もともと2018年のクリスマスは全員がでてくるながーい話を書こうとしていた残骸です。
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クリスマスパーティーがしたいなあ。そういったの言葉に、特に誰も返事をしなかった。
「ねえ!聞いてる?クリスマスパーティー、したいの!」
「へ〜」
今度はナランチャが、まったく心のこもっていない返事をした。の大きなため息がひとつ、無言のアジトに溶けた。
護衛チームの紅一点であるへの扱いは、基本的に雑である。ブチャラティとほとんど同時に組織に入りチームを組んだ関係で、ブチャラティとの絆はとても強い。そのあとに加入したフーゴ、アバッキオ、ナランチャ、ミスタ、ジョルノとも仲は良いはずだったが、みんななかなかとわいわいがやがや雑談を交わしたりはしたくないようだった。
「みんな、私のことほんっと嫌いだよね…ブチャラティがいないといつもこうだ…」
頭脳明晰、容姿端麗、仕事の失敗もない、唯一の女性、ちやほやする要素はこんなにあるのに。なんでみんなもっと私にべったり優しくしてくれないの?心の底から不思議だという顔をするに、そういうところだ、と言うのは無駄なことなので全員が心の中にしまいこんだ。
確かに本人の言う通りではあるのだが、それを自分で100%自覚していて態度に出すのではすべてが台無しだった。そういうところを一切気にしないで甘やかしなんでも話を聞くのはブチャラティだけだ。
「クリスマスがしたいんだけどな、みんなは嫌なのか。じゃあ暗殺チームのところに行こうかな。あっちはみんなのってくれそうだ」
ピクリ、とフーゴが顔を上げる。お、やきもちやいた?こっちでやる?そうにやにやした顔で言えば、フーゴはとたんにブちぎれた。
「ふざけんなよ誰がやきもちだド低能が!!!!」
ガン、と蹴り上げられたテーブルはにぶつかる寸前で止まり、倒れたまま床に落ちた。
「怒らないでよ、あと机も蹴らないで。怪我したらどうするの」
「知るかよ!!」
もう一度机を蹴った。はそれをあわてて避けると、もう本当にあっちに行くからね。今更さみしがっても遅いから!と言い捨ててアジトを出て行ってしまった。
「誰か引き止めてこいよ、まずいだろ」
「めんどくせぇ」
「ブチャラティのためですよ」
「…チッ」
めんどくさそうに言うミスタに、心の底からめんどくさそうなアバッキオ。しかし、ジョルノのセリフに重い腰を上げた。アバッキオはブチャラティのための労働ならどんな内容であれ躊躇わない。ジョルノにうまく扱われた気もしなくはないが、先日と同じことを言ったブチャラティのことを思い出しアジトを出て行った。
数日前。
「クリスマスパーティーをしようと思う」
そう言いだしたのはブチャラティだった。突然どうしたんだと言えば、昔と2人チームだったころにはクリスマスを2人で言わっていたのだという。無事に生きていることに、それから来年も無事に生きて行けるように。そういう儀式は、3人目の仲間が加わってからなくなっていたけれど、ブチャラティはずっとそれが心に引っ掛かっていた。はイベントごとが好きだ。クリスマスも、いつもとても楽しそうに雑誌をめくり良いお店を探し、おしゃれをしてまるでデートのようにふるまった。
「だから、その…彼女のために、してやりたい。できれば驚かせたいから、本人には内緒にしてもらえないだろうか」
ブチャラティの頼みなら。全員が同意して、協力を約束したのだった。
「ブチャラティはアイツのどこがそんなにいいんだ…」
