ソルベとジェラートの死体がアジトに届けられた。それはボスの正体をこっそり探っていた2人への粛清と、それから暗殺チームへの無言の脅迫だった。現状を打破しようと行動するのをやめ、冷遇されることを受け入れ、ただ黙って仕事をするしかない。そうメンバーが苦々しい顔をしていた時、アジトのチャイムが鳴った。

「…誰だ」

死体となっているソルベとジェラートを除くチーム全員がアジトにいる。それぞれが武器やスタンドを構えて警戒する中、扉に最も近かったホルマジオが扉をあけた。

「パッショーネ、暗殺チームの方々ですね。ソルベとジェラートのことについて、お話があります」

その瞬間、首筋にナイフが突きつけられる。無残な遺体を見つけたその日に、その2人について話に来る人間を警戒しないわけがなかった。しかし、訪問者は顔色一つ変えずにつづけた。

「私は。個人で仕事を請け負っていたアサシーノです。その2人とここ数日行動を共にしていました。俺たちに何かあったら、とこの場所の住所と自分たちの名前、所属を教えていただいていたので来たんですけど…嘘か本当かは置いておいても、情報は欲しいんじゃないですか?」

リゾットはその様子にほんの少しだけ表情を動かしたが、それに気づいたものはいなかった。

「私は、私の客をことごとく奪い取りルートを潰していくそちらのボスをぶっ殺してやりたくて素性を探っていたのですが、途中でソルベとジェラートに出会って3人で行動を…。あの、信じてもらえないと思うし、なんならそれをやったのが私かもしれないくらいに思っていると思うんですけど、違うんです。本当に…なんて言って信じてもらったらいいのかなあ。うーん」

別に悩んでいないのがまるわかりの女の様子に、メンバーはいら立ちを隠しもしなかった。その雰囲気をしっかり感じ取っているくせに、ギアッチョの冷気が足元からじわじわと迫っているだろうに、女は続ける。

「3人でつかまったんですけど、2人が私のこと放り投げて逃がしてくれたんですよね。そのせいで余計逆鱗に触れたって言うか…つまりその粛清、私のせいでもあるんですよね。せめて最後にお礼と、2人の遺言にのっとって2人の力をいただきに来たんんです」

わかってもらえました?と張り付けたテンプレートのような笑顔を見せた。そんな笑顔に何の意味もない。誰も何も言わないので、女は明らかにめんどくさそうに顔をゆがめてから、1冊の本をリゾットの足元に放り投げた。

「…2人がアジトを出てからボスの素性を探りながら書いた日記です。私も書いていますけど、筆跡くらいはわかるんじゃないですか。2人の死体に会いたいだけなんです。そうしたら私はここを去りますし、また1人であなたたちのボスを探します」

それとも、あなたたち全員でかかって私に勝てないかもしれないなんて思ってるの?と少しだけ長髪してみると、意外にもその長髪にのせられたというわけでもなさそうにアジトに踏み入ることを許された。何かあれば即殺す、というじっとりまとわりつく空気と一緒に。

輪切りにされたソルベと、猿轡を飲み込んだジェラート。その傍らに膝をついた少女の目には確かに2人を思う気持ちはあるようで、全員が無言のままその様子を見つめる。

「ソルベ、ジェラート、ごめんね。ありがとう…」

死体に手をかざすと、の全身が淡く光った。スタンドか。

「ソルベ、私のこと、守ってくれてありがとう。あなたのおかげで、これからも戦えるよ。…だから、この子はもらっていくね。おいで、"chiaroveggenza"」

「ジェラート、私のこと、信じて一緒にいてくれてありがとう。絶対に仇はうつからね。おいで、"ミラージュ・フチーレ"」

2人の身体から飛び出したスタンドが、の身体に吸い込まれるように消えて行った。

「てめえ、今なにした!」
「2人のスタンドを抜き取りました」

「私のスタンドです。攻撃力も射程もスピードも何もないけど、死体からスタンドを抜き取って自分のものにすることができます。一度に発現可能なスタンドは2体までですけど、ひっこめれば別のスタンドを出すことができる。戦うなら戦いますけど、私が過去に抜き取ったスタンドの数とその種類、能力がなんにもわからないんじゃあきっとあなたたちに勝ち目はないですよ」

「その手紙読んでください。ソルベとジェラートが、自分たちに万が一があったとき、もし死体が残っているのなら自分たちのスタンドを持って行ってくれと。…何度でも言いますけど、信じてくれないなら信じてくれなくってもいいですよ。そのくらい簡単に偽造できますしね。ソルベとジェラートのスタンドはもらえたし、私はもう帰ります。2人が命がけで手に入れてくれたボスの名前、無駄にしたくありませんから」

「…ボスの名前、だと?」

「2人の優秀さはお仲間のあなたたちがよくわかっているんじゃないんですか?つかるまでに何の情報も得られなかったわけ、ないじゃないですか。でもこれは私たち3人の成果だし、あなたたちと私は協力関係にはならないし、失礼しますね」

「アジトの仲間で入り込んで逃げられると思わないことだな」

「私を捕まえられると思わないことです。あなたたちのスタンド能力、私は知ってるのよ」

ひらりと軽いステップでリトルフィートを避けて、ホワイトアルバムから繰り出された氷を炎で融解する。ソファに燃え移った炎が天井に着くほどの勢いで燃えて、それからプロシュートのグレイトフルデッドの煙を炎ごとカマイタチのような水で霧散させた。壁に背をつけてそこから距離を置く。その瞬間、喉からせり上げる痛みに表情を歪めて咳き込んだ。喉から出てくるのはカミソリの刃だ。咳き込みながら、誰の目にもとまらない瞬間移動のような速さでリゾットとの間にメンバーを挟む場所に移動した。それはメタリカの能力を正確に把握している動きだ。

「もう、あなたたちに危害を加える気なんてないんだってば…。女の子相手に寄ってたかって酷いわ、怪我したらどうするのよ。次に会ったら覚えてなさいよ」

そう、負け犬のような捨て台詞を吐いて女は一瞬でその場から消えた。

「消えた!?」
「どこへ行った?」
「もう気配はないが…」

「チッ、なんなんだアイツは!」

「あ、兄貴…」
「なんだペッシ」
「ソルベとジェラートの顔が…」

見ると、恐怖に見開かれていた2人の瞼は閉じ穏やかな表情に代わっていた。

「…悪い奴じゃあないのかもしれませんね」
「ハッ、マンモーニが。絆されてんじゃねェ」










(続かない)