私達はよく似ている。

いとこの仇討ちをきっかけにこの世界に入ったリゾット。親の仇討ちをきっかけにこの世界に入った私。一緒に入団試験を受けて一緒にスタンドが発現した。リゾットは向いているだろうと暗殺チームへ。私は諜報チームへと配置されたけど、それからも時間さえあれば時々都合をつけて2人で会った。

諜報チームも暗殺チームも、どちらもボスからの待遇はあまりよくなかった。近くに置きすぎると自分に不利に働く可能性が高いから仕方がないのかもしれないけど、ある程度の待遇をしてくれないと反抗心を煽るだけだって、ボスはわかってないんだろうか。

組織に不穏な空気が漂いはじめたころ、彼のチームにわざと偽の情報を流すことが増えた。そのたび本当の情報をこっそり流して訂正しているのが私だって、もしかしたらとっくに気づかれてしまっているのかもしれなかった。私に来る情報の質は圧倒的に落ちていたし、大切な仕事を任されなくなっていたから。

「助かる、が、本当に大丈夫なのか?」
「危険は承知のうえだよ」

生きててほしいから。リゾットに情報を流すなんていうかたちで自分の首を締めながらそういう私は滑稽だったかもしれない。リゾットもそう思ったよね。でも私たち似てるから、気持ちはわかってくれるよね。今日会えたのだって1ヶ月ぶりで、渡せた情報だってほんの少し、断片的なものでしかなかった。

いつからかわからないけど、お互いの命が今もまだ燃えているのか、それだけを確かめるみたいに身体を重ねた。最初はそこに愛なんてなかったかもしれない。でも今は、まだこうやって人を愛する気持ちを持てるんだって、人殺しなんかじゃなく私達は人間なんだって確かめるように触れ合ってる。この温度がなくなることは、自分が死ぬよりずっとこわい。

「リゾット、…本当にやるの?」
「ああ、俺達はこれ以上我慢するのはやめた」
「きっと、私が持ってるこの情報は最新じゃない。もうバレてるの、あなたに本当に渡ると困る情報は私にも降りてきていないんだよ」
「悪かったな、お前の立場も随分と危ういものにしてしまった」
「それはいいの、そんなことどうだっていいから生きて帰ってきてよ」

生きて帰ってきてなんて言うべきじゃないのかもしれないけど、声に出さないと本当に帰ってこないような気がしたんだ。身体が大きくて目つきが鋭くて低くお腹の底に響くような声をだすリゾットだけど、私には心を許しきっているように優しく笑う。

「約束しよう」

左手を取り上げられた。ゴツゴツと大きな手が、最近は情報整理しかしていなくてまったく日に焼けていない白い小さな手を包む。何、と聞くより前に、薬指を噛まれた。

「いっ……たい、何リゾッ、」

ガリ、と強く噛まれた指からは血が出た。でも抗議するより前に、私は指にある違和感に気づいた。冷たくて、硬い。固まった血のような赤黒い金属がある。まるで指輪みたいな。顔を上げたら口の端についた血を真っ赤な舌が舐める瞬間で、それは妙に艶かしく見えた。

「何のつもり…」
「本物は…今は渡せないからな」
「は、」

本物って。血液でできた指輪みたいなものが左手の薬指にあって、今は本物は用意できないなんていうのは、それはまるで。

「プロポーズみたい…」
「みたい、じゃあないんだが」
「バカ、バカじゃないのリゾット、こんなもの私達には」

そういうなら外せばいいのだ。指で掴んで、するりと抜き取ってしまえば。けれどそんなことはできなくって。こんな仕事をして、リゾットは直接、私も間接的に何人もの人間を殺していて、幸せになりたいなんておかしいよね。なのに泣きそうなくらいに嬉しかったんだ。

「必ず帰るから、待っていてほしい」

はいともいいえとも返事をする前に、リゾットの姿は消えた。返事なんか聞かなくたってわかるっていうんだろうか。なんて男。こんなものをはめて、私のこと縛っていくなんて悪い男だ。帰ってきたら、まずは最初に盛大な文句を言ってやろう。それから笑って、その手をとって、おかえりなさいって言えたら。



血の約束



それから数日して、仕事をしていたらふいに胸がざわりとした。嫌な予感っていうのかな、何かを本能が察して身体に教えてくれたような、そんなざわめき。指輪をしている手を握ってうずくまった。リゾット。頑張ってリゾット。お願いだから帰ってきて。

そんな私の願いが神様とかに届いて聞き入れられるなら、きっとリゾットは行かないで今頃私のとなりにいただろう。一層強い胸の痛みとともに手の中の硬い感覚がするりと失われて、私の両手は血で真っ赤に染まった。