を追いかけながらアバッキオはひとりごちた。そう、ブチャラティはあの自信家女のことが好きなのだ。あんな高飛車我儘女のどこがいいのかアバッキオには全然わからなかった。あんなに自信家で自分が一番、みたいな態度をとる女が、他メンバー全員が気づいているあからさまなブチャラティの好意に気づいていないところにも不信感しかない。明らかにあいつはおかしな女だ。
しかしブチャラティのためなので、サプライズのクリスマスパーティーを成功させるにはをクリスマスにアジトに置いておく必要がある。パーティーのことは伝えず、でも本人がパーティーを企画するのは阻止して。なんてめんどくさいんだ。小走りで暗殺チームのアジトを目指しながら、アバッキオはもう一度ため息をついた。
「おっじゃましまーす、リゾット〜今日もキラキラの目が綺麗だよ」
「そうか。鍵はどうした」
「私にとってあんな鍵は鍵とは言わないのよ」
「また壊したのか」
「ちょっと力を入れたら壊れたのよ、わざとじゃないわ」
無表情の中にイラつきが見えた。にこりと笑ってそのイラつきを抑え込んで(これがなんと有効なのだ)、ペッシが入れてくれたお茶を飲む。座っている席はさっきまでペッシが座っていたところだ。外は寒いので、少しでも温かいイスに座りたかった。
無人のソファに腰掛けたペッシは、背中から伝わる革張りの冷たさに背筋をピッとのばした。
「…というわけでね、クリスマスパーティがしたいわけよ。なのにうちのチームの子たちときたら、私の提案に返事もしないの。どう思う?酷いよね?リゾットたちなら絶対乗ってくれると思うんだけど…」
「そうだな」
「でしょ!?」
じゃあ暗殺チームでやろう!そう言って立ち上がったに、リゾットは無言で頷きペッシも目を輝かせて手を叩いた。ちなみに今アジトにはこの2人しかいなかった。でもこの2人の同意を得たということはもうほとんど決まったようなものだ。唯一堅苦しくしてくるプロシュートも、ペッシが楽しみにしているとなれば折れるしかないし。
「はあ、私お仕事暗殺に変えたいなあ。今だってやってること、護衛のために先行して敵地に行って道をあける、ってほとんど暗殺みたいなものなんだよ。それなら私がこっちに来てさ、そういう仕事を下してもらう、っていうのでもよくない?」
「うちとしては願ってもないことだが…ブチャラティが許さないだろう」
「そーなの!必要としてくれるのはブチャラティだけなんだよね。他の人はきっと、私がいなくなったらたぶん清々したとかいうんだよ…はあ、ひどすぎる」
「俺もが来てくれたら嬉しいぜ、姉貴って感じで」
「姉貴…!いいね、すぐに異動はできないけど今度からそう呼んでよ!」
姉貴ー!おう、ペッシィ。あはは、ちょっと兄貴に寄せた?似せてみた。似てた?結構!やったあ!その会話を、扉越しにアバッキオは聞いていた。暗殺チームとは時々同じ仕事に就くことがあるが、全員が無愛想でガタイが良く暗い雰囲気をまとっていてとっつきにくい。それがといるとこんなに明るく話すのか…も、あいつらとだとこんなに明るくはしゃぐのか。
もし自分たちの態度が冷たいせいで本当にが暗殺チームへの異動を考えた場合、それは叶うだろう。いつも自分で言うように、その能力の高さは本物だからだ。ボスの親衛隊への声がかかったこともある、と言ったのはブチャラティだったから、それも本当なのだろう。
自分たちの態度が冷たいせいでがブチャラティのチームを去ったら、それは俺たちのせいだ。
ペッシとはしゃいでいたが、すっと無表情になる。リゾットもソファを立ち上がった。状況がわからないのはペッシだけで、2人の急な雰囲気の変化におろおろしている。
「リゾット」
「ああ、1人いるな」
「…メタリカ待って。この気配は」
