特徴的な色の髪を揺らし、彼はゆっくりと歩いていく。一歩、また一歩、わずかな音を立てて床を踏む彼の後ろを、私は一歩、また一歩と、この距離を保ったまま進む。追いついてしまわないよう、けれど置いていかれないように。それはきっと恋とかそんな感情ではなくて、ただ本当に愛しいと思う気持ちなのだと思う。

、」

彼の声がじわりと空間に溶けて、それだけでずいぶんと頭がしびれるような錯覚に陥ってしまう。これは相当重症なんじゃないだろうか。

「こっちにおいで、。手をつなごう」

ふわりと、泣きたくなるような笑顔を浮かべて振り向いた彼は、そっと大きな手を差し出す。そんなに優しくしないで。あなたと対等でいても良いような気がしてくるから。そんなこと赦されるはずなくて、けれど赦されないとわかっているからこそ望んでしまう。つまらない立場とかそういうものをほとんど気にしていない彼は、私が困るのを知っているのかいないのか、一般人である私を宮廷に招きいれたり、こうやってひどく綺麗に笑ったりする。

差し出された手に視線を落したまま、自分のそれを重ねることのないことは彼だってわかっている。これは毎日毎日こうして繰り返されているから。目を伏せてくすりと笑う彼は、近くにあった噴水の脇に腰かけた。何をするにも優雅で、綺麗で、早くなっていく命のリスモスは落ち着くことを知らないようだ。少し体を捻って後ろに吹きあがる水の芸術を嬉しそうに眺めている。細められた視線にまたドキリとして、彼のあんな表情を、他に何人の人がみているのだろうと不思議なもやもやした感情が湧きあがる。

「綺麗だな」

綺麗なのはあなたです。眩暈がするほど優しい視線が私を捕らえた。

、」






「私はお前が好きだ」



心なしか赤い顔をした愛しい彼は、見たこともない優しい表情をしていた。




(幸せはすぐそこに)