例えば、朝目が覚めた時に隣にいるのが好きな人であるとか。
例えば、放課後好きな人と手をつないで帰ってみたいとか。
例えば、隣の席で勉強しているのが好きな人でありますようにとか。
そんなささいな夢は誰にでもあることだと思う。
でも私の夢は違う。そんなに小さいものじゃない。
もっともっと大きな、貴方にしかかなえられない素敵な夢。
「ブン太、今日は図書室で待ってるね」
「おう。いつも悪ぃな」
「私が待っていたいだけだから、大丈夫。気にしないで」
にこりと笑えば、ブン太もつられたように笑ってくれる。
ただそれだけが嬉しくて、私はにやけそうな頬を抑えてしまう。
早目に課題を終わらせたら、何かジュースでも買って待っていようかな。
軽い足取りで図書室に入ると、そこには似合わない人物がいた。
「あれ、赤也だ」
「先輩」
「珍しいね、赤也が図書室なんて。罰当番か何か?」
「あーあー、そういうことはわかっても口にしないものっスよ」
「うえ、ほんとに?ごめんごめん」
小さく手を合わせると、赤也は別に気にしないっス、といつもの顔になった。
「先輩はまたまる先輩待ちっスか?」
「またって何よ、いいじゃない大好きなんだから」
「うわー、ちょうらぶらぶっスね」
「当たり前でしょー。ブン太は私の王子様だもん」
「はあ?」
先輩をバカにした反応のバツとしてココアを奢らせた。
今月やばいのに…とぼやきながら隣に座る赤也はいちごみるくを飲んでいる。
「王子様って何スか、すっげえ面白いんだけど」
「あんたね、先輩からかうってどういうことなの?仁王にでも教育しなおしてもらわないと」
「それは勘弁っス!」
本気で焦った声を出した赤也を思い切り笑って、一息ついて落ち着いた。
いちごみるくを飲み終わった赤也は、紙パックをべこべこして遊んでいる。
子供みたいだな、こいつ。
「小さいころさ、よくおとぎ話って聞いたじゃない」
「ああ、もも太郎とか浦島太郎とか」
「うん、昔話じゃなくてね?シンデレラとかラプンツェルとか白雪姫とか」
「そういやそんなのもあったっスね」
「ああいうのに出てくる、お姫様になりたかったの」
「・・・さっきの話?」
うん。と頷いた私に、まさか話すと思わなかった、と驚いた顔の赤也。
聞きたくないならやめる。とそっぽを向いた私に、続き続き!と今度は焦った声が聞こえる。
「バカみたいでしょ?そりゃ女の子なら誰もが夢みるだろうけど、そんなのずっと小さいころの話。気づいたら忘れてて、それを自慢げに夢として話す幼い子を見て微笑ましいって思うことはあったとしても、私もー!って同意するなんて、ちょっとどうかしてるのかもしれない」
「そうっスか?」
「ええ?」
「先輩がそれに憧れてる、ってならそれでいいと思うんスけど」
さっき笑ったくせに、と言ったら、あれは唐突だったから、と必死に言い訳する。
まさか普通に納得してくれるなんて思わなかったよ。
赤也って変わってるよね、と言ったら、先輩ほどじゃないって言われた。
「それでね、ずっと夢見てるのには理由があるんだけど」
「何スか?」
「幼稚園のころね、私ブン太に『おおきくなったらブンちゃんのお姫様になりたい!』って言ったの」
「お嫁さんじゃなくて?」
「うん、お姫様。おかしいよね、読み聞かせで白雪姫か何か読んだ後だったと思う」
「それなら納得」
「そしたらブン太、『の王子様は一生おれだけだろぃ?』なんて言ったのよ」
「うわあ、性格変わってねー」
「可愛いよね。まだ幼稚園だよ?たったの4,5歳でそんなこと言っちゃうの」
まる先輩なら納得っスよ、という赤也の髪が赤く染まって、もうすぐ部活が終わる時間だ。
赤也はちらちらと時計を見て、部活に出られなかったことを悔いているようだった。
後悔するなら罰当番受けるようなことしなきゃいいのに。
「まる先輩って小さいころからまる先輩だったんスね」
「そうなの。でね、約束したんだ」
ふと窓の外に目をやると、太陽が沈んでいくところだった。
図書室は夕日が真正面から差し込む場所だ。
ここでブン太を待っているのが一番すき。
ブン太の髪と同じ色の夕日でいっぱいになるから。
「18歳になったら結婚してくれるんだって」
「・・へえ・・・」
「あと1年だよ?学生でも良いのかな、それって有効なのかな。まだ、覚えてるかなあ」
「それ、もし本当にプロポーズされたらどうするんスか?」
「えー、受けるにきまってるよ。私はブン太のお姫様になりたいの」
「俺にはよくわかんね」
「赤也にもわかる日がくるよ、きっと。王子様になれたら良いね」
赤也は答えなかった。真っ赤な窓の外を見て、何を考えてるのかはわからない。
そのあとはどちらも口を開かず、ほんの十数分後には愛しいブン太が現れた。
赤也と何してたんだよ?なんて笑いながら、帰ろうぜ、と手を握る。
「おつかれさま。赤也ね、部活に出られなくてさみしかったって」
「自業自得だろぃ!明日はちゃんと来いよ、お前いないと退屈だから」
「当たり前っスよ。こんなのもうごめんっス」
こんなのっていうのは図書室の罰当番のことか、
それとも私のくだらない昔話のことか。
別にどっちでもよかったけど、なんとなく気になった。
ブン太と一緒に帰る帰り道に、そんなもやもやは置き去りにしてしまったけれど。