考え込んでいると、バッと扉が開いた。思わず後ずさる。アバッキオを冷たい目で見下ろしているのはとリゾットで、気配は完全に消したつもりだったのに気づかれていたことに冷や汗がでた。
「何しに来たのよ、帰りなさいよ。他のチームのアジトの前にずっと立ってるなんて殺されても文句言えないわよ」
「…お前を連れ戻しに来たんだよ」
「ほとんどそっちが追い出したようなものなのに。私今日は帰らないから、みんなにもそう言っといて。じゃあね」
閉められそうになった扉に足を挟んで止めた。何よ、と下からにらみあげる視線には自分よりずっとキャリアのあるギャングの迫力があり少しひるみそうになる。
「おめーみたいな役立たずでも、勝手に出て行かれると困るっつてんだ」
「口をはさむようで悪いが…」
口を開いたのはの背後に立つリゾットだった。
「そちらでが役立たずだというなら、こちらはぜひが欲しいと思っている。考慮しておいてくれ」
ガツ、と勢いよく蹴り返された足が扉から離れて、目の前でパタンと閉じた。
「リ、リゾットかっこいい…!プロポーズされた気分だ!」
「…ブチャラティが何か噛んでいるのではないか?」
「え?」
突然なんなんだ。が目を丸くした。
「あいつ…アバッキオはお前をそれほど好いてはいないだろう。…気を悪くしたらすまない。しかし、それでも追ってきたということはあいつは本当にお前がいないと困るらしい。そうなる理由は、ブチャラティしかないんじゃないのか」
「ああー……なるほど?」
少し考えてみる。私がクリスマスパーティーをしたいと言ったのは、先週ブチャラティと2人で食事をしたのがきっかけだった。2人きりは随分と久しぶりだね、と言いながら食事をして、夜景を見て、それから仲間も随分と増えたよね、と話した。最初は2人しかいなくて、2人じゃ無理だー!っていう仕事を振られて傷だらけのボロボロになったり、もう死んじゃう!って思いを何度もしたよね、って、そんな話だ。
夜景の中に見えるライトアップされた大きな木を見て、そういえば、最初の2年間、2人きりだったころはクリスマスを祝っていたよねと言い出したのはだった。あのころは、毎日生きていることが奇跡みたいで、これから2人で生きて行くんだっていう気持ちで、それを誓い合い再確認する、そんな意味のあるクリスマスだった。
人が増えてからはやらなくなったけれど、たまにはやりたい気がするなあ。は今でもクリスマスがしたいのか?うーん、やりたい気もする。そんな会話をした気がする。
「もしかして、私がクリスマスやりたくなったって言ったから、ブチャラティが企画したのかも」
「なるほどな」
「それが秘密なんじゃない?だから私の提案にはのれないけど、私が当日にいないのは困るのよ」
「…答えのようだな」
その会話をきいて、ペッシが少しだけしょんぼりとした。そういうことなら、は護衛チームでクリスマスを過ごすと思ったのだろう。さっきまで喜んでいただけに、そのしゅんとした顔はの罪悪感をチクリと刺した。
「ごめんねペッシ……あ、そ、そうだ!じゃあさ、今日やらない!?何も当日しかやっちゃいけないわけじゃあないし、1回しかやっちゃいけないわけじゃないんだからさ!みんな今日中には片付く仕事ばっかりだよね?今から3人で用意して、どうだろ。今夜はここに泊まるから!」
名案だ!と立ち上がったに、ペッシは再び目を輝かせた。
「…ちょうど良いところに、明日は全員が休みだ」
「ベネベネベネ!じゃあ、突発フライングクリスマスパーティー、準備はじめよー!」
「おー!!」
私にのっとって拳をあげたペッシは可愛いし、声は出さず拳だけは上げてくれたリゾットもとってもかわいかった。暗殺チームは私に甘くて良いね。大好きだ!
