい目と鼻と口とがバランス良く配置されてるかな」
「グラッツェ!」

ご機嫌みたいだ。海の見える道をずーっと歩いていて、目的地を私は知らない。だらだらと続くこの道を、メローネと一緒に歩いたのは初めてじゃあないんだけど、メローネは覚えているだろうか。この先、あそこの角を大きく曲がったところにジェラート屋さんがある。そこのイチオシメニューが”メロン味”だったから、2人で笑いながら半分こして食べたんだけど。

「…ねえメローネ、ここ前にも来たことあった?」
「ん?いや…ないんじゃないか?」
「そっかあ。じゃあ、勘違いかも」

憶えてなかったなあ、と、がっかりするのも慣れっこだ。メローネは遠隔操作型のスタンドなのに普通に武器を使った接近戦も行うから、結構怪我をして帰って来ることが珍しくない。そのたび治してあげるから、私との思い出は消えやすいんだよね。

いつだったか、怪我を治して記憶が消えるなら治してもらわなくていいと駄々をこねた。そんなこといったって毒にやられた傷はほっとけば後遺症が残るかもしれないような深いもので、泣きながら「思い出ならまた作ればいいから、お願いだから治させて」と抱きしめるように押さえつけて治療したことがあったけれど、その時の治療はメローネの中にある私の情報から「傷を治せば記憶は消える」という部分を消し去った。私にとっては都合の良い、消えてしまっても良いところでよかった。それからしばらくしてから、「怪我しちゃった!治してくれ」ってあっさりと腕を伸ばしてきたメローネを驚愕の目で見つめたのは仲間のうちの半分くらい。私が治癒すれば記憶が消えてしまうと、覚えている人と覚えてない人がちょうど半分ずつくらい。

「あ、!ジェラート屋さんがあるぜ」
「ほんとだ!おいしそう、ねえ帰り食べていかない?」
「そうだな。…お、イチオシは”メロン味”だってさ」
「なるほど。じゃあ私メローネにしようかな」
「えー、俺のこと食べちゃうの?」

あはは、と作った笑顔は心からのものだし、ちゃんと楽しいって思えているから大丈夫だ。メローネは忘れてしまうたび、私におんなじ思い出をつくってくれるのがうまい。もしかしたら本当は覚えているんじゃないかってほどに。

「うん、ぺろりと食べちゃう。お仕事がんばらないとね!」
は見てるだけでいいって。俺がやるからさ。やられたら治してくれよな」
「うん、どんな怪我でも治してあげる。安心してやられてきてね」
「ひどっ!」

どんな怪我も何度だって治してあげる。何をどれだけ忘れたって、メローネはまた新しい思い出を私にくれるって知ってるから。