「あ、私、今日パーティだった」

時刻は17時。ふと腕時計を見て、リビングの壁掛け時計をみて、それからカレンダーを見て、もう一度腕時計を見て呟いたセリフはリビングにいた全員を黙らせた。

「え、え、何時から?どこで?」
「あ、えっと、19時から。18時にジョルノが迎えに来るはず」
「1時間しかねーじゃねーか!!」

ガタッ、と立ち上がって叫んだのはギアッチョだった。ごめん、怒らないでくれ。わかってるよ、ちょっと迂闊だよね。私らしくもないこんな失敗。ごめん、急ぎで頼める?なんていう前に、プロシュートとメローネが立ちあがりそれぞれ部屋へ消えていく。まったく頼りになる部下だ。ジョルノが来るまで1時間。まあ、なんとか間に合うでしょう。他力本願。

大急ぎで10分でシャワーを浴びる。髪の毛をざっくり乾かして服を着る。シャワーに入ってる間に、用意しながら汗をかかないようリビングが少し涼しくなっていた。こういう気遣いができるのがギアッチョの優しさだ。とりあえず着付けしないと、というタイミングにはもうプロシュートが私の着物を選んで待っていてくれる。ありがとうプロシュート、それ素敵ね。イタリア男のアサシーノがなぜ着付けなんかできるのか謎だったけれど、私が1人で時間をかけて着付けしているのに気付いたプロシュートが何か手伝えればと着付け教室(!)に通って覚えてくれたらしい。すごい気遣い、すごい優しさ。さすが兄貴と言われるだけある。モテるんだろうなあ。でも普段から近くにいるのが私みたいな美人なので彼女はできないらしい。理想が高くなっちゃうのかな。ごめんね。確かに着物は自分でやるより人にやってもらうほうがずっと楽なのでとっても助かる。グラッツェ。
着付けがある程度すんだら、待ってましたとばかりにメローネが髪飾りやらクシやらピンやらいろいろなものをもってやってくる。メローネは私の髪の毛をいじるのが好きらしい。今日はどうしようかな、と着物と髪飾りを見比べてはこれじゃない、あれじゃない、これかな?こっちかな?と楽しそうだ。プロシュートがそっちのほうがいい、とアドバイスをして、やっぱり?とどうやら本日のかんざしが決まったらしい。この2人がいると一気にアジトが美容室だ。
メローネが私の髪の毛をいじっている間、見えにくいところを鏡の角度を調整しながらさりげなくサポートしているイルーゾォがちょっと面白い。その鏡君の仕事道具だろ。私が出かけるときはいつもイルーゾォの鏡を持って行く。万が一何かあったら困るからだ。こうして、みんなのサポートを受けながらなんとか身支度が終了して17時50分。

「ま、まにあったー!グラッツェみんな!」
「今度からパーティはカレンダーに書いとけよな」
「うん、うん、そうする。なんで今日忘れちゃったんだろう…」
「疲れてんじゃねーの?珍しいこともあるよなァ」

私が着飾ると全員が部屋からでてくる。わかるよ、綺麗なものは見ておきたいよね。こんな調子に乗ったことを言ってもみんな否定しないで、うんうんわかる、本当に綺麗と褒めてくれる。ストレートに褒めなくっても、いいんじゃねえの、ってぶっきらぼうに言うギアッチョなんて珍しくってあまりにも可愛いので最高だ。調子を確認するように着物の裾や頭を確認する。メローネが結い上げる頭は自分の髪の毛ながら何をどうしてこの形に安定してまとめるのか全然わからない。

「メローネ、また上手になった?すごい、動いても頭がふらふらしない」
「お、褒めてくれるのかい?」

お礼ならここに、と頬を差し出してくるので、可愛くてキスをひとつ。そっちだけか?といって屈んだプロシュートにもひとつ。2人ともありがとう。とっても助かる。そこに近寄ってきたイルーゾォの手にあるのは小さな丸い鏡だ。どうするのかなと思えば頭の後ろに回って、簪に小さな鏡を括り付けた。なるほどそういう感じね。グラッツェ、イルーゾォ。ここにももうひとつ。

「いつも手鏡を持ち歩くのも手間だろうと思ってな」
「あー、それいいなあ。可愛いデザインの鏡今度探そう」

メローネは簪に付け足された護身用の鏡が気に入ったらしい。私も一緒に見に行く、と言えば、デートだね!と笑うので可愛くてたまらない。そうこうしているうちにチャイムが鳴り、玄関に近かったリゾットが先に出てくれた。後を追おうとすると、ホルマジオが私の拳銃とナイフをしまったカバンを渡してくれた。いつもは投げてよこすのに、きっちりした格好をしているときはちゃんと崩れないよう近くまで来てくれる。見かけによらず優しいホルマジオ。お礼のキスをしておく。本日4つめだ。

「あ、ブローノ。お迎えありがとう」
「……ああ、姉さん。すごく綺麗だから見惚れてしまったよ」

玄関に出ると愛しいわが息子ブローノが出迎えてくれた。いつもの変形スーツではない、パーティ用のスーツを着ている。運転手か、ガードとして同行するかのどちらかだろう。私が草履をはこうとするとさりげなくカバンを取り手を支える紳士な振る舞いは私が教えたものではない。気づいたらこんなことをするようになっていて、初めてそれをされたとき1番驚いたのは私だった。少しだけぎこちなくやってくれたのが可愛かったのに、今ではこんなにスマートにこなしてしまう。大人になったなあ。本日5つめのお礼。

「じゃあ、いってくるね。なんかあったらよろしく」

ちょこっと頭を傾けて簪につけた鏡を揺らす。いってらっしゃい、とバラバラに声が聞こえた。みんな可愛い子たちばかりだ。今日はバッグも鏡も出番がありませんよーに。そう願って、閉じた扉に背を向けた。