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このあとみんなでわいわいクリスマスやって護衛チームはそわそわおろおろして、ブチャラティが「今日ははいないのか?」とかいうのでアバッキオがうろたえたりなどして、でも次の日には帰って来ていつも通りの生活をしつつクリスマス当日はブチャラティ主催のクリスマスパーティーが執り行われる…というのまで書こうと思って、力尽きて個別になりました。
読み返したらやっぱりこれも好きだったのであげておきます。
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クリスマスパーティーがしたいなあ。そういったの言葉に、特に誰も返事をしなかった。
「ねえ!聞いてる?クリスマスパーティー、したいの!」
「へ〜」
今度はナランチャが、まったく心のこもっていない返事をした。の大きなため息がひとつ、無言のアジトに溶けた。
護衛チームの紅一点であるへの扱いは、基本的に雑である。ブチャラティとほとんど同時に組織に入りチームを組んだ関係で、ブチャラティとの絆はとても強い。そのあとに加入したフーゴ、アバッキオ、ナランチャ、ミスタ、ジョルノとも仲は良いはずだったが、みんななかなかとわいわいがやがや雑談を交わしたりはしたくないようだった。
「みんな、私のことほんっと嫌いだよね…ブチャラティがいないといつもこうだ…」
頭脳明晰、容姿端麗、仕事の失敗もない、唯一の女性、ちやほやする要素はこんなにあるのに。なんでみんなもっと私にべったり優しくしてくれないの?心の底から不思議だという顔をするに、そういうところだ、と言うのは無駄なことなので全員が心の中にしまいこんだ。
確かに本人の言う通りではあるのだが、それを自分で100%自覚していて態度に出すのではすべてが台無しだった。そういうところを一切気にしないで甘やかしなんでも話を聞くのはブチャラティだけだ。
「クリスマスがしたいんだけどな、みんなは嫌なのか。じゃあ暗殺チームのところに行こうかな。あっちはみんなのってくれそうだ」
ピクリ、とフーゴが顔を上げる。お、やきもちやいた?こっちでやる?そうにやにやした顔で言えば、フーゴはとたんにブちぎれた。
「ふざけんなよ誰がやきもちだド低能が!!!!」
ガン、と蹴り上げられたテーブルはにぶつかる寸前で止まり、倒れたまま床に落ちた。
「怒らないでよ、あと机も蹴らないで。怪我したらどうするの」
「知るかよ!!」
もう一度机を蹴った。はそれをあわてて避けると、もう本当にあっちに行くからね。今更さみしがっても遅いから!と言い捨ててアジトを出て行ってしまった。
「誰か引き止めてこいよ、まずいだろ」
「めんどくせぇ」
「ブチャラティのためですよ」
「…チッ」
めんどくさそうに言うミスタに、心の底からめんどくさそうなアバッキオ。しかし、ジョルノのセリフに重い腰を上げた。アバッキオはブチャラティのための労働ならどんな内容であれ躊躇わない。ジョルノにうまく扱われた気もしなくはないが、先日と同じことを言ったブチャラティのことを思い出しアジトを出て行った。
数日前。
「クリスマスパーティーをしようと思う」
そう言いだしたのはブチャラティだった。突然どうしたんだと言えば、昔と2人チームだったころにはクリスマスを2人で言わっていたのだという。無事に生きていることに、それから来年も無事に生きて行けるように。そういう儀式は、3人目の仲間が加わってからなくなっていたけれど、ブチャラティはずっとそれが心に引っ掛かっていた。はイベントごとが好きだ。クリスマスも、いつもとても楽しそうに雑誌をめくり良いお店を探し、おしゃれをしてまるでデートのようにふるまった。
「だから、その…彼女のために、してやりたい。できれば驚かせたいから、本人には内緒にしてもらえないだろうか」
ブチャラティの頼みなら。全員が同意して、協力を約束したのだった。
「ブチャラティはアイツのどこがそんなにいいんだ…」
