俺はメローネ。イタリアはネアポリスを牛耳るギャング、パッショーネと協力関係を結ぶアサシーノ。
俺のスタンド、ベイビィ・フェイスは超遠距離型で狙った獲物は逃がさない。
今日は朝から夜までしっかり仕事が入っていて、面倒だなあと思いながらも3人の命を奪った。
死んでいった奴らのことは知らないし恨みもないけど、まあ俺も仕事だからさ。ごめんな。

疲れた体でただいま、とアジトの扉をあけると、おかえりなさい、と台所から声が聞こえる。
そのおかえりだけで、全身の疲れがすっと抜けてしまう。これ、比喩じゃなくてマジなんだぜ。
体力も気力も怪我も病気も、体調不良はなんでも治せるチート級のスタンド使い。彼女が俺らのボスだ。
はパッショーネのボスの血縁者だといううわさだがよくは知らない。
でも、あっちのボスと同じイタリアと日本のハーフだから本当かもしれない。
ハーフとはいえはパッと見た色が日本人だ。髪も目も真っ黒で、頻繁に着物を着ているし体格も小柄。顔つきだけは、ちょっとイタリアっぽい。
そんな彼女がなんでアサシーノのボスをやってるかというと、もともとは1人で仕事をしていたけれど、忙しくなり手が回らなくなったので仲間を増やして気づけばチームに、という単純な理由。つまりこの容姿でソロのアサシーノだったわけだ。信じられないよな。腕が良かったというし、今でもたぶんチームで1番強い。

俺は今の環境をとても気に入っている。は美人で優しくて最高の女性だ。
その自覚があるのか、よく自分のことを暗殺チームの姫とか呼ぶ。プリンチペッサ。首がもげるほどうなずいてしまう、納得の表現だ。
容姿の華やかさに所作の優雅さ、その場にいるだけで雰囲気を明るくする。
パッショーネのボスは、パーティーなんかがあるとパートナーとしてを連れて行くことが多い。血縁者なんじゃないのかよ、という突っ込みは置いといて、そういうときのは普段から一緒にいる俺らでも見とれてしまうほど綺麗だ。

まあそんな感じで、俺はどんなにしんどい仕事も、アジトにつけばけろりと忘れて元気になれるというわけだった。

「ただいま、報告書は明日だすよ」
「はーい、急がなくても大丈夫だからね」

ごはんできてるよ。と言って食卓に並んだのは2人分の食事だ。他の奴らは?という俺の疑問を表情からくみ取って、は他の奴らの仕事と居場所を話す。はアサシーノになるまでは日本で暮らしていたらしく、イタリア語があまりうまくない。何でどうやって勉強したのか知らないが、ちょっと舌足らずで子どもみたいな話し方をする。ちゃんとした場に出るときには気を付けてはきはきと話しているようだけど、普段はまったく気を使っていないみたいだからいつもそれだ。時々、なんて言っているかわからないけれど日本語で独り言を言っていたりもする。

「ふーん、じゃあと2人きりのディナーだね。俺って幸せだなあ」
「美人とのごはんはおいしいよね。料理もできる美人なんて良いボスだねえ」

はそう言って、綺麗に笑う。言ってることがおかしいなんて誰も思わない。このくらい美人だと、自分の美人さを自覚していないほうが嫌味ってものだ。

「そのとおり!ディ・モールト最高だよ

そう告げて腰に手をまわし頬にキスをする。は全く拒まず優しく笑ってキスを返してくれる。ああ、は最高だな。俺はこのチームに来てから、一般の女の子と付き合えなくなってしまった。まあそういう欲求もあるから処理のために一晩、とかはあるけど、もう特定の女の子を作るなんて無理だ。俺の人生はに捧げることに決まってしまったのだ。

「じゃあ、たべよっか。いただきます」
「イタダキマス」

イタダキマス。日本で食事をするときの挨拶らしい。手を合わせて、食材、生産者、作り手のすべてに感謝する言葉らしい。なんだかいいなと思ってマネしていたら、気づけばアジト全員が手を合わせてイタダキマスをする習慣がついていた。
今日ものごはんはおいしい。ああ、幸せだなあ。