例えば、放課後好きな人と手をつないで帰ってみたいとか。
例えば、隣の席で勉強しているのが好きな人でありますようにとか。
そんなささいな夢は誰にでもあることだと思う。
でも私の夢は違う。そんなに小さいものじゃない。
もっともっと大きな、貴方にしかかなえられない素敵な夢。
「ブン太、今日は図書室で待ってるね」
「おう。いつも悪ぃな」
「私が待っていたいだけだから、大丈夫。気にしないで」
にこりと笑えば、ブン太もつられたように笑ってくれる。
ただそれだけが嬉しくて、私はにやけそうな頬を抑えてしまう。
早目に課題を終わらせたら、何かジュースでも買って待っていようかな。
軽い足取りで図書室に入ると、そこには似合わない人物がいた。
「あれ、赤也だ」
「先輩」
「珍しいね、赤也が図書室なんて。罰当番か何か?」
「あーあー、そういうことはわかっても口にしないものっスよ」
「うえ、ほんとに?ごめんごめん」
小さく手を合わせると、赤也は別に気にしないっス、といつもの顔になった。
「先輩はまたまる先輩待ちっスか?」
「またって何よ、いいじゃない大好きなんだから」
「うわー、ちょうらぶらぶっスね」
「当たり前でしょー。ブン太は私の王子様だもん」
「はあ?」
先輩をバカにした反応のバツとしてココアを奢らせた。
今月やばいのに…とぼやきながら隣に座る赤也はいちごみるくを飲んでいる。
「王子様って何スか、すっげえ面白いんだけど」
「あんたね、先輩からかうってどういうことなの?仁王にでも教育しなおしてもらわないと」
「それは勘弁っス!」
本気で焦った声を出した赤也を思い切り笑って、一息ついて落ち着いた。
いちごみるくを飲み終わった赤也は、紙パックをべこべこして遊んでいる。
子供みたいだな、こいつ。
「小さいころさ、よくおとぎ話って聞いたじゃない」
「ああ、もも太郎とか浦島太郎とか」
「うん、昔話じゃなくてね?シンデレラとかラプンツェルとか白雪姫とか」
「そういやそんなのもあったっスね」
「ああいうのに出てくる、お姫様になりたかったの」
「・・・さっきの話?」
うん。と頷いた私に、まさか話すと思わなかった、と驚いた顔の赤也。
聞きたくないならやめる。とそっぽを向いた私に、続き続き!と今度は焦った声が聞こえる。
「バカみたいでしょ?そりゃ女の子なら誰もが夢みるだろうけど、そんなのずっと小さいころの話。気づいたら忘れてて、それを自慢げに夢として話す幼い子を見て微笑ましいって思うことはあったとしても、私もー!って同意するなんて、ちょっとどうかしてるのかもしれない」
「そうっスか?」
「ええ?」
「先輩がそれに憧れてる、ってならそれでいいと思うんスけど」
さっき笑ったくせに、と言ったら、あれは唐突だったから、と必死に言い訳する。
まさか普通に納得してくれるなんて思わなかったよ。
赤也って変わってるよね、と言ったら、先輩ほどじゃないって言われた。
「それでね、ずっと夢見てるのには理由があるんだけど」
「何スか?」
「幼稚園のころね、私ブン太に『おおきくなったらブンちゃんのお姫様になりたい!』って言ったの」
「お嫁さんじゃなくて?」
「うん、お姫様。おかしいよね、読み聞かせで白雪姫か何か読んだ後だったと思う」
「それなら納得」
「そしたらブン太、『の王子様は一生おれだけだろぃ?』なんて言ったのよ」
「うわあ、性格変わってねー」
「可愛いよね。まだ幼稚園だよ?たったの4,5歳でそんなこと言っちゃうの」
まる先輩なら納得っスよ、という赤也の髪が赤く染まって、もうすぐ部活が終わる時間だ。
赤也はちらちらと時計を見て、部活に出られなかったことを悔いているようだった。
後悔するなら罰当番受けるようなことしなきゃいいのに。
「まる先輩って小さいころからまる先輩だったんスね」
「そうなの。でね、約束したんだ」
ふと窓の外に目をやると、太陽が沈んでいくところだった。
図書室は夕日が真正面から差し込む場所だ。
ここでブン太を待っているのが一番すき。
ブン太の髪と同じ色の夕日でいっぱいになるから。
「18歳になったら結婚してくれるんだって」
「・・へえ・・・」
「あと1年だよ?学生でも良いのかな、それって有効なのかな。まだ、覚えてるかなあ」
「それ、もし本当にプロポーズされたらどうするんスか?」
「えー、受けるにきまってるよ。私はブン太のお姫様になりたいの」
「俺にはよくわかんね」
「赤也にもわかる日がくるよ、きっと。王子様になれたら良いね」
赤也は答えなかった。真っ赤な窓の外を見て、何を考えてるのかはわからない。
そのあとはどちらも口を開かず、ほんの十数分後には愛しいブン太が現れた。
赤也と何してたんだよ?なんて笑いながら、帰ろうぜ、と手を握る。
「おつかれさま。赤也ね、部活に出られなくてさみしかったって」
「自業自得だろぃ!明日はちゃんと来いよ、お前いないと退屈だから」
「当たり前っスよ。こんなのもうごめんっス」
こんなのっていうのは図書室の罰当番のことか、
それとも私のくだらない昔話のことか。
別にどっちでもよかったけど、なんとなく気になった。
ブン太と一緒に帰る帰り道に、そんなもやもやは置き去りにしてしまったけれど。