この先、自分たちと旅をしないか。そう言われてとても驚いた。
仲間ができるなんて、夢にも思わなかった。


03.再出発


「おいジジイ、本当に連れて行くつもりか」

の部屋を出た一行はジョセフの部屋に集まっていた。
彼女はすでにDIOに認識されており、スタンド能力により”生き返った”ということを知られている。だからここまでの道のりで敵に襲われることも1度や2度ではなく、そのたびに何度も死にながら進んできたという。このまま同じ目的地を目指すのなら、一緒に行かないかと声をかけてしまうのは当然のように思えた。

「目的地も同じ、DIOに認識され狙われているとなれば日本に帰しても無駄…それしかあるまい」
「私も同行には賛成だ」
「女の子がいた方がいいよな〜!結構可愛かったし、無防備だし」

最後のポルナレフは無視するとして、理屈としては一緒に行く以外にありえない。しかし、自分と承太郎は彼女と同世代。承太郎に至っては同級生だ。この先ホテルの部屋数がとれなかったり野宿したり、ほかにもいろいろあるだろう。そこに女性を1人いれるなんて、やっぱり承太郎も心配なんだな、と思ったら。

「確認しただけだ。異論はねえ」
「…承太郎!」

別に彼も反対しているわけではなかったらしい。気にしているのが自分だけとなると、自分が1番、その、そういうことを気にしているようで気に障るので、もう何も言わないことにした。



夕食前、一緒に食べようと言っていたが部屋からでてこないので、寝ているかもしれないが万が一ということもあるので…というジョースターの提案で花京院と承太郎はの部屋にきていた。コンコン、とノックを繰り返しても返事はない。あらかじめ受け取っておいた合鍵はあるが、年頃の女性が寝ているかもしれない部屋に踏み込むのは抵抗がある。どうしようか、と悩む僕と反対に、承太郎はあっさり「貸せ」と合鍵を奪い取るとさっさと扉を開いてしまった。

部屋に入って最初に思ったのは、「やってしまった」だった。慌てて目を逸らしたが、ずいぶんとひどい寝相のせいであらわになった白い身体がばっちりと見えてしまった。承太郎は何も気にしていないようで、おい、起きろ、とその体をゆすっている。ああもう、デリカシーも何もあったものじゃない。しかしそれを止めようとすれば自分も見てしまうことになるので、小さい声で「あ」とか「おい」とか言うしかできなかった。

「おい花京院、来てみろ」
「は!?何言ってるんだ、見損なったぞ!」
「ちげぇ」

チッ、という舌打ちは不機嫌な音だ。なんだよ、と恐る恐るそちらへ目を向けると、承太郎はなんとその足に手を触れていた。

「お、おい」
「傷跡だな」
「は…?」

なんだって、と覗き込めば、彼女のあらわになった両足、両腕には無数の傷跡が痛々しく残っていた。首筋や顔、額にも覚えのある傷跡はあり、「これを全部受けながら1人で来たのか」と呟く承太郎に100%の同意をした。男の自分たちだって「死ぬかと思った」と何度も思ったんだ。スタンドが使えるとはいえ、少女が1人でここまで来るのがどれだけ大変だっただろう。
守りたい、という気持ちが沸き上がったことに自分でも驚いた。承太郎はそんなことは思っていないかもしれないが、その傷跡に何かいろいろと思うところはあったらしい。

捲れ上がった服を下し下着を隠すと、「おい、おきろ」と再度声をかける。
やっと起き上がったは、承太郎と花京院、それから自分の乱れた衣服をみて、それはもう大きな声で叫んだ。



+



「し、失礼しました。本当に、ベッドなんて久しぶりで…」

寝ぐせも直らないまま走って来たに、後ろをゆっくり歩く承太郎と花京院。何事もないなら良かった、と笑うジョセフの様子にほっとしたようで、はもう一度頭を下げた。

「あ、これおいしいです!すごい、…あっこれも!ん〜、おいしい!」

すごくおいしそうに食べるに、ジョセフはとても嬉しそうだった。もっと食べろ、これはどうだ、これもおいしいぞと次々に出てくる料理を、は「おいしい」「すごい!」「ありがとうござます」「すっごくおいしい!」と次々と平らげていく。
とっくに食事を終えていたほかの者はその様子を黙って眺めていた。数時間前に頭を銃弾で撃ち抜かれ1度死に、そして過去の辛い思いを打ち明け泣きながら疲れて眠ってしまった少女とは思えない。
一度仲間だと思えばとことん自分を晒すタイプか。もともと人付き合いの良い人懐っこいタイプなのだろうか。しかし、それならなおさら、こんな戦いに巻き込まれてしまったことに憐れみを覚える。

ちゃん、と呼んでもいいかな?」

食事をする手をぴたりととめ、がジョセフを見る。ごくりと飲み込んでから、「はい」と返事をすると、は改まった話になるのかと膝に手を置いた。

「すまん、身構える必要はない。…あのな、これからはわしらは仲間だ。今まで1人で頑張ってきて、本当に心細かったと思う。でもこれからは、全員でDIOの館を目指そう。無理に気を使って明るくふるまう必要もないし、役に立つとか立たないとか、そういう意識も必要ない」
「…はい」
「つらいときは、いつだってつらいというんだよ」
「はい」

ありがとうございます。そういうの眼には、もう涙が浮かんでいた。こうしていると普通の女の子にしか見えない。その腹の内に復讐というどんよりとした魔物を飼っていても、という人間の根っこの部分はそのままであってほしいと思った。