いつだって君は私の欲しいものをすべてくれる













「おかあさん!なんで起こしてくれなかったの!?」

「起こしたわよー。あんたがあと3時間って言うから」

「それ、それおかしいってば!」



寝てる私のバカ!よりによってブン太の誕生日に寝坊なんて!

寝坊したと言ってもいつもよりはずっと早い時間。

ブン太の誕生日だから今日は部活はおやすみ。

もちろんブン太だけだけど。幸村くんのご厚意。

学校終わったら一緒にご飯食べに行く約束をしている。

どうしても制服になっちゃうから、せめて髪だけでも巻きたかった。

普段の2倍速で動いたおかげで、いつもの時間に間に合った。

もうすぐピンポンが鳴ってブン太が迎えに来る。

そう思ったらちょうどチャイムが鳴って、私はカバンを持って家を出た。



「おはようブン太、誕生部おめでとうっ」

「おー、さんきゅ。髪かわいいな」

「え、あ、ありがとうっ」



ブン太に褒められると他の人に褒められるよりずっと嬉しくなる。

手をつないで歩いて登校。

明日は歩いていこうって言うからどうしたのかと思った。

(そういえば、2人乗りは顔が見えなくて嫌だって日記に書いてあった)





あっという間に放課後になって、帰ろうとしたら赤也と仁王が来た。

ブン太におめでとうと、私たちにプレゼントだって。

小さな2つの箱の中身が何かはわからなかったけど、ブン太は嬉しそうだった。

あれ、中身が何か知ってるのかな?

それにしても私までもらっちゃったけど良いんだろうか。



「気になさんな」

先輩、幸せ者っスね!」



心を読んだかのような仁王の言葉にギクリとした。詐欺師め!

赤也は無邪気な笑顔を向ける。かわいいけどうさんくさい。

ブン太が早く帰るぞ、と手を引くから、ちょっとよろけながら手を振った。



「ブン太、仁王と赤也のびっくりしたねー」

「俺は知ってた」

「あれ、やっぱりそうだったの?」

「ほら、早く行くぞー」



気づくともう外靴に履き替えたブン太が上から覗き込んでいた。

かっこいいからそういうのやめてよ、と言うと、珍しくブン太が顔を赤らめた。

って恥ずかしいことさらっと言うよな、なんて言うから、

ブン太はかっこいいことさらっとするよね、って言った。

だってそうなんだ。いつもブン太はかっこいい。





今日の行き先は聞いてなくて、ブン太に着いて来た場所は東京。

目の前には高級そうなレストラン。入り口にはデザートバイキングの看板。



「誕生日にバイキングなんてセンスねぇって思うかもだけどさ、ここまじ良い雰囲気なんだ」

「へえ、よく知ってたねこんなとこ。大丈夫、高くないの?」



今日はブン太の誕生日なのにブン太持ちのデートという変な状況。

一応普段の数倍のお金は持ってきたけど、それでも心配になるレストラン。

大丈夫だって、というブン太を疑うわけじゃないけど、やっぱり心配。

入り口で時計を見ながら「そろそろかな」とつぶやいたブン太は、ケータイを取りだした。



「もしもし、もう着いたんだけど」

「おう、悪ィな。じゃ」



たった二言の電話。短い。誰なんだろう?もしかして誰か一緒なのかな。

考えていると、遠くから丸井くーん!とブン太を呼ぶ声。

金髪のふわふわした男の子が走ってきた。うわかわいい。



「時間ぴったりだよ、ほらこっち!あ、そっち彼女?ほんとだ、すっげー可愛い!ちゃんだっけ?」

「あ、はい、です。よろしく?」

「挨拶とかいーから!おいで!」



妙にハイテンションな子だな。名前確認しておいて挨拶はいいなんて。

ブン太が楽しそうにしてるから良いんだけど。それだけで嬉しい。

金髪くんについて行った先はレストランの裏口だった。え、入っていいの?

