退屈だなあ、とベッドに座って足をばたつかせる。時間は夜の10時。だいぶ前に作った晩御飯はもうお鍋の中で完全に冷めている。お風呂だってとっくに沸かして先に入ってしまった。せっかく早く帰って来るっていうから、今日はのんびり夜を過ごせると思っていたのに。

「何が8時には帰る、よ…」


信じて待ってた自分がバカみたいだ。なんだか眠たくなってきたし。未だ帰って来る気配のない彼のことを考えているとなんだか視界がぼやけてくる。もういい。先に寝ちゃおう。すごくおなかがすいたけど、いいんだ。







、ただいま。…?」

真っ暗な部屋の扉を遠慮がちに開いて入ってきたのは、彼女がさっきまで待ち焦がれていた人。

「寝ちゃった…?」

台所に用意された、まったく手のつけられてない晩御飯。もしかしたらずっと待っていたのかもしれない。寝室に行くと、子猫のように丸まって寝ているがいた。頬には涙の跡。また泣かせちゃったな、と自嘲気味につぶやくと、ハオはベッドの脇に腰かけた。

、ただいま。ごめん」


赤味がかった長髪をそっと撫でると、さらさらと指の間を抜けていく。丸くなった体はとても小さくて、よくこんな体で戦えるものだと感心する。それでこそ、僕の妻にふさわしいが。


「ん…ハオ?」

「ごめん、起こした?」

大丈夫、と体を起こすの声は ふわふわしていて、もう完全に夢の世界にいたことを物語っている。それでも目をこすって布団から出てくると、僕の背中にのそりとのしかかって来た。

「あのね、ばんごはんつくったよ」

「うん」

「おふろさめちゃったかも」

「うん」

「…ねむたい」

「うん。遅くなってごめんね」

さみしかった。言葉にはしなかったけれど、ぎゅうっとまわされた腕にいやというほどその感情があらわれていた。

「きにしてないよ」

きにしてる。そう心では思っているのに、眠たいは僕が心を読めることさえ忘れている。はいつも思ったことをすぐ口に出すから、わざわざ読むまでもないんだけど。


「ごめんね。僕も疲れたから、もう寝よう?」




そう言うと、のしかかっていたの体が離れた。ころんとベッドの中に戻ったは、布団の端を持ち上げて寝惚け眼でこちらを見ている。 その意図するところは「はやく寝よう」なのだろうが、僕には誘っているようにしか見えない。しかし散々待たせた挙句ここで手を出したら、明日のの機嫌に大きくかかわる。そんなことになったらもう言訳のしようもないから、ここはぐっと理性を総動員して布団にもぐりこんだ。は柔らかい頬に残る涙の跡をぐしぐしと拭うと、泣いてなんかいなかったからね。と僕を見上げた。


涙のあと


「おやすみ、良い夢を」

もうすでに閉じた瞼にキスを落すと、は嬉しそうに僕の胸にすり寄ってきた。