「1番最初にに会ったのってリーダーだよな?どんな感じだったの」

夕飯も済ませリビングでだらだらとしている平和な時間。唐突に口を開いたのはメローネだった。

「ああ、あの時は…」

珍しく返事を返したのはリゾット本人だった。てっきりが話し出すと思っていたので、メローネは驚いたような顔で3回大きく瞬きをした。





司法の裁きに納得のいかなかった俺は、18歳にして人を殺め普通の人生をリタイアした。
そうして裏社会へ転がり落ち、どこまでも底辺の人生を送っていくのだと覚悟をきめた俺に手を差し伸べてきたのがだった。

最初はナイフで。何人か殺して、どこかで拾った銃を使うようになった。少しして、スタンドとかいう特殊能力が発現し、これがもうとにかく暗殺に向いていた。近くにいるだけでいい。それだけで敵を殺すことができる。体内から心臓なり喉なりを切り裂いてしまえば良いだけだ。
気づけば手にかけた人数は数えきれないほどになり、裏社会でも名前が知られるようになり依頼も増えた。あわせて自分を狙う組織も増えた。誰かとなれ合うなんてごめんだ、俺は一人で生きていく。そんな一匹狼だった自分が初めて完全に敗北を感じた相手が、まさか自分より頭2つは小さい日本人女性だなんて想像もできないことだった。

「あなたがリゾット・ネエロね。ねえ、私の仲間にならない?」

あまり流暢ではないイタリア語だ。黒い髪に黒い目、華やかな色合いの衣服はどこかの民族衣装だろうか。返事をせずにいると、女は少し首をかしげ「日本から来たの。私のイタリア語、聞き取れないかしら」と困ったような顔をした。

「俺は仲間はつくらない」

随分な美人だと思った。そして華奢だ。こんな女が1人で自分を勧誘しに来たなんて笑える。運が悪かったな、今日がお前の命日だと心の中で呟きスタンドを発動する。彼女はそのきれいな顔を驚きと苦痛に歪めて口から血とカミソリの刃を吐いた。

「…わ、びっくり。こんな感じなんだ、すごいねこれ」

しかし出てきたのは予想外の言葉で、口からでた血をぬぐうと「でももう、味わいたくないかな」と笑った。たった今喉からカミソリを吐いたとは思えない笑顔だ。舌足らずなイタリア語で話す言葉も途切れずしっかりしていて、ダメージはなさそうに見える。
もう一度メタリカを発動し、今度は手首を内側から切り裂く。しかしリゾットの目に入ったのは、手首からじゃらじゃらと零れ落ちるカミソリの刃と、それからカミソリの刃が出たところからすぐにふさがっていく傷跡だった。

「お話をしようよ。戦いに来たんじゃないのよ」
「…俺に、勝ってから話せばいいだろう」

あ、そう。呟いた声がちょっと低かったのが印象的だった。とたんにキツく変わった目つきはアサシーノのそれだ。このなりでこいつもそうなんだな。見た目が幼いのでらしくもなく油断してしまった。切ったそばから回復するのはスタンドの力だろうが、回復のスピードが桁違いで切ってもその瞬間にふさがるのでまるで効果がない。ナイフで切りかかっても弾丸を放っても女はヒラリヒラリとうまく躱し、時々掠っても裂けたはずの皮膚はすぐに元の白い陶器のような見た目に戻ってしまう。
それでも男女差からくる体格差で路地裏の奥に追い詰めると、その細い首を壁に押し付け呼吸を奪った。

「女性相手でも手加減なし、いいねそういうの。仲間になってほしいな」
「黙っていろ」

軽口をたたく女にぐっと力を込める。それでも平然とした顔で、全然苦しそうな表情を作らない。

「私のスタンドは何ができるか、わかった?」
「…傷を治すのか」
「まあまあ当たり。でも、それは結果だけのこと。私はね、体調管理が上手なの」

治癒できるということは、その延長で酸欠なども回避できるのかもしれない。首を絞めてから3分は経過していて、その間ずっと平然と話し続けるのは普通の人間には不可能だ。随分と便利なスタンドだな、と思うが、首を刎ねてしまえばおしまいだ。とどめを刺そうとしたそのとき、しっかりと押さえていたはずの腕の中から女が消えた。正確に言うと自分が手を離してしまった。体が熱い。めまいがしてぐらりと傾く。

「ねえ、熱が高いんじゃない?」

最後に聞こえた声はずいぶんと反響し遠くに聞こえた。目を閉じる瞬間に見えた黒い目は、細くゆがんでひどく綺麗に笑っているように見えた。

これがリゾットとの出会いである。



「という感じだったよね、リゾット」
「そうだな」
「リゾットね、こんな美人を首で持ち上げて壁に押し付けたあげくそのまま首を折ろうとしたんだよ」
ひどくない!?と怒っているには悪いが、そんな状況になったら誰だってそうするし、実際に全員がしただろう。というのが率いる暗殺チーム全員の総意だ。このチームはが目を付けた人物と直接交渉して集めた人物なので、全員がと一戦交えている。

「ちなみに、リーダーはその時どんくらい熱があったの」

面白そうにメローネが尋ねる。

「…42」
「42!?やっべえ!!」

ゲラゲラと笑うメローネにつられて他の面々も驚いたり笑ったり苦笑したり様々だ。

「笑いごとではなかった」
「でもまあ、すぐに治してもらえたんでしょ。良いじゃねーか」

リゾットは難しそうな顔をする。訂正したのはだった。

「ああ、いや、あのときは私もまだ未熟でね。自分で上げた熱がなんでか下げられなくって、リゾットは自分の体力で治したんだよ。2週間も寝込んじゃったから、看病が大変だったんだ」

ね、リゾット。目を合わせられると眉間のしわが増えた。

「うーん、その表情の意味するところはつまりこうだね。『他人に高熱を付与したあげく看病が面倒などと文句を言うので殺してやろうかと思った』」
「お前は俺のことをよくわかっている」