疑問に思う私をよそに、ブン太は入って行ってしまった。

金髪くんがちゃんもどーぞ、って言うからお邪魔しちゃう。いいのかなあ。

真っ赤な絨毯が敷き詰められたそこはレストラン付属のホテルらしかった。

(ジローくんが言ってた。金髪くんはジローっていうらしい、ブン太がそう呼んだ)



「俺様を待たせるなんて良い度胸じゃねーか」

「時間ぴったりだしー!跡部がせっかちなだけじゃなーい?」

「なんだとジロー!」



角を曲がったところにすごく美人な人がいた。

えろいなきぼくろ。仁王みたい!

ジローくんに跡部と呼ばれていたから多分跡部くん。

ここは彼の家の経営するホテルらしい(すごい!)。

ブン太がお願いして今日貸し切りにしてもらったんだって。

え、何、良いのかなあそんなの。

ブン太が、だからお金もかかんないの、ってこっそり耳元で言った。

なるほど、だからか。

跡部くんに着いていくと、両開きの大きな扉。

ジローくんと跡部くんがその両方を持って、私たちを見た。



「制服ってのが味気ねぇよな」

「無理言うなって、学校帰りなんだからしゃーないの」

「そんなことだと思ってました!これどうぞ、さん?」

「ほらよ!」



突然横にあった部屋の扉が開いた。

びくっとして後ずさった私の腰を、ブン太がさりげなく抱いてくれる。

ブン太の手の温度だけで、私はたちまち落ち着いてしまう。魔法の手だ。

部屋から出てきた大きな犬みたいな子と、帽子を逆にかぶった目つきの悪い人。

犬みたいな子が差しだしたのは、薄いピンク色のふわふわのお洋服。

これ広げたらどうなってるんだろう。もしかしてドレスとか?

これにはブン太も驚いたみたいで、目つきの悪い人が投げた服をみてびっくりしている。

2部屋あるんで、どうぞ着替えてきてください。

えーと、ありがとう?と言うと、犬みたいな子は「長太郎です、さん」と人懐っこそうに笑った。

ブン太はさんきゅーな、宍戸、と言ったからあっちは宍戸くんだ。



部屋に入ると、きらきらのシャンデリアがさがっていた。

すごいすごい!と騒ぐと、ブン太は早く着換えろよ、と言って奥の部屋に入った。

長太郎くんからもらった服はやっぱりドレスで、私にはもったいないくらい可愛かった。

ふわふわのぴんく。足が見えるのが恥ずかしいけど制服のスカートもこんなもんだ。平気。

着替えたか?とブン太の声がして、うん、すごく可愛い!服が!と答えた。

おかしそうに笑う声と扉の開く音が重なって、私は手に持っていた制服を落してしまった。



「・・・ブン太、ちょうかっこいい」

はすっげえかわいい。そうだな、お姫様みたいだ」

「え、」



いつかの約束を思い出す。

私はブン太のお姫様で、ブン太は私の王子様なんだ。ずっと。一生。

そしてブン太は、18歳になったら私をお嫁さんにしてくれる。

そしたら私たちは一生一緒にいられる。お姫様になれる。そういう約束。



「ブン太、もしかして、」

「おう、続きはあっちでな」



ニィ、と笑った顔がかっこよすぎて顔が赤くなった。

ブン太は私の手を引いて部屋を出る。白いタキシードの後姿。

顔がにやけそうになる。これ自惚れだったらどうしよう?どうしよう。

でもそんなことない、絶対ない。約束したから。

ブン太は私を裏切らない。私だけの王子様。



ちゃん、すげーキレー!」

「お似合いですよ、2人とも」



部屋を出ると、長太郎くんとジローくんだけが残っていた。

扉に手をかけ、私達の方を見る。



「みなさん主役を待っています。さあ、どうぞ」



私の手を握るブン太の手に力がこもる。

見たこともないような幸せそうな顔。



扉が、開いた。