涙が出る理由、それは嬉しさ以外の何でもなかった。












日記は中3のころから始まって、だんだんと新しくなっていく。

私の知らないブン太の気持ち、日常。

私の名前が1つ出るごとに幸せが1つ増えて、涙が出そうになる。

中学を卒業した日の日記。

高校でも私と同じクラスになれると良いな、って短い最後の一文。

それだけで心臓が跳ねあがった。私も同じこと思ったよ。



高校に入ったころ。ようやく私がブン太に告白した。

やっとかよ、なんて書いてあって生意気だ。ブン太のくせに。

それからの日記は、一気に私の名前で埋め尽くされていく。

その日話したこと、歩いた道、表情、そんなものすべて。

よく見てるなあ、と感心してしまう。



日付は新しくなっていく。

数日前だ。赤也と図書室でお話してた日。

が赤也と2人きりだった、赤也しめる。

物騒だな、もしかしてやきもちやいてくれた?

向こうにしてみれば問題でも、私にとっては嬉しい。

次のページ。あ、昨日だ。

少し読んで、思わず目を見開いた。

え、だって、うそ。



は約束を覚えているだろうか。正直、自信ねぇ。

あの時はお互いガキだったし、随分恥ずかしいこと言ったと思う。

でも俺が王子様ならは俺のお姫様。

がお姫様ならその王子様は絶対に俺。

何が起こってもこれは譲れねぇ、マジで。絶対。

俺が18になったら結婚してくれって言ったこと、覚えてると良いな。

1人でその約束をずっとまもってたら恥ずかしくてしねる(しなないけど)。

あと少しで俺の誕生日。に何て言おう。

父さんと母さんに言ったら、最初はすげえ笑われた。

でも真剣に話したら聞いてくれた、俺の親は問題ねぇ。

の親にそれとなく話してくれるらしい。完璧。

あとはだな、ここでフラれたりしたらマジへこむ。おれへこむ。

あー、ってかちょうねみぃ



最後の緊張感のなさがブン太らしくて笑った。

涙で視界が歪んでよく見えないや。

ぼんやりした目でそのページを見つめていると、階段を上る音が聞こえた。

慌てて日記とアルバムを元の位置に戻すと、ケイタイを開いてベッドに飛び乗った。

ガチャリと扉を開けて入ってきたブン太の手にはケーキの箱。

モンブランでええ?ブン太の声にいいよーと布団の中から答えた。

弟達からモンブランを守るのに時間がかかっていたらしい。

遅かったねーと言った私の声にそう答えた。

しかしそのたった2,3言で、ブン太にはバレてしまった。



「・・・、泣いてる?」

「ないてな、うわ」



泣いてない。言おうとしたら布団をめくられた。

ばっちり目が合う。紫色のブン太の目と、真っ赤にはれた私の目。



「どうした?寂しかった?俺何かした?」

「違う、ちがうの、何でもない」

「なんでもなくないだろ、それ」

「強いて言えばブン太のせい。でも嬉しいの、いいの」

「何だよそれ」



笑ってそう言うと、ブン太はあきらめたように布団を離した。

困ったような笑顔を浮かべて、食える?とケーキを渡される。

食べる。モンブランを受け取ってフォークで差して栗をいただく。甘い。

一口分をすくってブン太にあげると、ブン太もチョコレートのケーキを一口くれた。

これ、当たり前のようにしてたんだけど、他の人には絶対やらないらしい。

部活仲間でご飯食べに行ってもケーキは誰にもあげないんだって。

これは仁王に聞いたんだけど、ちょっと嬉しかった。





帰り道、いつものようにブン太の横を歩く。

真っ暗な空にまんまるの月が浮かんで、小さな星が輝く。

あの何百年も前の輝きが今にとどくなんて不思議だ。

私の家の前でそっと抱きしめてくれる。

あったかい。ブン太のにおい。

また明日ね。ブン太の声がいつまでも耳に残る。

今日はとても幸せだった。