認めたくないけれど認めざるを得ない状況。こんなお菓子ばっかり食べてるやつのどこがいいの?

優しいかっこいい頼りになる、実は誰よりも気配り屋さん。







、宿題見せて」

「うるさい…勝手に見て」

振り向いてイスをがたがた鳴らしながら両手を出したブン太に、私は机の横にかかっているかばんを蹴って答えた。ブン太は驚いたように、「何?怒ってんの?」と軽く笑いながら私のカバンを漁る。

「話しかけないでよ」

私は今とても重大な悩みを抱えていた。それはもう、何よりも重大な。

今そこでノートには科目名を書くべきだとか、せめて違う種類のノートを使うべきだとか、ごたごたと文句を言いながら私のカバンの中身を物色してる男丸井ブン太。あのテニス部のレギュラーで、我が校のアイドルの一人で、異常な甘党で、幼馴染。昔から事あるごとに一緒にいたこいつのことが、どうやら私は好きになってしまったらしい。

やっと目的のノートを見つけたブン太は、そのまま私の机にノートを広げて宿題を写し始めた。それはもう汚い字で丸写し。もし提出とかになったら絶対怒られるんだろうなあと思いながらも毎回毎回写させてしまうのは惚れた弱みなのだろうか。逆さまのノートの隅に、小さな落書きを始める。昨日の夜食べた燻製のタマゴ。あ、ジャッカルに似てるかも。そう思ったら、ブン太が「何それ、ジャッカル?」とか聞いてくるもんだから笑ってしまった。そしたら、

「今日はじめて笑ったんじゃね」

なんて、悪戯の成功した子供のような笑顔を向けてきた。思わず目をぱちくりさせる。

「え、そうだっけ」

「うんそう」

「よく気づいたね」

「そりゃ、いつも見てるから」

何気ないセリフに心臓が高鳴る。落ち着け、何も特別な意味じゃない。ただ単に、もう何年一緒にいると思ってるんだ?みたいな感じで、他意なんてまったくないに決まっている。なのに少しだけ、本当は他意があってほしいと願ってみたりもする。乙女心は複雑なのだ。

「…っそ。そんなのどうだっていいから早く写してよね。先生くるよ?」

「うわっ、やべ!」

さっきまでの3割増しで汚く綴られていく文字を目で追う。その文字を綴っていく手はおおきい。手首のリストバンドは、きっと私がしたら動かなくなってしまう重さなんだろう。昔は手だって私の方が大きかったし、力だって私が上だった。なにもかも敵わなくなったのはいつだった?
ぼんやりと考えていると、ブン太がぱたりとノートを閉じた。はっとして顔をあげると、お前本当に大丈夫か?と心配したようなブン太の顔。何が?と答えようにもあまりに白々しく、大丈夫だよ。と小さく返す。自分の声とは思えないほどに弱々しい声に驚いて、なんだか泣きそうになってしまった。口を開きかけたブン太に、これ以上何も云わないでほしいときゅっと唇を結んだ途端先生が入って来る。よかった救われた。

・・・なに、から?





授業が終わると、またブン太が話しかけてくる。さっさと帰りたいなあと適当に受け流していると、机をバシッと叩かれた。泣きそうな、怒っているような、ごちゃごちゃの表情のブン太がいた。

「俺さ、お前に何かした?」

「…何も、別になにもされた覚えはないけど」

「じゃあさ、なんでそんなに避けるわけ?」

「避けてなんかないし。勘違いじゃない?」

多少イラッとしたのがわかった。怒らないでほしいのにな、笑ってる顔が好きだ。でも今の状況、怒らせてるのは明らかに私。どう対処したらいいのかもわからずぼんやりしていると、ブン太が立ち上がった。

「今日部活少し早く終わるから。お前待ってろ」

「え、なんで」

「いいから。…ここにいんのが退屈なら部室にいてもいいし。とにかく待ってろ」

反論しようとすると、大きな手が頭に乗った。ぐしゃりと少し乱暴に頭をなでると、絶対待ってろよ?と優しい声でもう一度。たまらなく泣きそうになった私に気づいているのかいないのか、ブン太はカバンを持って出て行ってしまった。ずるい、ブン太はすることすることがいちいちかっこいいんだ。そのひとつひとつに私がドキドキしてしまうことなんて知ったこっちゃないんだ。