がばっと飛び起きた。叫び声をあげたかもしれない。あわてて口を押えたけれど、誰も起きなかったみたいだ。だらしなくお酒を飲んで寝転がってわいわいやって寝落ちして、久しぶりに大騒ぎしてはめをはずしたんだっけ。

懐かしい夢を見た。手が震えているし気持ち悪い。頭もガンガンする。これはお酒のせいかもしれないけど。メローネは半裸で床に座って上体だけソファに預けて眠っている。長い髪の毛がぐしゃぐしゃだ。あれじゃあ起きたら大変なことになっているだろう。ギアッチョもメローネにやられたそのまま、近くで転がって眠っている。眼鏡だけかろうじて外せているのはすごいと思う。あれだけの大騒ぎをしてたのにね。ペッシは完全にダウンして扉のそばで寝落ちていた。部屋に戻ろうとしたのかもしれない。プロシュートとリゾットはソファにしっかり座って眠っている。この2人はどんなにお酒を飲んで暴れて騒いでもきっちり眠るからすごいな。イルーゾォは鏡から半分はみ出して眠っていてびっくりして悲鳴をあげるところだった。こわすぎる。ホラー映画じゃないか。そのだらりとはみ出した上半身からゆらりと垂れる黒髪は鏡の真下にいるホルマジオの頭にのっかっていた。くすりと、小さな笑い声が漏れる。

くすくす。なんだかおかしくなって笑ってしまって、そして涙が出た。私は今の生活が好きだしみんなのことも好きだけど、時々ふと両親のことを思いだすと、やっぱりちょっとだけしんどい。ぱぱとまま、元気かな。仲良くやってるかな。もしかしたら、子どもがいたりするかもしれない。きっと一生会うことはない私のきょうだい。そうなっていたら素敵だな。あの2人には、幸せに幸せに生きてほしい。

蹲って泣いていたらリゾットが目を覚ました。もしかしたらずっと起きていたのかもしれない。目を開けて私を見て、それから無言のまま部屋をでて自室へ入って行った。合図だと思ったので着いて行く。

「リゾット、起こしちゃった?」
「いや、眠っていなかった」

やっぱり。リゾットは最強の暗殺者で、私たちのリーダーで、人の気配にとても敏感だ。眠っていても周りに誰がいてどう動いたのか把握しているらしいので、いつも寝不足が心配になるけれど仕事の失敗は一度もないからきっと大丈夫なんだろう。

みんなそうだけど、個室は小さい。机とベッドとチェストが1つ、あとはそれほどスペースもないような小さな部屋だ。リゾットが机のイスに座ったので私は自然とベッドに座ることになる。あんまり癒されない硬めのベッドだ。

向き合って、リゾットの大きな手が伸びてきて頬を包んだ。目元にうかぶ涙を親指で拭って、何があった、と目で聞いてくる。

「夢、みちゃって。ぱぱとままの夢。事故があった日の夢」
「ああ…、それか」

今の私はギャングだ。パッショーネという組織で暗殺者チームというところに所属している。人を殺すことに抵抗はあるけれど、そういう個人の感情をくみ取ってくれるリゾットが私に回す仕事はほとんどが私の感情で割り切れる範囲のものばかりだった。テレビのニュースでみたら怒りが湧き上がってくるような、そんな犯罪者を手にかけることがほとんど。”良い人だけど組織の利益のために消えてもらおう”みたいな仕事は、リゾットは間違っても私には回さない。優しい人だと思う。リゾット自身が子どもを手にかけられないことも理由の1つかもしれないね。子どもはダメなんだ、と、仕事を目撃した子どもが逃げる背中をそう呟いて見送ったのを見て驚いた。そのあとを長い脚でゆっくり追いかけたのはプロシュートで、彼はどんな人も選ばずどんな仕事でもこなす優秀な男だった。

「今さらだよねえ…」
「思い出と言うのは、色あせないものだからな。覚えている限り」

表情がないようで、リゾットは私といるときはよく笑う。と思う。その少し含みを持たせた言い方は私にとってはとてもやさしい、あんまりにも嬉しいもので、私も泣くのをやめて笑った。覚えている限り。覚えている限り思い出は消えないから。私の優しいぱぱとままは永遠なのだ。

「ありがとうリゾット、私のことを覚えていてくれて」
「こちらこそ、だ。話ならいつでも聞くから、1人で泣かないでくれ」
「うん。リゾットがいてくれてよかった」

ごろんと、弾まないベッドに横たわる。親子みたいな、兄妹みたいな、ここにいる全員がそんな関係なので、そこに何の意味もない。ベッドを占領されたら残りの隙間で寝てしまおうなんてこと、誰がどこでだってやることだ。私がもう一度眠りにつきかけたころ、再び浮かび上がりそうだった悪夢は背中に訪れた温かい温度がふわりとどこかへ消し去ってくれた。