を追いかけながらアバッキオはひとりごちた。そう、ブチャラティはあの自信家女のことが好きなのだ。あんな高飛車我儘女のどこがいいのかアバッキオには全然わからなかった。あんなに自信家で自分が一番、みたいな態度をとる女が、他メンバー全員が気づいているあからさまなブチャラティの好意に気づいていないところにも不信感しかない。明らかにあいつはおかしな女だ。
しかしブチャラティのためなので、サプライズのクリスマスパーティーを成功させるにはをクリスマスにアジトに置いておく必要がある。パーティーのことは伝えず、でも本人がパーティーを企画するのは阻止して。なんてめんどくさいんだ。小走りで暗殺チームのアジトを目指しながら、アバッキオはもう一度ため息をついた。
「おっじゃましまーす、リゾット〜今日もキラキラの目が綺麗だよ」
「そうか。鍵はどうした」
「私にとってあんな鍵は鍵とは言わないのよ」
「また壊したのか」
「ちょっと力を入れたら壊れたのよ、わざとじゃないわ」
無表情の中にイラつきが見えた。にこりと笑ってそのイラつきを抑え込んで(これがなんと有効なのだ)、ペッシが入れてくれたお茶を飲む。座っている席はさっきまでペッシが座っていたところだ。外は寒いので、少しでも温かいイスに座りたかった。
無人のソファに腰掛けたペッシは、背中から伝わる革張りの冷たさに背筋をピッとのばした。
「…というわけでね、クリスマスパーティがしたいわけよ。なのにうちのチームの子たちときたら、私の提案に返事もしないの。どう思う?酷いよね?リゾットたちなら絶対乗ってくれると思うんだけど…」
「そうだな」
「でしょ!?」
じゃあ暗殺チームでやろう!そう言って立ち上がったに、リゾットは無言で頷きペッシも目を輝かせて手を叩いた。ちなみに今アジトにはこの2人しかいなかった。でもこの2人の同意を得たということはもうほとんど決まったようなものだ。唯一堅苦しくしてくるプロシュートも、ペッシが楽しみにしているとなれば折れるしかないし。
「はあ、私お仕事暗殺に変えたいなあ。今だってやってること、護衛のために先行して敵地に行って道をあける、ってほとんど暗殺みたいなものなんだよ。それなら私がこっちに来てさ、そういう仕事を下してもらう、っていうのでもよくない?」
「うちとしては願ってもないことだが…ブチャラティが許さないだろう」
「そーなの!必要としてくれるのはブチャラティだけなんだよね。他の人はきっと、私がいなくなったらたぶん清々したとかいうんだよ…はあ、ひどすぎる」
「俺もが来てくれたら嬉しいぜ、姉貴って感じで」
「姉貴…!いいね、すぐに異動はできないけど今度からそう呼んでよ!」
姉貴ー!おう、ペッシィ。あはは、ちょっと兄貴に寄せた?似せてみた。似てた?結構!やったあ!その会話を、扉越しにアバッキオは聞いていた。暗殺チームとは時々同じ仕事に就くことがあるが、全員が無愛想でガタイが良く暗い雰囲気をまとっていてとっつきにくい。それがといるとこんなに明るく話すのか…も、あいつらとだとこんなに明るくはしゃぐのか。
もし自分たちの態度が冷たいせいで本当にが暗殺チームへの異動を考えた場合、それは叶うだろう。いつも自分で言うように、その能力の高さは本物だからだ。ボスの親衛隊への声がかかったこともある、と言ったのはブチャラティだったから、それも本当なのだろう。
自分たちの態度が冷たいせいでがブチャラティのチームを去ったら、それは俺たちのせいだ。
ペッシとはしゃいでいたが、すっと無表情になる。リゾットもソファを立ち上がった。状況がわからないのはペッシだけで、2人の急な雰囲気の変化におろおろしている。
「リゾット」
「ああ、1人いるな」
「…メタリカ待って。この気配は」
考え込んでいると、バッと扉が開いた。思わず後ずさる。アバッキオを冷たい目で見下ろしているのはとリゾットで、気配は完全に消したつもりだったのに気づかれていたことに冷や汗がでた。
「何しに来たのよ、帰りなさいよ。他のチームのアジトの前にずっと立ってるなんて殺されても文句言えないわよ」
「…お前を連れ戻しに来たんだよ」
「ほとんどそっちが追い出したようなものなのに。私今日は帰らないから、みんなにもそう言っといて。じゃあね」
閉められそうになった扉に足を挟んで止めた。何よ、と下からにらみあげる視線には自分よりずっとキャリアのあるギャングの迫力があり少しひるみそうになる。
「おめーみたいな役立たずでも、勝手に出て行かれると困るっつてんだ」
「口をはさむようで悪いが…」
口を開いたのはの背後に立つリゾットだった。
「そちらでが役立たずだというなら、こちらはぜひが欲しいと思っている。考慮しておいてくれ」
ガツ、と勢いよく蹴り返された足が扉から離れて、目の前でパタンと閉じた。
「リ、リゾットかっこいい…!プロポーズされた気分だ!」
「…ブチャラティが何か噛んでいるのではないか?」
「え?」
突然なんなんだ。が目を丸くした。
「あいつ…アバッキオはお前をそれほど好いてはいないだろう。…気を悪くしたらすまない。しかし、それでも追ってきたということはあいつは本当にお前がいないと困るらしい。そうなる理由は、ブチャラティしかないんじゃないのか」
「ああー……なるほど?」
少し考えてみる。私がクリスマスパーティーをしたいと言ったのは、先週ブチャラティと2人で食事をしたのがきっかけだった。2人きりは随分と久しぶりだね、と言いながら食事をして、夜景を見て、それから仲間も随分と増えたよね、と話した。最初は2人しかいなくて、2人じゃ無理だー!っていう仕事を振られて傷だらけのボロボロになったり、もう死んじゃう!って思いを何度もしたよね、って、そんな話だ。
夜景の中に見えるライトアップされた大きな木を見て、そういえば、最初の2年間、2人きりだったころはクリスマスを祝っていたよねと言い出したのはだった。あのころは、毎日生きていることが奇跡みたいで、これから2人で生きて行くんだっていう気持ちで、それを誓い合い再確認する、そんな意味のあるクリスマスだった。
人が増えてからはやらなくなったけれど、たまにはやりたい気がするなあ。は今でもクリスマスがしたいのか?うーん、やりたい気もする。そんな会話をした気がする。
「もしかして、私がクリスマスやりたくなったって言ったから、ブチャラティが企画したのかも」
「なるほどな」
「それが秘密なんじゃない?だから私の提案にはのれないけど、私が当日にいないのは困るのよ」
「…答えのようだな」
その会話をきいて、ペッシが少しだけしょんぼりとした。そういうことなら、は護衛チームでクリスマスを過ごすと思ったのだろう。さっきまで喜んでいただけに、そのしゅんとした顔はの罪悪感をチクリと刺した。
「ごめんねペッシ……あ、そ、そうだ!じゃあさ、今日やらない!?何も当日しかやっちゃいけないわけじゃあないし、1回しかやっちゃいけないわけじゃないんだからさ!みんな今日中には片付く仕事ばっかりだよね?今から3人で用意して、どうだろ。今夜はここに泊まるから!」
名案だ!と立ち上がったに、ペッシは再び目を輝かせた。
「…ちょうど良いところに、明日は全員が休みだ」
「ベネベネベネ!じゃあ、突発フライングクリスマスパーティー、準備はじめよー!」
「おー!!」
私にのっとって拳をあげたペッシは可愛いし、声は出さず拳だけは上げてくれたリゾットもとってもかわいかった。暗殺チームは私に甘くて良いね。大好きだ!
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このあとみんなでわいわいクリスマスやって護衛チームはそわそわおろおろして、ブチャラティが「今日ははいないのか?」とかいうのでアバッキオがうろたえたりなどして、でも次の日には帰って来ていつも通りの生活をしつつクリスマス当日はブチャラティ主催のクリスマスパーティーが執り行われる…というのまで書こうと思って、力尽きて個別になりました。
読み返したらやっぱりこれも好きだったのであげておきます。